俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

六本木のクラブV2でナンパしてみた。

0:30 六本木

「俺とコンビを組もう。クラブに行こう」

リアルな友達に言われて、一緒にクラブに行くことになった。

「お前とのコンビだったら、俺は結果を残せる気がするんだ」

彼は電話で言った。

23時に六本木で待ち合わせをしようと言い、電話を切った。

23時の六本木に、彼はいなかった。

「どうした?」

「テンションが上がりすぎて、寝坊した」

0時30分。
相棒はゴメンと言いながら、六本木の街に現れた。


俺はコンビの先行きに若干の不安を覚えつつも、今夜のゲームの始まりに、胸の高鳴りを隠せない。

冬の六本木の冷たい空気を吸い、ナンパ師なら誰もが知ってる「あの言葉」を頭に思い浮かべた。



「さあ、今夜もゲームの始まりだ」



1:00 某箱

久しぶりに行ったクラブはパラダイスだった。
面白いように番ゲが進む。

次から次へと和み、LINEを交換し、放流する。
どの案件も食い付きがあるように見えた。

でも、連れ出しを打診するには早すぎた。

何度も同じ言葉をささやく。


「ねぇ、一瞬見て思ったんだけど」

女が耳を寄せる。

「今日のクラブで一番可愛いよね」

声掛けはほぼこのパターンだった。

どの女性も、いやーチャラいーと言いながら嬉しそうにしていた。

クラブを心から楽しんでいた。
こういうときのナンパは強い。

今夜は勝てる気がした。



2:00

中の上~上の下くらいの女の子から強いIOIを感じた。
身体の距離が近い。

ナンパ師の勘が言っていた。

「今日はこの子を即れる」

二人で和み始めたところで、コンビで来ていた友人は言った。


「その子を放流してくれ」


何か案件が見つかったのかと思い、了承した。

「ちょっと友達が他行きたいって言うから行ってくる」

強いIOIを感じる子を放流。
即系の匂い。

周りに海賊がたくさんいる中で、宝石を捨てるような思いでその場を後にした。
とても名残惜しかった。他のナンパ師に即られてしまうかもしれない。


「どうした?何があった?」

俺は相棒に尋ねた。

なぜ和みを中断させたのか、理由が知りたかった。

「コンビで来てるのに、片方だけが美味しい思いをするのはダメだ」

と彼は言った。


「時間ギリギリまでコンビで連れ出しを狙い、
即系がいるなら、一旦コンビを解消してからどっちがゲットできるか競争しよう。
一緒にスタートしないと、フェアじゃない。平等にやろう」

一瞬何を言っているのかわからなかった。

「俺は、コンビで来てるのに、片方だけが可愛い子とくっつくのが許せないんだ」

彼は真剣な目で言った。
目の前が暗くなるような気がした。

二人を同時に仕上げるのは一人を仕上げるより難しい。
そして、相棒はおそらく、口下手だった。

それでも、俺の中のルールは変わらない。


・どんなときも、友達を優先せよ

・女のために、男友達を裏切ってはならない


心に誓ったルールを振り返り、顔を上げる。


「OK。わかったよ。悪かった。二人同時に行こう。俺だけが持ち帰っちゃダメだもんな」

こう言うと、彼は無邪気に嬉しそうにした。
それを見て俺も安心した。


コンビのあり方。
コンビの数だけルールがあると思う。

俺はコンビを組むなら、相棒が結果を残すためにサポートするのもアリだと思っていた。
たとえば、ブスと美女の二人組がいて、相棒が美女と和む。
そして、ブスが邪魔をしてくるときは、そこでブスをセパレートして、相棒が結果を残す。

それでも全然いいと思っていた。
友達が結果を残したら俺は嬉しいし、俺が結果を残せたら次回はサポートに回る。
お互いが足りないものを補完しあって、チームの結果を最大化する。
それはスポーツチームのあり方と似ていると思う。

全ての選手がフォワードってわけじゃない。
点を取る人も入れば、パスを出す人もいる。
お互い足りないもの補完しあって、良いところを伸ばすために、チームはある。

でも、昨日のリア友の場合は違った。

「自分がサポートに回るのは絶対に嫌だ」という強い意志を感じた。
スポーツに例えると、自分が点を取らないと気が済まないということだ。

こうなると、

・どちらもサポートしない(=同時に行く)
・俺が彼をサポートする

のどちらかしかやり方はなく、さらに、

・俺が一人で和むのは許さない

という条件が加えられる。

一緒に点を取るやり方じゃないと、点を取るもの許さないということだ。


「やれやれ」

と溜息をつき、村上春樹を読みながら家に帰りたくなったが、乗った勝負は仕方ない。

「やるしかない」

言い訳をしないで、結果を残さなければならない。


箱はピークタイムを迎えていた。


3:00
何声掛けかしたが、「二人同時」の制約は厳しく、なかなか思うようなIOIは得られなかった。
声掛けしているうちに、かすかな違和感を感じた。

そのときは、違和感の正体に気付かなかった。

部活をやっていたときみたいに、チームのために自分のできることをやろうと思った。
でもその違和感のせいで、俺はクラブを楽しむことができなくなっていた。

箱の中を歩く。

一度食い付いて来た案件が、はぐれた友達を見つけて二人組になっていた。
あれに行こう。それなら一石二鳥だ。俺に食い付きのあった案件も落とせるし、もう一人の友達もまぁまぁ可愛い。

俺は二人組のうち、既に和んでいた一人に声をかけた。

「一緒に飲みいこ」

「いいよ」

飲み連れ出しはあっさり受諾された。
あとは、片方を相棒が仕上げてくれれば、念願の連れ出しは叶う。

キスしながら二人でドリンクを飲み、相棒の結果を待った。

でも、周囲を見渡して、相棒の存在を探したが、見つからなかった。

10分後くらいに、相棒が現れて俺の耳元で言った。


「放流してくれ」


意味がわからなかった。

相棒は、女の片割れをまったく口説きもしていなかった。
何がしたいんだろう?

