会わない時間が愛を育てる



21時。山手線の某繁華街の駅での待ち合わせ。

ショートカットが似合うこの子と会うのは3回目だった。

初めて会ったのは年末の渋谷だった。
ツイッターの友人が主催した飲み会に行く前に、軽く道で声をかけた子だった。

原宿っぽい格好をしていたので、

「ちょっw

お姉さん、どこのファッションモデルですか?

ま、まさか...いま渋谷界でときめくスナップ美人ですか!?」

と言って声をかけた。

雑な声掛けだった。

最初は驚いた顔をした彼女だったが、だんだんと心を開いてくれたのか、自然に話すようになってくれた。

道で声をかけたからといって、焦ってはいけない。
連絡先の交換は、ある程度お互いの信頼関係ができてからの方がいい。


一緒に渋谷から表参道の方まで歩き、そこで自分の話、相手の話、色んな会話を続けた。
一緒にカフェにでも行こうかと話していたけれど、飲み会の時間が来ていたので、駅まで送って「バイバイ」と言って別れた。



彼女は千葉の方に住んでいた。
自分の最寄りの駅からは1時間はかかる。

その上、いつも遅くまで仕事がある子だった。

それに家の事情で泊まりのデートができないこともわかっていた。

そのような状況で、強引に最寄り駅でのデートを取り付けるのは、身勝手な気がした。

僕は彼女の家と自分の家の中間地点にある駅をアポの場所として、一回目のデートに望んだ。

そこまで「結果を残す」ことに執着していなかったので、デートに向かう時点で二人きりになる場所に誘う気はなかった。

そもそも、近くにホテルがない駅でのアポだった。


狙いは一つ。

「気持ちを育て、次につなげること」

他愛もない会話の中で、さりげなく異性として意識させるトークを差し込む。
一緒にこんなところに遊びに行けたら楽しいね、という未来を共有する。

これはお決まりのパターンだ。

相手の話をふんふんと聞き、こちらも一緒になって楽しく話していたら、いつの間にか閉店の時間になっていた。

デートには色々な「必勝法」が語られるけど、大事なのは自分自身が楽しむことだ。

楽しくないデートはたいていうまくいかない。

こっちが「楽しい」と思って話しているときは、たいてい相手も楽しく会話してくれるものだ。

自分が話していて辛くなるようなときは、相手もつまらなそうにしていることが多い。

コミュニケーションで大切なのは、まず自分が相手に関心を持って、自分自身が楽しむことだと思う。

その上で、相手をよく見て、相手が楽しくなる雰囲気を作ることだ。

一番盛り上がったところで会計を済まし、店を出た。

駅までは手をつなぐだけ。

「またね」

と言って別れた。

自分は基本的に、デートのあとは自分からは連絡しない。

選ぶのは相手だ。

自分から連絡しなくても、相手が自分に関心があれば連絡が来るし、ご飯をご馳走してから連絡が来ないような相手に、自分から連絡をしても先がないからだ。

何よりデートの直後に頑張ってメールをすると、

「私に関心があるチョロい男」

のように思われる可能性が高いように感じた。


昔は、恋愛の教科書に書いてあったように、デートのすぐ後に、

「今日はありがとう。また飲みに行きたいね」

みたいな話をすることが多かったが、あまり効果がなかったように思う。

僕は放置することが逆に愛を育てるってことを学んだんだ。


さて今回デートした子も、一回目のデートの後にLINEが来て、そのあと特にこちらから誘うこともなく放置していたら、向こうから連絡が来た。


特筆すべきなのは、放置していたのに相手の「食い付き」が勝手に上がっていたということだ。


相手のメールが妙に積極的で、文面から「会いたい」というオーラが前面に出ていた。

1回のLINEで3通送られてきた。

最寄り駅まで時間をかけて来てくれるとも言っていたが、なんか平日に申し訳ないので、中間の駅にしておいた。

デートは安い焼き肉屋にした。
今回はホテルのある駅で。

