俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

重なる予定、重ならない肌

15:00
パジャマのような格好でコンビニにコーヒーを買いに行った。
レジには白いワンピースを着たお姉さんが、店員と話していた。
店員は地図を広げていた

その様子を見て確信する。

この人は、道に迷っているんだ。
こちらから"道を聞く"までもなく、本当に迷っている

そして、Google Mapすら使えないアホなのかもしれない。
俺の助けを必要としているように思えた。

しかし、着ている服がパジャマであることが、俺を逡巡させた。
パジャマで、知らない女の子に声をかけるのか・・・。


コンビニを出て、所在なさげに歩いている彼女の後ろ姿を追った。


「もしかして」


「はい」


「お姉さん、道に迷ってません?」


「俺は人助けをなりわいとしている者なんです。
お姉さんを助けようと思って」


彼女は思った通り、道に迷っていた。
関西からの旅行者だったらしい。

弾丸で一人で旅行に来ていて、やることがなくなったからホテルに帰ろうとしていたそうだ。
話をしていて、どこか不思議な感じがした。
話を聞いているのか聞いていないのかわからず、掴みどころのない感じ。

話しているうちに、

「東京案内してほしい」

とか、

「夜飲みに行きたい」

とか、明らかな誘いとも取れるIOIを感じた。
しかし、俺はその誘いに乗ることはできなかった。

夜に別のアポがあったからだ。

頭のなかでシミュレートする。

「夜に用事あるから、21時にまた会お。夜に連絡する」

一旦彼女をホテルまで送り届け、予定通りにアポに向かった。

その日のアポではゴールを狙わず、Comfort-Buildingに徹する。
そして、Comfort-Buildingが完了した段階で放流し、旅行女と再会する作戦を立てた。



18:30
18時30分からのアポはつつがなくこなした。

以前に二人組で歩いているところに声をかけた子だ。
俺は逆3がけっこう得意で、二人組の方がむしろトークが楽だった。
なぜかというと、相手が数的に多い状況だと、警戒されにくいからだ。

予定通りイジリつつ、信頼関係を築く。
デートの終わり際に、手をつなぎ、駅まで送っていく。

Comfort-Buildingの終盤に来ていた。
次に会えばきっと・・・。

・・・と、思いつつ、俺の中でなぜか情熱が尽きた。
話しているうちに、この子とは恋ができないような気がしたからだ。

先がない関係は、見切りをつけなければならない。
相手からだとしても、自分からだとしても。


このとき俺は、まだ愛を探していた。
愛せないなら、身体はいらなかった。


「今日はありがとう。気をつけて帰ってね」


駅で彼女を見送り、もう会うことのない背中をじっと見つめた。
家に帰り、そっとLINEを削除した。

サンクコスト・バイアスの呪縛に囚われてはならない。
時間もお金も有限だ。お互いに。



21:00
旅行女と待ち合わせをした。
彼女は東京に憧れていて、都会っぽいところに行きたいというので、六本木のリゴレットに連れて行った。

リゴレットは予約しないで行ったにも関わらず、東京タワーが見える綺麗な窓側の席に案内された。
彼女はとても、運がいい。

東京タワーを見ながらサングリアを楽しみ、東京を案内してくれる便利な男を捕まえたのだから。


「みんな私を甘やかしてくれる」

「洗濯とか掃除とか自分でやりたくない」

と調子に乗っているサインが出ていたので、ディスった。

「洗濯できないアラサーとか異性として見れんわ」
「顔はかわいいけど、絶対結婚したくないタイプやね」

少し褒めつつ、ディスる。

なんか知らんけど、見た目を褒めて中身をディスっていたら相手の食付きが上がってきた。
リゴレットを出るときには相手から身体を寄せ、手を握ってきた。

彼女のホテルに戻る電車の中でもずっと身を寄せてくる。

この状況で、俺はHUNTERXHUNTERで、クラピカが幻影旅団の団長を捉えた場面を思い出していた。


クロロ(団長)のセリフだ。


鎖野郎は殺れる。造作もなく。



旅行女はやれる。造作もなく。

クロロは念能力を盗むが、俺が盗むのは彼女のハートだ。
21世紀の怪盗ルパンである。

電車を降りて、手をつなぎながら歩いていると、交差点の真ん中で、彼女の方から口づけしてきた。
情熱的だった。人の目なんて、何も気にしないかのように。

情熱的な接触とは裏腹に、俺の頭は冷静に「その後」を考えていた。

この子と関係を結んだところで、「俺は」幸せになるだろうか?
何度もシミュレーションした。

夜に時間をかけて、交わり、翌朝の生産性を落とし、読めるはずだった本を読まず、彼女を抱く。
その意味はあるのだろうかと、何度も考えた。


答えは、NOだった。

しかも、継続的に会えるような距離ではない。
彼女の中で綺麗な思い出にしたいとも思った。


彼女をホテルの前まで送ると、名残惜しそうに身体を寄せてきた。
しっかりと抱きしめ、彼女を送る。


「今日はありがとう。よく寝て明日も楽しんで」


彼女を送り、俺もまっすぐ帰路につく。
帰って仕事の準備をする。

おもむろにパソコンを開くと、プログラムされた機会のようにAVを見てしまう自分がいた。


旅行女からはあたたかいLINEが届いた。

最後はこんな言葉で締めくくられた。


「また会うことはできますか」


俺はYesともNoともつかない、曖昧なスタンプを送った。

たぶん、彼女と会うことはないだろう。