六本木のクラブV2 TOKYOに友達と突撃してきた



六本木のクラブは僕にとっての鬼門だった。
いつも意気揚々と出かけてはボロボロになって朝の大江戸線で帰った。

中でも辛いのがV2 TOKYOである。
エレベーターに並ぶときから何やら敗北の匂いがして、少し狭めのフロアで踊り、女の子に振られる。

そんないつもの自分を変えたいと思っていた。

0時30分。六本木。

「俺とコンビを組もう。クラブに行こう」

と友達に言われ、一緒にクラブに行くことになった。

「お前とのコンビだったら、俺は結果を残せる気がするんだ」

彼は電話で言った。

23時に六本木で待ち合わせをしようと言い、電話を切った。

23時の六本木に、彼はいなかった。

「どうした?」

「テンションが上がりすぎて、寝坊した」

0時30分。
相棒はゴメンと言いながら、六本木の街に現れた。


俺はコンビの先行きに若干の不安を覚えつつも、今夜のゲームの始まりに胸の高鳴りを隠せない。

冬の六本木の冷たい空気を吸い、あるブログで読んだ「あの言葉」を頭に思い浮かべた。
そのブログではクラブに行く前にいつもこう言う。


「さあ、今夜もゲームの始まりだ」



1時。

久しぶりに行ったクラブはパラダイスだった。
面白いようにLINEをゲットできる。

今日は調子がいいみたいだ。

次から次へと仲良くなり、LINEを交換し、「またね」と言ってフロアに戻る。
どの子も少しは自分に好意があるように見えた。

それでも慎重に。「クラブから出よう」と聞くにはまだ早すぎた。

クラブでの話しかけ方はワンパターンだった。

何度も同じ言葉をささやいた。

女の子の隣に行って、

「ねぇ、一瞬見て思ったんだけど」

と言う。

女が耳を寄せる。

「今日のクラブで一番可愛いよね」

声の掛け方はほぼこのパターンだった。

どの女性も、「いや〜チャラいー!」と言いながら嬉しそうにしていた。

クラブを心から楽しんでいた。
何か神が降りてきたきがした。
髪はなかったのだが。


今夜は勝てる気がした。



2時。容姿のレベルでいうと、「中の上~上の下」くらいの女の子から強い好意を感じた。
身体の距離が近い。

長年の勘が言っていた。

「今日はこの子を連れて帰れる」

胸が高鳴った。
だからクラブは好きなんだ。

二人でイチャイチャを始めたところで、コンビで一緒に来ていた友人が僕にささやいた。


「その子を放流してくれ」


放流とは、女の子を手放すという意味である。

何か別のいい子が見つかったのかと思い、了承した。

「わかった」

女の子に話す。

「ちょっと友達が他の場所行きたいって言うから行ってくるよ」

好意を感じる子を「放流」した。
残念だった。

いけそうな匂いがしていたのに。

海賊がたくさんいる海に宝石を捨てるような思いでその場を後にした。

とても名残惜しかった。他の男に連れ去られてしまうかもしれない。


「どうした?何があった?」

僕は相棒に尋ねた。

なぜ僕が仲良くなる過程を中断させたのか、理由が知りたかった。

「コンビで来てるのに、片方だけが美味しい思いをするのはダメだ」

と彼は言った。


「時間ギリギリまでコンビで連れ出しを狙い、
一人でもいけそうな子がいるなら、一旦コンビを解消してからどっちがゲットできるか競争しよう。
一緒にスタートしないとフェアじゃない。平等にやろう」