それでも相手は喜んでくれる。

高いお店じゃないとダメだっていうのは嘘だ。

デートのお店は、相手と自分の関係次第なんだ。


まだ関係を持っていない女の子とのデートでは基本的に、こういう大衆焼肉のような店は使わないけれど、僕は安くてうまい肉が食いたかった。

相手の食いつきがあるときは、自分が行きたい店に行けばいい。

無理にオシャレな店に行かなくたっていい。

どこに行っても喜んでくれる。

「臭いのつかない服装で来てね」

と伝え、焼肉屋に入った。

肉はちょっと筋張っていた気がするが、それなりに美味しかった。

よかった。

前に行ったトラジの方が全然うまくて雰囲気もいいけど、たまにはこういう安い店もいっか。

焼き肉を腹いっぱい食べて、店を出たところのエレベーターで口づけした。

手をつなぎながらホテルの方に向かって歩く。

だんだんとそれっぽい雰囲気の路地に出て、

「変なところには行かないよ?笑」

と言われる。

「待ち合わせ前にこの辺ブラッと散歩してきたんだけど、雰囲気良さそうなカラオケ屋見つけて、そこ行きたいと思って!」

「カラオケならいいけど」


...なぜラブホに使わないカラオケが設置されているのかというと、男が女を誘う口実にするためだ。
...なぜラブホの看板がホテルの2キロ手前にあるかというと、男が女を口説くための時間を与えるためである。


「二人でゆっくりできるカラオケに行く」

という謎の口実で、ホテルに入った。

中で少しずついちゃつくも、ちょっとしたグダがあった。

そのときに使ったのが、今回のタイトルにある

ルーティーン「歴史語り」

である。

「今日はしないよ」

「とりあえずキスだけね」

「キスだけなら」

といいつつ、触っていくもブロック。

「今日はしないの」

ここで、ルーティーン「歴史語り」発動。

「あのさ」

「ん?」

「あのとき、偶然会えて本当に良かったと思ってるんよ。

あのとき偶然会って、最初見たときビックリした。

こんなオシャレな人、東京にいるんだって。思わず震えながら声かけたからね。

そいで、頑張ってデートに誘って、あのときXXな話もして、すごく楽しかった

......

(恥ずかしいので略)」


これがうまいことハマり、ブロック解除。

出会ってからの経緯をポジティブに語ることで、

・「道で出会った」ということを肯定する
・ストーリーを語ることで、その結果として行為に至る必然性が認識できる

という効果が期待できる。



そして、ブロックを解除してノリノリで下に触れたときに、違和感が。

カサッ

ん?

カサッ

「ごめん、今日女の子の日なの」

ええええ

ここにきて、まさかの赤い悪魔の日!


知らなかったのか?

「赤」は「止まれ」だ。



「だからしたくないって言ったのに」




今回の学びは2つあって、

一つは、

  • 時間が愛を育てる可能性があるということ

です。

これはなかなか時間が取れない平日夜のアポか、あるいは昼アポにこそ有効なんじゃないかと思います。

会って話して、一番盛り上がってるところで切り上げておく。
ちょっと足りないくらいのところで、お別れする。

そうすると、そのときのデートは相手の中で「楽しい思い出」となって、その気持ちが「また会いたい」となってくる。

脳は楽しくて幸せになれるモノを求めますから。

どんなデートのときも同じで、その場で関係を持たないなら、むしろダラダラせずに一番楽しいところで切り上げるのがいいのかもしれません。


もう一つは、「出会ってからの歴史を語る」ことは、相手に安心感を与えることができるかもしれないということです。

女の人って何かと、「そうするための理由」を欲しがるものだと思うんですけど、そういうときは、

  • どう思って声をかけて
  • 彼女のことをどんな子だと思ってて、
  • いまどんな風に考えているか


などを含めた「歴史」と語ると安心してもらえそうです。