俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

初めてネットワークビジネスの女とデートした

銀座の「GENIUS(ジーニアス) TOKYO」でずいぶん前に番ゲした子から突然LINEがきた。


「ご飯食べに行こうよ」


いきなりの誘いに驚いたが、予定のない日だったし、そんなに高い店に行く感じでもなかったので、快諾した。

連絡のやりとりのペースは遅く、本当に飲みに行く気あるのかな、と不思議な気分でLINEしていた。
メールの返信は夜中に来て、俺もあまり乗り気じゃないので返信を後回しにしていた。

あっちからメールが来ているにも関わらず、俺に対して興味が有るようには見えなかった。
こいつは何が狙いなんだろう。

アポの当日、待ち合わせに10分遅れで現れた彼女は、目元のメイクはほぼなく、すっぴんに近い様子だった。
化粧をしたら可愛くなるだろうか。この子と関係を結ぶのだろうかと考えながら店に向かって歩いた。


不思議な子だった。
会話のペースが遅く、こちらの話を聞く気配がない。

話すことは、自分が今日、どれだけ楽しい旅行に行ってきたかという話と、その旅行に安く行けたという話ばかりだった。

「すっごく安く旅行に行けたんだよ。すごくない?伊豆の一流のホテルに3000円で行けたの」

「へ~なんでそんなに安く行けたの?」

「それは・・・ちょっと言えないかな」

なんだこいつ?と思って話を聞いていた。
会話が妙に説明的だ。

マンガの必殺技を解説するみたいな会話をするんじゃねぇよ。


「彼氏いるのー?」

みたいな話には全く答えない。
返事すらまともにしない。スルー。

なんだこいつ?

「休みの日は何してるん?」

「旅行かな。安く行けるから。私のサークルに入ってたら、特別に安く行けるんだよね」

やたら旅行のことを語るときは饒舌になる。

なんだこいつ?

「日本でもすごく有名なサークルなんだけど」

「ふーん、仲良くていいね」

ブログのネタにしようと、アポの料理の写真を撮っていたら、

「写真趣味なの?」

と聞かれる。

ケータイで料理の写真を撮るくらいで?

「あ、あぁめっちゃ写真好き。写真家と言っても過言ではないね」

「私の友達に写真好きな子いて、モデルみたいに可愛いから、紹介しようか?」

「まじ?どうしよっかな。今度ね」

「ホント写真好きなんだよ。いつも写真撮ってる」

(俺、そんなに毎日写真撮るわけじゃないんだけどなー)

やたらと「趣味 写真」でつなげようとしてきているように見えた。

なんだこいつ?

「今度紹介するから会おうよ」

「じゃあ、日曜の昼なら」

「あ、日曜はダメかな。土曜日ならいいよ」

なんだ、こいつ?
なんで日曜はダメなんだ?


世の中にこんなつまらない女がいるのかと困惑した。
どうやって、近くの席にいる別の女の子と仲良くなろうか画策していた。

何度も何度もしつこく旅行の話をしてきた。

なんだこいつ?

「妹もサークルに入ってて、このサークルに入ると日本中にすっごく安く旅行に行けるの。ちなみに、今日はクルージングしてきた」

「へー安く行けるってすごいね^^」

「私が入ってるサークルがすごいんだよね。秘密なんだけど・・・」

というと、女はおもむろにかばんの中からファイルを取り出した。

「ここに秘密の手紙があるの。ここに安く旅行に行ける秘密が書いてあるんだけど・・・」


クリアファイルの中には怪しげな、明らかにブログをコピーしたようなペラペラの紙が10ページ分くらい入っていた。

「ここに書いてあることを、一言一句逃さず読んで」

面白そうなので読んでみると、一言一句すべてが怪しかった。

読んでいるフリしてその写真の撮影をしていると、

「写真を撮ってるの?絶対ダメだから。何してんの」

と本気でキレられた。

なんだこいつ?
そんなに大事か?