一瞬何を言っているのかわからなかった。

「俺は、コンビで来てるのに、片方だけが可愛い子とくっつくのが許せないんだ」

彼は真剣な目で言った。
目の前が暗くなるような気がした。

二人を同時に仕上げるのは一人を仕上げるより難しい。
それに相棒はおそらく口下手だった。

「一人だけ美味しい思いをするのは許せない」

合コンならまだしも、クラブに行ってそんなことを言われるのは初めてだった。
多少戸惑いを覚えながらも僕の中のルールは変わらない。

  • どんなときも、友達を優先せよ
  • 女のために男友達を裏切ってはならない

心に誓ったルールを振り返り、顔を上げる。

「OK。わかったよ。悪かった。二人同時に行こう。俺だけが持ち帰っちゃダメだもんな」

こう言うと、彼は無邪気に嬉しそうにした。
それを見て僕も安心した。

コンビのあり方は難しい。
コンビの数だけ二人の間にルールがあると思う。

僕はコンビを組むなら、相棒が結果を残すためにサポートするのもアリだと思っていた。

たとえば、ブスと美女の二人組がいて、相棒が美女と仲良くなり始めたとする。
そこでブスが邪魔をしてくるときは、そこでブスを隔離するように小細工して、相棒が良い想いをするのもいい。

それでも全然いいと思っていた。

友達が結果を残したら俺は嬉しいし、俺が結果を残せたら次回はサポートに回る。
お互いが足りないものを補完しあって、チームの結果を最大化する。
それはスポーツチームのあり方と似ていると思う。

全ての選手がフォワードってわけじゃない。
点を取る人も入れば、パスを出す人もいる。
お互い足りないもの補完しあって、良いところを伸ばすために、チームはある。

でも、昨日の友人は違った。

「自分がサポートに回るのは絶対に嫌だ」という強い意志を感じた。
スポーツに例えると、自分が点を取らないと気が済まないということだ。

こうなると、

  • どちらもサポートしない(=同時に行く)
  • 僕が彼をサポートする

のどちらかしかやり方はなく、さらに、

  • 俺が一人で誰かと仲良くするのは許さない

という条件が加えられた。

一緒に点を取るやり方じゃないと、点を取るもの許さないということだ。


「やれやれ」

と溜息をつき、村上春樹を読みながら家に帰りたくなったが、乗った勝負は仕方ない。

「やるしかない」

言い訳を封じて結果を残さなければならない。

箱はピークタイムを迎えていた。


3時。
何声掛けかしたが、「二人同時」の制約は厳しく、なかなか思うような食いつきは得られなかった。
「食いつき」とは、女の子の関心のことだ。

声掛けしているうちに、かすかな違和感を覚えた。
そのときは、違和感の正体に気付かなかった。

部活をやっていたときみたいに、チームのために自分のできることをやろうと思った。
でもその違和感のせいで、俺はクラブを楽しむことができなくなっていた。

箱の中を歩く。

一度食い付いて来た女の子が、はぐれた友達を見つけて二人組になっていた。
あれに行こう。それなら一石二鳥だ。僕に興味のあった案件もいけるし、もう一人の友達も可愛い。


俺は二人組のうち、既に仲良くなっていた一人に声をかけた。

「一緒に飲みいこ」

「いいよ」

飲み連れ出しはあっさり受諾された。
あとはもう一人を友人が仕上げてくれれば、念願のお店連れ出しは叶う。

キスしながら二人でドリンクを飲み、相棒の結果を待った。

でも、周囲を見渡して、相棒の存在を探したが、見つからなかった。

10分後くらいに、相棒が現れて俺の耳元で言った。


「放流してくれ」


意味がわからなかった。

相棒は、女の片割れをまったく口説きもしていなかった。
何がしたいんだろう?

俺は非常に気まずい思いをしながら、食い付きがある案件の二回目の放流をした。

「ごめん、ちょっと行ってくる」

もうこの子とは先がなくなってしまったな、と思った。

短時間で二回も放流してしまったからだ。

さすがに失礼すぎるだろう。

それにしても友人は何を考えているんだろう?
コンビ連れ出しがしたいんじゃなかったのか?

