俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

年末年始は「ザオラルメール」を送ってみよう!





年始はずっと体調が冴えなかった。
常にダルさがつきまとい、予定していた読書の進捗も思わしくない。

世間では「あけおめザオラル」という単語が飛び交っている。
ザオラルというのはドラクエの魔法のことだ。

この魔法を使うと、2分の1の確率で死んだ者が蘇る。
つまり、返信がなくなったLINEが生き返るということだ。


しかし、そんな大チャンスなのに、僕から送ったあけおめザオラルは一通もない。

なぜかというと、僕は傷つくのが怖いので、最初のLINEの反応が悪い女の子は即座に削除してしまうからだ。


そのため、俺のLINEにザオラルフォルダは存在しない。
あるのは屍の山である。

この屍の山は、僕の心の弱さなのかもしれない。
メールが返ってこない女の子のことを眺めるのが嫌だという気持ちの裏返しだからだ。

覆水盆に返らず、削除したLINEは元に戻らず。

男から送るLINEはザオラルと呼ばれるが、女子から送られるLINEはザオリクという。
ザオリクとは、100%死んだ人を蘇らせることができる魔法である。

僕は女子からLINEが来たら飛び跳ねて喜び、生き返る。

そんなわけで、今日は運よく送られてきたザオリクメールの話。


★ ★ ★

彼女と出会ったのは4ヶ月前だった。

駅のホームで電車を待ってる時に、声をかけた。

「あの、この電車ってXXXに向かう電車ですよね?東京って電車多くてわからなくって」

手元のスマホでは「乗り換えナビ」のアプリが起動していたが、いけしゃあしゃあと目の前の女の子に尋ねた。

「あ、はい、これで間違いないです」

「ありがとう(ニコッ)あれ?今って仕事帰りなんですか?俺もちょうど、飲みの帰りだったんです」

こんな流れで会話して、10分ほど電車の中で会話した。
そして、目的地が同じだったことから、一緒の駅で降りた。

「せっかくだから」

電車を降りたところで声をかける。

「少しだけ、飲んでいきませんか?」

「少しだけなら」


この日に飲みに行って、

「アナと雪の女王でも観ませんか」

という定番のDVD作戦で一緒に家に帰った。

しかし、土壇場でビビってしまったことによって何事もなく終ってしまった子だった。

たびたびメールをくれていたんだけど、忙しくてどうしても会うことができなかった。
しかし、年始はやることもなく家にいるので、どうせならと食事に行くことになったわけだ。


ここで今年のオープン戦が始まる。


★ ★ ★

あまりにも具合が悪かったので、デートのやる気はほとんどなかった。
ダサい服に、ダサい髪型。

何より、コンタクトをつけるのも億劫で、メガネでアポに臨んだ。
体調不良は全てに響く。

やっぱり、人間健康第一なのだ。
風邪をひくと、すべてのモチベーションが下がってしまう。

最悪の状態から、結果を残すことができるのだろうか?

「おまたせ」

待ち合わせ時間ちょうどに声をかけた。
店の予約はしていない。

適当に歩いて、適当に見つけた店に入った。
雰囲気は意外とよかったのが幸いだった。

軽く食事を食べる。
体調が悪いため、酒は飲めない。

それでも彼女は優しかった。

でも、どうも自分の気持ちが乗ってこなかった。
これはアレや。あかんやつや。

そう思いながらも、デートを続行する。
一度闘うと決めたなら、最後まで楽しんでもらわないと。


店を1時間で出る。
そこで、いつもの言葉が出てきた。

「すげぇうまいアイスクリーム屋があるんだ」

と、自宅の方向へ歩き出した。

「秘密のアイスクリーム屋なんだけど、いいアイス完備してる」

マンションの玄関に着くと、

「やっぱり家っ!」

と女の子が爆笑した。

「ウケる~」

と言いながら自宅に入り、ハーゲンダッツを食べる。

イチゴ味のハーゲンダッツだ。

ハーゲンダッツ スペシャルセット 14個入

ハーゲンダッツ スペシャルセット 14個入

僕はイチゴ味のハーゲンダッツが大好きで、いつもはバクバク食べるんだけど、途中で残してしまった。

ううう、体調が悪い。

このときすでに気付いていたんだけど、全てが雑だった。

トークも、魅了するフェーズも、スマイルも、間のとり方も、全てが雑。

むしろ、成果を挙げなくてもいいとさえ思っていた。

早く眠りたいと、身体が睡眠を欲していた。

なぜ、家に一緒に帰ってきてしまったのか。

アイスを食べながら、意識が朦朧としてきた。
あれ、何か笑っていたはずなのに。

気付いたら、寝てしまっていた。

女の子はいなくなってしまった。

机の上を見ると、手紙が置いてあった。

「お疲れ様。
今日は具合悪いのにありがとう。

お大事にしてね。

今年のはじめに会えてよかったです」

手紙と一緒に僕の好きなミカンゼリーが置いてあった。

なんだ、覚えていてくれたんだ。

少し涙ぐんで、ゼリーを食べた。
冷たいゼリーが身体に染み込んでいく気がした。