俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

横浜駅で「ラーメンを食いませんか?」とナンパしてみた。




17:00

腹が減ったので横浜駅にラーメンを食いに行こうと思った。
眼鏡をかけ、適当なジャケットを羽織り、外に出た。

駅に向かうと、足早に歩く綺麗な女の子がたくさんいた。
この子たち全てが、俺に声をかけられるのを待っているような気がした。

「日常にナンパを取り込む」

どこかで読んだナンパ本に書いて合った話だ。
なんでもない普段の生活で、さりげなくナンパする。

それができれば、日々を効率的に生きることができるだろう。


髪はボサボサ。
服は適当。
眼鏡。


コンディションは最悪だ。

でも、言い訳はできない。
やるからには、結果を出さないと。

俺は30分だけ自分にナンパを許した。

目標は、ラーメン屋に連れ出すこと。
俺はどうしても、駅前の味噌ラーメンが食いたいんだ。


17:10

目の前には溢れんばかりのターゲットがいた。
今日の連れ出し先は決まっている。
ゴールは駅前のラーメン屋だ。

そして、ラーメンが嫌いな人類は存在しない。

作戦が決まった。

ルーティーン「ラーメンどれが好き?」だ。


ターゲットを物色していると、ラーメン屋の近くのデパートに、雑貨屋があるのを見つけた。

ここは絶対に使える・・・と直感的に思った。
雑貨を見ている女の子にはごく自然に話しかけることができる。

その雑貨屋の名前は、東急ハンズだった。

ルーティーン「東急ハンズ」から「ラーメンどれが好き」につなげる流れを頭に思い浮かべた。
デパートのエレベータは1列になっていて、自分の前の方に綺麗な女の子を見つけた。

最初の声掛けのターゲットをこの子に決めた。


ハンズの階に着くと、女の子は雑貨に目もくれず、フラフラと非常階段の方に歩いて行った。


こいつは頭がおかしいのか・・・?

一抹の不安がよぎる。

女はそのままトイレに入っていった。
トイレの前には監視カメラがついていた。

俺は反射的に身を隠し、逃げるように立ち去った。


他にもたくさんの女の子がハンズの中を歩いていた。
前方にゆっくりと歩く赤い服を着た女の子を見つけた。

「まるでサンタみたいだね」

と声をかけようかと思った。

少しずつ距離を詰める。
あと5秒で、声掛けの発動だ。

・・・と思った時に、女はクルリと踵を返し、こちらに向かってきた。

ハンズの中を歩いてわかったことは、ショッピング中の女の行動は本当に予測不可能だということだった。

ウォール街のランダム・ウォーカーよろしく、そのうちムーンウォークもし出すんじゃないかというくらい、予測不可能な動きをする。


こいつらはなんでこんなに暇そうなんだ?

目的を持って主体的に歩くことはできないのか?


暇そうにナンパをしながら俺は思った。

犬のおもちゃコーナーに一人の女がいた。
入念におもちゃを選んでいる。

さりげなく横に並ぶ。


「年末に地元に帰省するときに、犬にプレゼントを買おうと思うんですけど、何買ったら犬って喜びますかね?」

「うちの犬、口が臭いんですけど、これ、噛んだら臭いなくなるってヤツですかね?w」

話しながら、実家の可愛い犬を思い浮かべて心が傷んだ。
大丈夫、お前の口は臭くないよ。

女はこちらを向き、楽しそうに、

「うーん、どうですかねぇ。私も選んでるですけど、何がいいですかねぇ」

と答えた。

IOIを感じた。
でも、顔が好みではなかった。

3分くらい雑談して放流した。
ルーティーン「どのラーメンが好き?」は発射せずに終わった。

他にも、クリスマスプレゼントを選ぶ風の女の子に声をかけてみたり、この時期の雑貨屋は声掛けの宝石箱のような気がした。

あらゆる口実が、ごく自然に、当たり前に作れてしまう。
とはいっても、ランダム・ウォーカーに翻弄され、声掛け数は2。オープンも2で終わった。

顔を覗き込むわけにはいかないので、声をかけたあとに放流する必要があった。



17:30

もう時間がない。
自分に課した制限時間はもう終わろうとしていた。

エレベーターを降りている時に、可愛らしいグレーのコートを着た女の子を見つけた。
次のターゲットはこの子だ。

ルーティーン「君は絶対ラーメンが好き」の発動だった。


ターゲットの隣に並び、声をかける。

「あの、お姉さんの見た目的に絶対そうだって思ったんですけど」


「お姉さん、絶対ラーメン好きですよね?」


女の子はクスリと笑った。
オープンした。

そもそも、ラーメンが嫌いな人間がいるはずがない。
俺はこのオープナーの自信を確固たるものにした。


「はい(笑)ラーメン好きです」

「やっぱり、お姉さんの顔、絶対ラーメンっぽいって思ったもんw」

「ひどーいw」

「いや、褒め言葉だよ?ラーメン嫌いな人間いないからね」

ひどいと言いながら、どこか嬉しそうだった。

「俺、今からラーメン食いに行くんだけど、一緒にラーメン行かない?味噌と醤油と塩、どれが好き?」

ダブルバインドを仕掛けるつもりが、ミスった。
君の潮ラーメンを食べたいというのに。


「いまご飯食べてきたばっかりなんですよー」


お腹いっぱいグダだった。
ラーメンはたしかにうまいが、二杯目に食うのはさすがに重すぎる。


「やっぱり!俺もそうだと思った!わかった、俺も今、ラーメン食べた!お腹いっぱい!

で、食後のコーヒーとか行きたくない?」


「さっきコーヒー飲んだw」

「いやいや、お姉さんが飲んだのってただのコーヒーでしょ?俺は只者じゃないコーヒー知ってるから!日本最先端の・・・・」

毎回同じパターンの会話だった。
このルーティーンで連れ出せたことはない。

「日本最先端の、スターバックス」

女はクスリと笑った。

このルーティーンで笑わない女の子もいない。
こんな有名なルーティーンだけど、本当に初めて聞いたんだろうか?

ルーティーン「日本最先端のカフェ・スターバックス」

「用事があって急いでいるの」

ホームに向かうこの子を引き止めることはできなかった。
俺の空腹は限界に来ていた。
身体がラーメンを欲していた。


女と別れ、振り返ると、そこにはたくさんのターゲットがいた。

ラーメン・ルーティーンだけを使い、二人ほど声掛けしたところで時間切れとなった。

結果として、ラーメンが好きな女は3人中2人で、たった一人だけ、ラーメンが嫌いな女がいた。ラーメンが嫌いな女に用などないのだ。


【結果】
声掛け:5人
ラーメン好きな女の子:3人中2人
連れ出し:0人

味噌ラーメン:ゲット

【考察】
ラーメンを嫌いな人はいない。
意地でもラーメンを食ってやるという意気込みが、今回の結果につながったといえる。
本当に美味しかった。

ごちそうさまでした。


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