入口付近でもう一度作戦会議をする。

「どうした?」

と聞くと、

「俺は二人で連れ出したいんだ」

と彼は言った。

ここで彼の言いたいこと、やりたいことの全てを理解した。

そうか。
彼は僕に「二人組」に声掛けをさせて、二人を連れ出してもらいたかったんだ。

先ほどから感じていた違和感の正体もわかった。

二人組に声掛けしているのはほぼ全て僕だった。

相棒はいつも、

「あの子いこう」

と僕に指示を出すだけだった。

彼はクラブ出撃前の電話で、こう言っていたのを思い出した。

「XX君の声掛けに便乗したいと思ってるんよ」

僕は笑いながら「二人で頑張ろ」と流していたが、本当にそういう意味だったのか。

なんてこった。
ひどいよ...。

それって本当にコンビと言えるんだろうか。
もう一度、僕は頭のなかで自分のルールを確認する。

  • どんなときも、友達を優先せよ
  • 女のために、男友達を裏切ってはならない

そして、最後にもう一つのルールを追加した。

  • 友の成果は、自分の成果

大きくため息をつき、クラブを歩く。

時刻は4時を迎えていた。
頭が痛い。

暑そうなコートを着たままの二人組を見つけた。

「この暑いクラブの中でなんでコート着てるのwファッションモデル?」

と雑な声掛けをした。

さっき来たけど、ロッカーに空きがないから帰ろうかと思っているとのこと。

これだ、と直感した。

この二人に連れ出しを打診した。

「もう帰るー」

「わかった。4人でクラブ出て、次の店に行こう」

「えーどうしよっかなー」

なんて迷っていたので話を続けた。
俺が片方を押さえているから、もう一人を仕上げてくれ!

俺は相棒に目線を送った。

相棒はそれを無視して、先に歩いて行ってしまった。

なぜだ?
なぜ、二人組を俺が一人で相手しているんだ?

なぜ、お前は話してくれないんだ?

心の底で絶望しつつも、出入口付近まで来た。
外に出るならロッカーから荷物を出さなければならない。
ロッカーから荷物を取るのに時間がかかる。

女の子はもうエレベーターに乗っていた。

僕は相棒に大きな声で行った。

「先に行って女の子の相手をしていてくれ!早く!」

どうしようかと迷ってる女の子と話しを継続し、関係を切らさないようにコミュニケーションを取ってほしかった。

僕の荷物の取り出しに時間がかかりそうだったから、先に相手をしていてほしかった。

そうじゃないと、和みが足りない彼女たちは帰ってしまう...!

それでもなぜか、相棒はエレベーターの前でじっと立ち止まっていた。

「早く乗って!」

相棒は動かなかった。

エレベーターのドアが閉まった。

なんで......。
ここまで粘って、やっと連れ出せそうな「二人組」だったのに、なぜ......。


友人は言った。

「ごめん、二人とも可愛かったからビビった。話せる気がしなかった」

目の前が真っ暗になった。

お前はなんでクラブに来たんだ...。

僕はどうしてこの人とクラブにいるんだろうと思った。
本気で泣きたくなった。

自分が女の子と仲良くなると強制的に終了させられ、二人組をやっと連れ出せそうになると「地蔵」する。
「地蔵」とは、女の子に声をかけにきたのに何もできずにじっと立ち止まることを言う。

なんでこんなに散々な目に合うんだろう。

書いていて悲しくなってきた。
抑えきれない思いが文字になる。

その後は六本木の街に出て外を歩く子に声を掛けるも、結果が出なかった。

僕は外で声をかけるときは、モノいじりから入ったり、共通の話題を作って自然な風に見せかけて話しかけることが多い。
歩いていて何か面白いものを見つけたら

「ちょっとあれすごくない?」

みたいに声を掛ける。

相棒は、

「一緒に飲みに行ってください。お願い。ほんとお願い」

と女の子に頼んでいた。

俺が今まで一切やったことがないタイプの声掛けだった。
今にも土下座しそうな勢いだ。

これでいいのだろうか?


仕方なく、僕も一緒に「お願い」した。
女の子には冷たくあしらわれた。

朝日がのぼる。

「今日はダメそうだな」

友人はまだやりたそうだったが、切り上げようと提案した。

朝焼けが目に染みた。

「女の子とは仲良くなれなかったけど、友達との絆は深まったのかな」

後ろ髪を引かれる思いで、六本木を後にした。

コンビの難しさを感じた。
良いパートナーとの巡り合いは奇跡だとも思った。

そして良いパートナーは最初から”なっている”ものではなく、”なっていく”ものなのだろう。
一緒に街に出て、お互いの価値観をすり合わせていく。それは恋愛と同じだ。

彼とまた一緒にクラブに行く約束をして、次に向けて自分を磨く。
頭を切り替えて、次のゲームが楽しみになった。


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