俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

西麻布のクラブMuseで銀行勤務の女の子と話した。

西麻布にあるMuseというクラブで、女の子と話をした。
その子は気だるそうにソファに座り、吐き捨てるように言った。

「私は、ここにいるような人達とは違う」

話を聞いて驚いた。
そんな選民思想の強い子が、クラブにいるとは。

すごく酔っているようだったから、たぶんあまり覚えてないかもしれないけれど、
口調はハッキリとして、強く目を見開いて、彼女は話した。

「ここにいるような、低賃金で何も悩みもないような馬鹿女と一緒にされたくない。
この人達は受験もしてきていないような連中だし、まず茶髪で社会人っていうのがありえない」


「ここにいるみたいな、低所得で頭悪そうな男に話しかけられるのが嫌」

と、彼女は言った。

「この人達って本当に何も悩んでないよね」


俺は昔、アパレル関係の子と付き合ったことがあるからわかるけど、茶髪でクラブで遊んでいる子たちが何も悩んでいないわけではない。

皆、人それぞれに、大変な仕事を抱え、頑張っている。

Museにいる男の人達の属性がどんな人達なのかはわからないが、少なくとも某メガバンクより給料の高い人もたくさんいるはずだ(銀行の給料なんてそんな高くねぇだろ)

自分は選ばれた特別な人だ、という彼女のプライドのように見えた。
悲しいプライドだな、と思った。


所属している組織や出身大学は人のフィルタリングやシグナリングに使えることは事実だ。
でも、少なくともクラブでは皆、平等だ。

因数分解もできなそうな頭悪そうな男も、東大卒のコンサルタントだろうと、クラブでは平等な勝負になる(何の勝負?w)
というか、クラブで名刺を出したりしたらキモいしな。

自分がクラブにいながら、知りもしない周りの人の職業を見下すのは、どこか間違っているように思えた。

「私の彼氏は医者なの。でもあまり好きじゃない」

「商社の人にも言い寄られてる。でも彼氏がいるし、どうしたらいいかなぁ」

自意識の高い子だった。
医者の彼氏がいて、商社マンに言い寄られていることで、自分の価値を見せつけようとしてきたのかもしれない。


しかし、俺は一ミリも動揺しなかった。
なぜなら、その子が誰と付き合っていようと、俺には関係ないからだ。

「ヘースゴイネー」


と聞き流し、彼女が飲んでいるお酒をもらった。

「この人達、みんな頭悪そう」

と吐き捨てるように言う彼女を見て、俺は言った。

「銀行に勤めてる奴が、一般の人を見て『頭悪そう』なんて言う時点で、お前のほうが終わってるだろ。お前の給料の原資は、人が預けたお金の利子だろうが」

「でも、私が相手にしてるのは富裕層だもん」

「そ、そうか。ス、スゴイネー」

残念ながら、論破することはできなかった。

苦し紛れに俺は言う。

「俺の年収は2000万だ」

「え?」

「に、2000万だ」

「何の仕事してるの?」

「ゴ、ゴールドマン・・・サックスだ」

「名刺見せて」

「今は持ち合わせていない」

「嘘つき」

「ごめん、嘘」


それにしても、付き合ってる彼氏の職業を自分の格を上げるために話す人と現実に会えるとは思わなかった。
ツイッターには「外銀の彼」を自慢する女で溢れているけど、都市伝説とかツチノコの類だと思っていた。
まさか本当に実在するとは。

彼女と連絡先を交換することはなかった。
俺を一瞥して、残念そうな顔をすると、彼女は人ゴミの中に消えていった。

彼女が残したスパークリングワインを一気に飲み干し、俺はため息をつく。

やれやれ。

口の中に生ぬるい液体の感触が残った。

仕事を・・・がんばろう。
俺は新たに、仕事を頑張る決意をした。