俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

「出会いが生まれる」と話題の神田の立ち食い焼き肉「六花界」に一人で潜入してきたよ!




週末の東京で、不退転の覚悟を持って一人の男が立ち上がった。

名をヒデヨシという。
ヒデヨシは料理アカウントとして生まれた。

ノルウェイの森が100パーセントの恋愛小説であるように、ヒデヨシは100パーセントの料理アカウントである。


にも関わらず。




ヒデヨシはアイデンティティを失っていた。


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余は一体、何者なのか。
余は何の為に生まれてきたのか。


その答えを見つけるために。



山手線に乗って神田に向かった。


そこには僕が探していた何かが見つかるかもしれない。

失っていた何かが。


期待と不安が入り混じった感情を胸に抱えて、ヒデヨシは神田駅東口へと歩いた。



★ ★ ★


ナンパをすると決めたなら、心をナンパ仕様に切り替えなければならない。
孫悟飯が実戦から離れて弱くなったように、僕もすぐにフルパワーを出せるかが不安だった。

しかし外に出る以上、言い訳はできない。
自分の力で闘うしかない。


胸が高鳴る。


今日はどんなドラマが待っているんだろうか。

大きく息を吸い込んで、日本のナンパ界で最も有名なセリフを呟く。


準備はいいか?



さぁ、ゲームの始まりだ。



★ ★ ★


六花界は神田駅から徒歩1分の場所にある。

「出会いが生まれる焼き肉」というのは、以前テレビで紹介されたことがきっかけで多くの人に知られるようになった。

サラリーマンでごった返す金曜日のJR神田駅。


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東口から出て、右に曲がるとY字に分かれる交差点があるので、Yの左側に曲がってすぐの場所が「六花界」である。


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敵陣に潜入する兵士のように緊張していた僕は、とりあえず周辺環境の視察を行った。



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外から見てもわかるように、2.2坪ほどの狭いスペースにたくさんの人が集まっている。
人と人との距離は近そうだ。


外にいても美味しそうな焼き肉の香りが漏れてくる。
女子っぽい後ろ姿も見える。


行くんだ。
新しい出会いを手に入れるために、中に入るんだ...!


自分で自分の背中を押す。


「こんばんは」


恐る恐るビニールをめくる。


すると、中から大きな声で


「いらっしゃいませ!」


と聞こえた。

周りの客も笑顔だ。


俺...もしかして、歓迎されてる...?


店員が周りの客に

「XXさん、ちょっと左側あけてくださいねっ!」

と促し、僕が入るスペースをあけてくれた。


横にいる男性が、気さくに話しかけてくる。

「こんにちは!お一人で来られたんですね」

「何を飲んでも400円なんですよ」

「今日はお休みだったんですか?」


何このアットホーム感。



今までたくさんの出会いの場に顔を出してきた。


クラブに行った。
300barに行った。
街コンにも行った。
コリドーでナンパした。


そこにいる男は皆、敵だった。

彼らは僕から女子を奪おうといつも目をギラギラさせていたし、僕も少しでも可愛い子を捕まえようと、周りの男の隙を伺っていた。


でもこの日、僕が入ったこの焼肉屋には、敵はいなかった。



似たような感覚をどこかで感じたことがあるな、と記憶を振り返る。


そうだ。
わかった。


これは、福岡の屋台だ。


大将を中心に、飯を食いながら誰とも垣根なく話す、あの屋台と同じ温かさがこの焼肉屋にはあった。


ビールが届くと、店員が店の客に声をかける。


「さぁ、新しいお客様が来ましたので、皆さんグラスを持ってください!」


「では、乾杯!」


皆が乾杯で僕を出迎えてくれた。


横にいる女性客が声をかけてくれる。


「初めて来たんですか?」

「そうなんですよ。初めてです。たまたま通りがかったから入りました



どの辺に住んでるんですか?
どんな仕事をしているんですか?
お名前なんですか?


ナンパ界では「つまらない質問」と言われるお見合い的トーク。
むしろこの場では、そんな会話が主流だった。

サークルの新歓みたいだな、と思った。

探り合うためではなく、受け入れるための会話だった。

久しぶりの感覚が心地よかった。


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狭いスペースで、皆が仲良く話す。
男性が8人、女性が4人。

半分は常連のようだった。

ナンパをしている人はいない。
正確にいうと、ナンパするつもりで話している人はいない。

皆、会社の同僚と話すかのように会話している。


下心があるのは俺だけだった。


余は何の為にここにいるのだ...?
ナンパをしに来たのではないのか...?


肉の盛り合わせが運ばれてきた。


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七輪で焼きながら、隣の男性客と話す。

「出身地、近いですね、」

なんて笑いながら話した。


そこにすぐ横の女性客も乗ってくる。

「私もそこ、行ったことありますよ!」

ごく普通の会話だった。

ありきたりで、平凡で、でも温かい。


腹いっぱい食って、ビールを二杯飲んだらちょっと眠くなってきた。


会計をお願いする。

お腹いっぱい食べて、ビール2杯飲んで2,000円だった。

帰り際に店員が


「また来てくださいね!」


と言った。

そうか、"また"があるのか。
悪くない。


こういうアットホームな店で、
普通に友達作って、
普通に仲良くなって、
今日は仕事でいいことあったねとか、
最近景気悪いねだとか、
そんな何でもない会話ができる空間、東京には珍しいんじゃないかな。


「六花界」はたしかに出会いが生まれる店だった。
でもそれは、クラブや300barのような出会いと違って、ギラギラした感じはなく、包み込まれるような優しさがあった。

良くも悪くもとても健全で、僕は自分の下心を恥じた。
少しまともな人間になれた気がした。


ナンパの結果としては、誰とも連絡先を交換するでもなく、お腹いっぱい肉を食っただけなんだけど、どこか清々しい気分で電車に乗った。


その後、銀座で泥酔した。



◆六花界の情報◆
*営業時間
17:30~24:00
※日曜・祝日休み

*地図


*食べログURL

tabelog.com