撮った写真は公開できないけど、書いてある内容をざっくり紹介したら、こんな感じだ。

私が「"無料"で友達とセレブ旅行に行く方法があるよ」と言った時、多くの友人が笑いました。しかし、実際の話を聞いた友人は・・・

(略)


今から話す内容は、これから先のあなたのライフスタイルを大きく変えることになるでしょう。

ただし、あなたにとって、かなり刺激的な内容が書かれているので、今のライフスタイルに満ち足りているのであれば、次のページ以降は読まないほうがいいかもしれません。

(略)


心の準備はいいですか?

それでは、次のページ移行を読み続けようとしているあなただけにお伝えしていきます。


どこの与沢翼だ

小太りか!

こういうブログにありがちな、赤い文字を黄色く塗るスタイルの強調。

「あなただけ」

「期間限定」

などの文字を散りばめた胡散臭い文章。

「紹介料だけで生活している人もいます」

という話。

読みながらガックリとうなだれた。

ナンパ界でツチノコのように語られるネットワークビジネス女。

ついに俺も引っかかったか・・・。


読み終わって、冊子を閉じる。


「すごいね。俺を紹介したら、紹介料っていくらもらえるの?」

「それは秘密だから言えない」


なんでやねん。

「その仕組みについて書いてある手紙があるから、見せてあげる」


と、二冊目の冊子を渡された。
もううんざりだと思って、飛ばしながら読んでいると、


「そうやって適当に読むならダメ」


と怒ってきた。

読んで意味のあることは一つも書いていない。
思わず苦笑いしてしまう。

ネットワークビジネスの説明会に参加せよ、と最後の方に書いてあった。

説明会は土曜日に開催され、日曜日には行われないらしい。

冊子を返す。

「ありがとう」


「でも、俺はやらないよ」


「なんで?24歳で月収700万稼いでいる人もいるんだよ」

「金に困ってるわけじゃないんだ。それに、俺には俺の目標がある。」

「なに?どうやってお金を稼ぐつもりなの。月収700万稼げるの?」

女の口調がやたらとキツくなる。
なんだこいつ?

「あぁ、いつか、俺も稼いでるかもしれないねw
700万。

ただいくら収入を得るとしても、虚業で金を稼ぐつもりはない。

何かしらの価値あるものを世の中に生み出した対価として、金を稼ぎたい」


「じゃあ具体的なプランを言えるの?言えないでしょ」


なんだこいつ?
やたらと攻撃的になる。

こんな早口な奴だっけ?


「あなたの作りたいものって何?言えないってことは何もないってことでしょ」


痛いところ突いてくるなw
本当に生きててすみません。

なんだこいつw


「俺は自分のことを語る相手は選びたい。少なくとも、自分の夢や目標はもっと信頼関係ができた人に語りたい」

「金も稼げないくせに」

「たしかに、俺の貯金はここ数年、全く増えていない。というわけで、すまんけど、ここの飯奢ってもらっていい?」

また色々と詰められたので、仕方なく会計は俺が払った。

お前、金持ちなんだったら奢ってくれよ・・・。
俺は昼飯代をケチってサイゼリアに行く男だぞ。


店を出てすぐにお別れをした。
ごちそうさまはなかった。


俺は忘れ物をしたフリをして店に戻り、近くの席にいた女の子達と男性の方に今日あったことを話し、

「まいったよ」

なんて言いながら、連絡先を交換した。
誰かに話を聞いてほしかった。

この人達は、すごくいい人達で、普通に友だちになれそうだ。


「失敗などというものはなく、そこには教訓があるのみなのだ」

というThe Gameの一節を思い出した。

世の中に美味しい話は存在しない。
自分だけが例外だなんて、ありえない。

ずっと連絡がなかった女から突然連絡が来たときは、その理由を考えるべきだった。

「起こりえない」と考えて行動することと、「起こりえる」と想定しておくことは、大きな違いがある。
世の中にこういうこともあるということを、学んだ。

今日の教訓を忘れずにいたい。