【書評】ピーター・ティール「ZERO to ONE」から学べること



『ZERO to ONE』は素晴らしい本だった。

人類には奇跡を起こす力がある。僕らはそれをテクノロジーと呼ぶ。

僕たちがが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。何かを創造する行為は、それが生まれる瞬間と同じく一度きりしかないし、その結果、まったく新しい、誰も見たことのないものが生まれる。


著者のピーター・ティールは生きながらにして伝説となっている男である。

1999年、世界最大のオンライン決済システムであるPayPalを創業し、2002年に150億ドルでイーベイに売却。
莫大な利益を手にした創業メンバーは、それぞれの道で活躍を続ける。


SpaceXを創業したイーロン・マスク。
LinkedInを創業したリード・ホフマン。
YouTubeを創業したチャド・ハーリーとスティーブ・チェン。
そして、Facebookに投資したピーター・ティール。

皆、PayPal出身である。
人々は、PayPal出身者の圧倒的な影響力を称して「ペイパル・マフィア」と呼ぶ。


世の中は模倣品で溢れている。

2010年にソーシャルゲームが流行し、山ほどのソーシャルゲームが生まれた。
似たような絵柄の似たようなゲームが顧客を奪い合い、最終的に多くの企業が消滅した。

Facebookに連動した出会い系アプリが流行った。
初期に始めたpairs,omiaiは独占的な利益を手にしたが、その後は似たり寄ったりのサービスが生まれては消えていった。

音楽の無料配信サービス、メッセージアプリ、電子書籍リーダー。
皆、同じようなサービスで、同じような顧客を取り合っている。

飽くなき競争の果てにたどり着くのは、「無」だ。
経済学的に競争は正しいとされているけれど、競争を続けると企業が余剰利益を得られることはなくなる。
それゆえに、企業は小さくても独占を目指す必要がある。


新聞で「グローバル化」という見出しが踊る。
でも、世界を変えるのはグローバリゼーションではなく、テクノロジーだ。

今日の「ベスト・プラクティス」はそのうちに行き詰まる。
新しいこと、試されていないことこそ、「ベスト」なやり方なのだ。
行政にも民間企業にも、途方も無く大きな官僚制度の壁が存在する中で、新たな道を模索するなんて奇跡を願うようなものだと思われてもおかしくない。

実際、アメリカ企業が成功するには、何百、いや何千もの奇跡が必要になる。
そう考えると気が滅入りそうだけれど、これだけは言える。
ほかの生き物と違って、人類には奇跡を起こす力がある。
僕らはそれを「テクノロジー」と呼ぶ。

俺達には奇跡を起こす力がある。
偶然じゃない。奇跡は人間の力で起こすことができるんだ。


未来の進歩を考えるとき、2つの考え方がある。

ひとつ目は水平的進歩で、1からnへ向かうことだ。

水平方向への進歩を「グローバリゼーション」という。
新興国は先進国のような豊かさを目指す。

グローバル化とは、先進国の成功例をコピーし、1をn個の国に広げていくことだ。
その果てにあるのは、大気汚染や資源不足という「破壊」である。

資源の限られたこの世界で、新たなテクノロジー無きグローバリゼーションは、持続不可能なのである。


ふたつ目は垂直的進歩で、前例のない何かを始めること。
つまり、ゼロから1を生み出すことだ。

ゼロを1にするのはテクノロジーである。

少数の選ばれた人間がチームを組むことによって、前例の無いテクノロジーを生み出すことができる。
21世紀を、これまでより平和な繁栄の時代にしてくれる新たなテクノロジーを思い描き、それを創り出すことが、今の僕らに与えられた挑戦なのだ。


2012年ごろ、リーン・スタートアップという言葉が流行した。
リーン・スタートアップは以下のような特徴を有している。

  1. 少しずつ段階的に前進すること
  2. 無駄なく柔軟であること
  3. ライバルのものを改良すること
  4. 販売ではなくプロダクトに集中すること

プログラマにとって非常に都合の良い考え方で、シリコンバレーを中心に、スタートアップ界隈で大変な流行を見せた。
でも、「リーンであること」は手段であって、目的じゃない。

大胆な計画のない単なる反復は、ゼロから1を生み出さない。
正しいのは、むしろリーン・スタートアップとは逆の原則だ。

  1. 小さな違いを追いかけるより大胆に賭けた方がいい
  2. 出来の悪い計画でも、ないよりはいい
  3. 競争の激しい市場では収益が消失する
  4. 販売はプロダクトと同じくらい大切だ

1976年にアップルを創業して以来、スティーブ・ジョブズはフォーカス・グループの意見を聞かず、他人を真似ることもなく、念入りな計画によって世界を本当に変えられることを証明した。

2006年7月に、YahooがFacebookに10億ドルで買収を提示したとき、マーク・ザッカーバーグは取締役会で、迷いもせず宣言した。

「オッケー、じゃ、形式だけ。ちゃっちゃと10分で済ませましょう。ここで売るとかありえませんよね」

マークは自分がFacebookをどうしたいのかをはっきりと思い描いていた。
Yahooにはそれがなかった。

未来をランダムだと見る世界では、明確な計画のある企業は必ず過小評価されるのだ。


ティールは起業家に尋ねる。

「世界に関する命題のうち、多くの人が真でないとしているが、君が真だと考えているものは何か?」

ティールは信じている。
明確な個性を持った個人が、世界でまだ信じられていない新しい真理、知識を発見し、人類をさらに発展させ、社会を変えていくことを。


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ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか

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