俺は非常に気まずい思いをしながら、食い付きがある案件の二回目の放流をした。

「ごめん、ちょっと行ってくる」

もうこの案件はないな、と思った。
短時間で二回の放流をしてしまったからだ。
さすがに失礼すぎるだろう。

それにしても、相棒は何を考えているんだろう?
コンビ連れ出しがしたいんじゃなかったのか?

入口付近でもう一度作戦会議をする。

「どうした?」

と聞くと、

「俺は二人で連れ出したいんだ」

と彼は言った。

ここで彼の言いたいこと、やりたいことの全てを理解した。

そうか。
彼は、俺に二人組に声掛けをさせて、二人を連れ出してもらいたかったんだ。

先ほどから感じていた違和感の正体もわかった。

二人組に声掛けしているのは、ほぼ全て俺だった。

相棒はいつも、

「あの子いこう」

と俺に指示を出すだけだった。

彼はクラブ出撃前の電話で、こう言っていたのを思い出した。

「XX君のナンパに便乗したいと思ってるんよ」

俺は笑いながら「二人で頑張ろ」と流していたが、本当にそういう意味だったのか。

それってコンビなんだろうか。
もう一度、俺は頭のなかで自分のルールを確認する。

・どんなときも、友達を優先せよ
・女のために、男友達を裏切ってはならない

そして、最後にもう一つのルールを追加した。

・友の成果は、自分の成果

大きくため息をつき、クラブを歩く。

時刻は4時を迎えていた。


4:00
暑そうなコートを着たままの二人組を見つけた。

「この暑いクラブの中でなんでコート着てるのwファッションモデル?」

と雑な声掛けをした。

さっき来たけど、ロッカーに空きがないから帰ろうかと思っているとのこと。

これだ、と直感した。

この二人に連れ出しを打診した。

「もう帰るー」

「わかった。4人でクラブ出て、次の店に行こう」

「えーどうしよっかなー」

なんて迷っていたので話を続けた。
俺が片方を押さえているから、もう一人を仕上げてくれ・・・!

俺は相棒に目線を送った。

相棒はそれを無視して、先に歩いて行ってしまった。

なぜだ?
なぜ、二人組を俺が一人で相手しているんだ?

なぜ、お前は話してくれないんだ?

心の底で絶望しつつも、出入口付近まで来た。
外に出るならロッカーから荷物を出さなければならない。

俺はロッカーから荷物を取るのに時間がかかっていた。
女の子はもうエレベーターに乗っていた。

俺は相棒に大きな声で行った。

「先に行って女の子の相手をしていてくれ!早く!」

迷ってる女を外で和ませておいてほしかった。
俺の荷物の取り出しは終わりそうになかったから、先に相手をしていてほしかった。

そうじゃないと、和みが足りない彼女たちは帰ってしまう...!

それでもなぜか、相棒はエレベーターの前で地蔵していた。

「早く乗って!」

相棒は動かなかった。

エレベーターのドアが閉まった。

なんで・・・・。
ここまで粘って、やっと連れ出せそうな案件だったのに、なぜ・・・・。


相棒は言った。

「ごめん、二人とも可愛かったからビビった。話せる気がしなかった」

目の前が真っ暗になった。

俺はどうしてこの人とクラブにいるんだろうと思った。
本気で泣きたくなった。

和むと強制放流させられ、二人をやっと連れ出せそうになると、地蔵する。

なんでこんなに散々な目に合うんだろう・・・。
書いていて悲しくなってきた。
抑えきれない思いが文字になる。

その後は、ストリートに出て、声掛けするも、結果が残らず。

俺の声掛けはモノいじりとかから入ったり、自然に話しかける感じが多い。

相棒は、

「一緒に飲みに行ってください。お願い。ほんとお願い」

と女の子に頼んでいた。敬語で。
俺が今まで一切やったことがないタイプのナンパだった。

少なくともPick Up Artistを名乗るようなナンパ師で、女の子に「お願い」する人はいないと思う。
自分が価値の無い男だと言っているようなものだからだ。

でも、世間一般的には「お願い」するのが普通なのかもしれない。

俺もこの世界に染まってきたんだなぁと感慨深い気持ちにもなる。
日常でナンパをしている人と、そうじゃない人では、女に対する態度は大きく変わる。

自分が世間とずれたやり方になっていることに若干の喜びと戸惑いを感じながら、前に一緒にナンパした凄腕の顔を思い出す。
彼と一緒にしたナンパはエキサイティングだったなぁ、彼と一緒だったら・・・。


横にいない友を思いながら、横にいる相棒(リア友)をサポートする。

選挙の前だし、お願いするのもいいか。

清き一票をお願いしますのつもりで。
選挙カーに乗ったつもりで声をかけた。

結果は清々しいまでの坊主だった。
衆院選は落選だ。

朝焼けが目に染みた。

後ろ髪を引かれる思いで、六本木を後にした。

今日はブログを書いたら投票しに行こう。
清き一票を、ラブレターのつもりで。