清く正しく美しく、友達との飲み会が終わった後、俺は天神の街に立っていた。
金曜日の22時。
アベノミクスによる好景気の波は福岡の街にも来ているらしく、夜になっても街は明るく賑わっていた。
友達は健全に家に帰り、俺は1人、天神を歩いた。
1人だけのゲームが静かに始まった。
「福岡で夜桜がキレイなところってどこですか?」
考えられる中で、最もつまらないオープナーからこのゲームは始まった。
福岡の女の子は丁寧に笑いながら、道を教えてくれた。
「大濠公園っていう公園がキレイですよ」
「ありがとう」
ナンパを始める前には、何度かとりあえず道を聞くことがある。
地蔵と呼ばれる現象に対応するためだ。
なんでもいいから、とりあえず話しかけることで、緊張が解ける。
ほとんど酒が入っておらず、友達もいないときは、このような儀式が役に立つ。
天神の街をさまよう。
気温と同じように、街の反応が暖かい。
ガンシカはほとんどなかった。
しかし、連れ出すこともできなかった。
彼女たちは優しく笑って話し、優しく笑って去っていった。
途中、仕事帰りの彼氏持ちの女の子と、コンビニでビールを買って、乾杯した。
「ありがと。1人で寂しかったけど、君のおかげで救われた」
10分くらい話した後、放流した。
彼女はしっかりとした自分を持っていて、その日のうちに関係を結ぶような子ではないと思ったからだ。
自分には時間がなかった。
この街にはあと36時間しかいることができないんだ。
23時半頃になると、クラッチバッグを持った身長の高い男が、目の前にいる女の子に声をかけていた。
俺はこの人がナンパ師だと直感的に思った。
クラッチバッグはナンパ師界では定番アイテムのようだ。
こなれた感じで街でナンパしている人は、だいたいクラッチバッグを持っているように見える。
俺は自分の格好に合わないからクラッチバッグは使わないけども。
終電の時間を過ぎても、ターゲットがいなくなることはなかった。
しかし、決め手にかけたナンパをし続けてしまったので、クラブに行くことにした。
福岡で最も可愛い子が集まり、最も盛り上がるクラブcat's(キャッツ)へ。
1時になると、箱の中はギュウギュウに詰まっていて、立っていると足を踏まれるくらいになった。この盛り上がりも好景気の影響だろうか。
俺が昔来たときよりも、ずいぶんと盛り上がっているように見える。
10段階で4〜6の女の子を中心にして、男が必死に誘惑をする。
男の外見レベルは正直に言うと、高くなかった。
東京で言うと、Museよりちょっとショボくて、300barよりはマシなレベル。
これは、勝てる・・・・
俺は今夜の勝ちを確信した。
男が不細工だからだ。
この慢心により、後で手痛いしっぺ返しをくらうことになる。
1時30分。
入り口の付近で、まだクラブに慣れてない風の子がいた。
そこそこ可愛い。
「お疲れ!なんかちょっと緊張してない?w 顔が引きつってる」
「クラブあまり来たことないの」
「どこから来たん?」
「○▲×△」
福岡のよくわからない地名のところからだった。
最初、「香川」と聞こえたので、「俺も県外からだよ!奇遇だね」と言ったら、実は福岡の田舎の方だった。
「最近、彼氏に振られたの」
「へぇ、話聞かせて」
乾杯しながら、和んでいく。
距離が近かった。この子からは、即の香りがした。
話し始めて3分で肩を抱き始め、5分で木須をした。
うまくいくときは、こんなもんだ。
福岡のクラブは出入り自由なことは知っていたので、外に出ることを打診した。
「一度、外に出ようか」
「男友達と来てるから怒られるよ」
「え、男と来てたの?w大丈夫なん?」
「友達だから大丈夫」
「少し涼みにいこっか。すぐ帰ってくる」
「わかった」
で、外に出る。
路地裏に座り、DKをしながら、胸に手を伸ばした。
抵抗はなかった。
「もう」
ダメよ、ダメダメとでも言わんばかりの反応だった。
お前はエルサか。
と、これからカラオケでも連れだそうかというところで、グダが入り始めた。
「クラブに戻るよ。私の車で来たから、友達を置いていけない」
このタイミングで、その友達の男に人から電話が入り、クラブに戻ることになった。
クラブの中でも少し粘ったが、なんとなくダメそうな気がしたので放流した。
すると、彼女はものの5分もしないうちに、他の男とイチャつき始めた。
誰でもよかったんかーい。
悲しい気持ちで、チラチラとその子を見ながら箱内をサージングした。
こういう風になったときは、たいていダメだ。
女の子の反応も悪くなっていった。
余裕がない感じで、箱内をウロウロする男はカッコ悪い。
そうなっているときは、基本的にはまずモテない。
クラブだからこそ、勢いをつけて短期決戦するべきなのかもしれない。
振り返ると、最初に外に連れだした女の子が、また違う男とイチャイチャしてきた。
彼女はもう俺のことを覚えていないだろうが、俺はなんだか見せつけられるような気持ちになった。
女の子の反応はさらに悪くなった。
たった一人で、悪循環の中をグルグル回っているような気がした。
最初に「不細工だ」と思った男は、巨乳の女の子と抱き合っていた。
哀れだった。
クラブで勝つのは強い男だ。楽しい男だ。
ギラギラとクラブ内を歩きまわり、ハイエナのような目で女の子を追いかけている男と一緒にいたい女なんているだろうか?
見た目のレベルではない。マインドの問題だ。
楽しむことは最高のルーティーンなんだ。俺は全く楽しめていなかった。
失意の中、俺はクラブを後にした。
クラブを出たところに、女の子二人が歩いていたので、とりあえず声かけ。
「あれ?さっきクラブにいませんでした?」
「いないよw誰と間違ってるのw」
反応はよかった。
「聞いてよ、1人でクラブ行ったらモテなすぎて泣いたw
誰もかまってくれなかった」
「クラブ1人で行ったの!?」
「友達がいねぇんだよwむしろ友だちになってよカクカクシカジカ」
「アハハうける〜お笑い芸人?」
「お笑い芸人を目指して挫折したサラリーマン」
「アハハ」
と、話して、女の子二人とカラオケに。
1時間歌って、可愛くなかったのでギラつくこともなく健全に解散した。
翌日、とても感じのいいメールが届いた。
「昨日はビックリするくらい楽しかった。ほんと、また会おうね!」
下心がないことが、逆に良い風に作用したのかな。
俺は釈然としない気持ちを抱え、友人の結婚式に向かった。