中川淳一郎さんが言う「ウェブはバカと暇人のもの」とはどういう意味か?



最近読んだ「ウェブはバカと暇人のもの」という本の紹介。


1973年に生まれた中川淳一郎氏は、一橋大学を卒業後、博報堂に入社した。

しかし4年後、仕事とは好きでもないオッサンを偉くするために働くことだと気付き、博報堂を退社。
以後フリーランスとしてがむしゃらに働き、ネット編集者としての地位を確立した。

2006年に梅田望夫氏が著した「ウェブ進化論」は世の中に大きな衝撃を与えた。
誰もがウェブを通じて自由に発信し、双方向のやり取りを享受できる。

今のwikipediaのように、ウェブの自浄作用によって、コンテンツは洗練され、より良いものを生み出すことができると考えられていた。

オープンソースはソフトウェアを動かす命令文であるソースコードをウェブ上に無償で公開し、誰もが再配布、再開発を可能にした。
ウェブ上で多くの人が共同で一つのものを開発し、日々素晴らしいプロダクトを生み出している。

中川氏は、このような牧歌的とも言えるウェブ2.0の概念を「頭の良い人の世界の話」だと言う。

「IT小作農」を名乗り、自らウェブサイトを運営し、日々書き込まれるコメントとPV稼ぎに日々奮闘している中川氏からすると、ウェブでの双方向コミュニケーションは運営当事者にとって無駄であると断言する。

インターネットの利用料は格段に下がり、「普通の人」や「バカ」でもネットにつなげるようになった。
ネットには四六時中「暇つぶし」のネタを探しまわっており、何かを見つけてはケチをつける人間が存在する。

暇人が悪ふざけできる材料を日々探していて、「みんなの意見」を真面目に聞こうとする人々を愚弄する行為を行うのだから、正しい意見などそこに求めないほうが賢明だろう。


ルミネのCMが女性蔑視と言われ、ネットで大炎上したことは記憶に新しい。matome.naver.jp


この例だとルミネにも非があるが、ネットでは圧倒的有利な立場からクレームをつけ、なんだかよくわからないけどめっちゃ怒られてるから当事者は謝るという流れが定着してきている。


昔、亀田兄弟が流行っていた頃、亀田VSランダエタの中継に対し、オンエアしたTBSには55,000件の電話がきたという。

「よくぞ自分の人生とは関係ないことでここまで怒っていられるものである」

と中川氏はいうが、まさにその通りだろう。


ネットにも自分とは関係ないことになぜか怒りまくってる人がたくさんいる。


ネットには「怒りたい人」と「吊し上げの対象を血眼で探す人」が多い。
そういった人は匿名の個人として発信し、組織を背負ってないがゆえに「絶対勝てる論争」を仕掛けてくる。

先述したルミネの例もそうだろう。

企業はそういった匿名のアホを無下に扱うわけにはいかないのである。

「クレームを受ける側は組織を背負っているため、逆ギレもできない完全なるハンディキャップマッチに巻き込まれてしまっている」と中川氏は言う。

そして、企業も個人も匿名のネット世論にビクついた結果、自由な発言ができなくなっていき、企業の公式サイトはどんどんつまらなくなっていく。



中川氏は「暇人にとっての最高の遊び場がインターネット」と主張する。


ネット民の特徴を「揚げ足取りが大好きで、怒りっぽく、自分と関係ないくせに妙に品行方正で、クレーマー気質、思考停止の脊髄反射ばかりで異論を認めたがらない」とした上で、決定的な特徴は「暇人である」ことだという。

以下の記述は特に痛快だ。

いじめる対象である「バカ」を見つけたところですぐさま関連したサイトを見つけ出し、それを皆で共有し、挙句の果てにはまとめサイトを作ったり電話する人が存在する。

どう考えても彼らは暇人である。

何のモチベーションがあってそんなことをするのかを一瞬悩んだものの、結論は「暇だからやっている」としか考えられないのである。


2ちゃんねるの創始者である西村博之氏が「無敵の人」という概念を説いた。

逮捕されると、職を失ったり、社会的信用が下がったりします。
元々、無職で社会的信用が皆無の人にとっては逮捕というのは、なんのリスクにもならないのですね。

このように何も持たない人がネット上ではどんどん発言力を増していく。

何も失うものがないから、どんなことでもできてしまう。
犯行予告を行ったり、警察官を動員させたりしている「無敵の人」

我々は、彼らを止める手段をまだ持っていない。それゆえ、彼らは無敵であるという。

dic.nicovideo.jp


黒子のバスケ脅迫事件で逮捕された「無敵の人」だけでなく、ネットでは「リアルで何も持たない人」の方が圧倒的に強い。

背負うものがない人にとって、ネットは楽園である。
一方、何かを背負う人間にとっては、ネットは最も発言に自由がない場所となる。

ネットだからリアルよりも自由に発言ができるなんていうのは嘘だ。
まともな人間にとってはリアルのほうがよっぽど自由に発言できるし、おかしな批判も少ない。

リアルで忙しい人の暇人に粘着的な批判に構っている時間はないし、結局消耗して情報発信をやめてしまう人も多い(有名人のツイッターにいちいち絡む暇人がいい例だ)

こうしてバカと暇人は、ますますネットの影響力を大きくし、支配力を強め、梅田望夫が夢見た素晴らしきウェブ2.0の世界は幻想のように感じてしまうのであった。



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今回紹介したのは、中川淳一郎さんが書いた「ウェブはバカと暇人のもの」という本です。


ウェブはバカと暇人のもの?現場からのネット敗北宣言? (光文社新書)

ウェブはバカと暇人のもの?現場からのネット敗北宣言? (光文社新書)


中川淳一郎さんの本にハマってます。
今回紹介した「ウェブはバカと暇人のもの」だけでなく、就職活動について本音を語る「内定童貞」、仕事を頑張ろうという気にさせてくれる「夢、死ね」、続編である「ネットのバカ」も全部買った。
全部読みました。

歯に衣着せぬ物言いで、ズバズバと言い切ってくれるから読んでて気持ちがよく、すっかりファンになってしまいました。
ネットに長年携わっている中川さんの知見は、ブログ運営にあたっても参考になる部分がとても多く、この記事だけでは紹介しきれません。

ネットで発信していると、「なんなんこれ?」とか「おかしいだろ」と思うことはけっこうあると思います。
心の中で思ってて、言葉にできなかったことをズバズバぶった切ってくれる中川節は、読んでいて気持ちがいい!

紹介したい話がまだまだたくさんあるので、折にふれて紹介していきたいと思います。