俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

クラブナンパの究極奥義「手塚ゾーン」の威力を知れ。




残業の合間に夜食でもと思っていた時に、ウイングの竹中半兵衛からLINEがきた。

「今日は道三とV2行ってくるわ♪」

斎藤道三は一度だけ会ったことがある。

180センチを超える身長と、細身の筋肉質な身体、玉木宏と成宮寛貴を足して2で割ったような顔。そして、場を巻き込む天性のトーク力。

ナチュラルボーン・アルファメイル(生まれながらにして勝っている男)だった。
恋愛界の範馬勇次郎だ。

そんな"ナチュラル"とクラブに行く半兵衛を密かに応援していた。
半兵衛とはいつも、テクノロジーについて議論し、反省し、今後の改善について語り合っている。

我々の必死の研鑽によって積み上げたルーティーンで、道三を圧倒してほしいと願っていた。
道三に衝撃を与えてほしかった。
生まれながらにモテる男、モテお坊っちゃまの道三に、テクノロジーの破壊力を教えてやってほしい。


午前0時10分。
半兵衛からLINEが届いた。


「道三、クラブに入って5分で逆ナンされる」


あごが外れた。
ナチュラルとは、ここまでのものなのか。

続いて、半兵衛からLINEが入る。


「道三、ダンスフロアで無双状態。女が次々寄ってくる」

「な、なんだと・・・・
こ、ここまで差があるのか・・・」


絶望した。
半兵衛、頑張れ・・・!

横にいるアポの子をほったらかしながら、半兵衛のLINEを食い入るように見ていた。

頑張れ・・・!
頑張れ、半兵衛・・・!


半兵衛からLINEが入る。



「これは手塚ゾーンだ」



手塚ゾーンというのは、テニスの王子様というギャグ漫画で、手塚部長のところには、なぜかテニスボールが吸い寄せられるようになるという必殺技のことである。

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手塚部長は手塚ゾーンに吸い寄せられたボールを打ち返すだけなので、基本的に負けない。


「自分で立ち直るしか無い」


半兵衛のLINEからは悲壮感すら感じた。
俺も一緒に悲しくなった。


「フリーザの最終形態を見たときのベジータみたいだ」


半兵衛はさらにつぶやく。
クラブの中から俺にLINEを送る半兵衛の絶望と無念を想像し、胸が痛くなった。


「あまりの実力差と絶望から、生まれて初めて涙を流したときのベジータみたいだね」


と返信した。


午前3時。
半兵衛からのLINEが途切れる。

俺は女の子と別れ、終わらない仕事を自宅で進める。

半兵衛は超サイヤ人となり、クラブナンパで希望を掴むことができたのだろうか。
それとも、我々が磨きあげたテクノロジーはナチュラル・ボーン・アルファの前に無残に散るのだろうか。


午前5時。
半兵衛からLINEが入る。
俺はまだ、眠い目をこすりながら仕事をしていた。


「秀吉、俺達は間違っていなかった。戦い方が違うだけだ」

目が覚めた。

「何があった?希望はつかめたのか?」

「連れ出し中」


半兵衛からのLINEが途切れた。
俺も心地よく眠りにつくことができた。


目が覚めた後、半兵衛に尋ねた。

「昨日は結局どうだったんだ?」


半兵衛:1即
道三:0.5即(途中寝落ち)


あの状況から結果を残した半兵衛が誇らしくなった


「俺達は、負けてはいない。戦い方が違うだけだったんだ」



後日、半兵衛と振り返りをした。

ダンスフロアでは手塚ゾーンの破壊力に圧倒されていたらしい。
我々が得意とするのは、トークから流れを作って、ラポールを形成する手法だ。

それがクラブのダンスフロアでは通用しない。

ダンスフロアの会話は

「ちょ!X○▲¥Q★XXX!?」

「えーーー」

「だから〜X○▲¥Q★XXX!?」

「なにーーーー?」

みたいに、まともな会話にならない。
だから、エントランスの静かな方に連れ出して会話するのがコツなのかと思っていた。

しかし、いずれにしても、クラブではゆっくり話すことはできない。
ペーシングやミラーリングも通用しない。

そんな中、道三が使っていたのは、「手塚ゾーン」という技だった。

半兵衛の話を聞くと、手塚ゾーンは道三固有の技なのではなく、クラバー達の間で共有される伝統的なルーティーンのように思えた。

  • ダンスフロアでは、他と若干リズムをずらし、大きめの動作でダンスする(=目立つ)
  • 女の子の目に入る位置で、楽しそうに踊る
  • 楽しそうな様子を見たら、女の方から話しかけてくるが、最初は軽くあしらって、ダンスを楽しむ
  • 盛り上がりが最高潮になった頃に、「一緒に踊る?」みたいな顔で微笑む

手塚ゾーンの秘密は、オスの孔雀が美しい羽を広げてメスを誘惑するみたいに、動きと雰囲気で魅了することのようだ。

ミツバチは八の字ダンスで仲間に蜜の位置を知らせるが、人間は手塚ダンスでクラバー女子にアピールをするのかもしれない。


俺は実際に手塚ゾーンを目の当たりにしたわけではない。
けれど、この「楽しむ」ということは、最高のルーティーンではないだろうか。

クラブに限らない。
家で鍋するときも、カラオケ行くときも、とにかく場を楽しんでいる人は魅力的だ。

女とヤルことばかり考えるよりも、とにかく場を楽しむこと。
それが幸せな結果につながるんだろうな、と感じている。


半兵衛と話しながら、手塚ゾーンを再現しようと、二人で路上でステップを踏んでみた。

あまりのリズム感の無さに二人で呆れた。

「俺達にできるのは、せいぜい樺地ゾーンやな」

「うす」


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小学校の頃、演劇があるたびに、ダンスが下手すぎて「戦犯」にされたことを思い出した。
そろそろ、ダンスを習うときがきたのかもしれない。