俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

見ず知らずの老人に道端で「200円欲しい」と言われた。


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ジムでの水泳を終え、サラダチキンでも買って帰ろうかなと考えながら自転車をこいでいた。

スイスイとチャリをこいでいると、テリー伊藤のような風貌の老人が、僕に向かって

「止まって止まって」

と言わんばかりに手を挙げている。
俺はタクシーじゃねぇんだぞと思いながら、自転車を止める。

いきなり自転車を止めてくるなんて、最初は警察かと思ったが、じいちゃんだった。

いや、普通のじいちゃんと言ったら語弊があるかもしれない。
カチッとした高そうなスーツに身を包み、黒いハットを被っていた。


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「どうしました?」


いきなり自転車を止めてきた老人に尋ねる。

すると老人は金色に輝く高そうな時計を見せてきて、


「この時計を預けたいんだけど、200円足りない」


と言った。

ゴニョゴニョと聞き取りづらい声で話すため、はじめは何が言いたいのかよくわからなかった。

「200円ほしいってことですか?」


老人は手元の金色の時計を再び指す。


「そ、そういうこと・・・これを預けるのに200円必要・・・」


老人は聞き取りづらい声で答える。


「わかりました、いいですよ!200円くらい!」


財布を取り出し、200円を渡す。

老人はまっすぐ目を見て2回、

「ありがとう」

とお礼を言ってきた。

「どういたしまして。それでは」

僕は再び自転車をこぎ、セブン-イレブンに向かった。



・・・・って、ちょっと待て!

自転車をこぎながら考える。



なんか、おかしくないか?



なぜ、あんな高級そうなスーツに身を包んだじいちゃんが、200円も払えないんだ?
なぜ、金色の時計を預ける必要があるんだ?
なぜ、見ず知らずの人間(俺)から金をもらうんだ?
なぜ、どこかに預けたいほどの高価な時計をたった200円で預けることなんてできるのか?どこに?駅のロッカー?


考えれば考えるほど疑問が湧き上がってくる。


正直に告白しよう。
僕にも下心があった。


ここで迷わず200円を渡せば、将来ものすごく困ったときに、突然このおっちゃんが救世主のように現れ、俺を助けてくれるんじゃないかな、という下心だ。

そう思わせるだけの迫力と高級感が老人にはあったし、見るからにお金持ちそうだった。
しかし実際は、連絡先なんて交換してないし、二度と会うことはないだろう。

現実は、サラリーマン金太郎や島耕作のようなラッキーは起こらない。

1分足らずの会話で200円を渡した。

時給にすると12,000円をゼロから生み出したことになる。
老人はとんでもないプレゼンテーターだということだ。

金色の時計も、仕立てのいいスーツも、全ては演出だったのかもしれない。
ジョブズのタートルネックのセーターみたいに。


約200円のサラダチキンを購入し、ついでに牛乳を買った。

あそこでどう答えるのが正解だったんだろうか?

立ち止まらず、無視するのが正解だった?
いや、そんなことできない。
本当に困っている老人を見捨てることはできん。


では、200円くれと言われたとき、どうすればよかったのだろう。
脳内でシミュレーションする。


「わかりました」

「しかし、お金とは、生み出した価値の対価です。
いま僕は何も対価をいただくことなくお金を渡そうとしている。
それでは自分が納得することができない」

「だから、今から僕はたまたまお金を落とします。
気付かずに立ち去るので、それを拾ってください」



───ダメだ!

ただの頭おかしい奴だし、それなら普通に渡してしまった方がいい。
というか、200円で何を誇らしげにしているんだ。
なんて考えると、200円という絶妙な金額設定がまたうまいよなぁ、と改めて思う。

200円だと渡してしまうわな。
缶コーヒー一杯だもんな。
うーん何この敗北感!?


なんて妄想を色々と繰り広げていたら、1500文字分くらいのブログのネタになったし、まぁいっかと溜息をつく。
(ブログのネタにするくらいの権利はあるだろう)

このブログを見たじいちゃんが、ある日突然俺に連絡をよこし、

「あのときあなたに借りた200円のおかげで会社を持ち直すことができました!あなたは命の恩人です!」

みたいに1000万持って現れることを信じているよ。



千円札は拾うな。 (サンマーク文庫 B- 112)

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