俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

停電事故で遅延する東海道線の中で考えたこと。





7:30
2016年5月12日。木曜日の朝だった。
みなとみらいにあるクライアントのオフィスに行くために東京駅から東海道線に乗り換えた。

朝の下りの電車はそれほど混まないとはいえ、座れるほどはすいていなかった。
僕は仕方なくドアの横に立ち、静かに本を読む。

私用のスマートフォンを家に置いてきた。
業務にスマートフォンは必要ない。移動中の時間を有効活用するためだった。

途中でカバンに入れていたDUO3.0を暗唱する。
40分間、電車の中で立ちっぱなしなのは正直疲れるが、電車通勤は社畜の証。

逃げるわけにはいかない。


8:15
天井の蛍光灯が消えた。

おや?
と思ったが、単に蛍光灯の寿命が来たんだと思った。

品川に着く頃だった。

電車が緊急で停止した。
周りを見渡す。乗客も不思議そうな顔をしていた。

この時はみんな、電車はすぐに動き出すだろうと思っていたのだ。
日本の技術力をナメてはいけない。

5分経った頃だろうか。

駅員からアナウンスがあった。

「川崎駅付近で停電があった影響で、運転を見合わせています」

やられた、と思った。
よりによって、座れなかった時に、こんな事故に遭遇するとは。
それも、普段乗らない東海道線で...!

なんて考えている瞬間だった。
周りの男の人が、会社に電話し始めたのである。

1人は丁寧に話し、もう1人は「参りましたわ~」のように。
アポまでは十分に余裕があるため、僕は優雅にDUOを音読していた。

このときの僕の発音は、ここ数年で一番冴えていたに違いない。

とにかく、電車は動かず、サラリーマンは会社に電話した。
そんな停電だった。

電車がなんとか動き、川崎駅に着いた。
しかし、そこで驚くべきアナウンスを耳にする。

「新子安付近で乗客が大量に降りた」

「そのため、電車が動かない」

嘘だろ...?
電車から、人が降りた...?



自ら電車のドアをこじ開けたって...

どんな怪力!?


範馬勇次郎かよ!
範馬勇次郎は雷に打たれても生きてたけど!


駅員も混乱しているようだ。
アナウンスによると、今度は大量に人が降りていっている模様。

こういうとき、人は二択を迫られる。

降りて、別の路線を目指すか。
あるいは、そのまま電車に乗り続けるか。


僕は、アーリーアダプターでありたい。

行動する人間でありたい。

だから、降りた。京急線に乗り換えるために。

川崎駅から京急川崎駅に向かった。
スマホを置いてきたことを後悔した。

Google Mapがないと、川崎の街がわからない。

しかし人の流れについていくことで、なんとか京急線を見つけた。

なんと、入場規制していた。
京急駅に入れない。

駅の前で悶々としていると、

「JRが再開しました」

というアナウンスが。

JR川崎駅に向かう。
しかし、再開もクソもなく、電車は全く動かなかった。

こういうとき、世の中を呪っても仕方がない。
怒ってはいけない。

僕は、逆転の発想をした。

動けない時間を、有効活用するべきだ。

早速、川崎駅のスタバを探した。
まだ開いていない。

マクドナルドを探した。
満席だ。

もう一つスタバを見つけた。
満席だ。

モスバーガーを見つけた。
満席だ!

どこも満席じゃねぇか!

途方に暮れて、仕方ないからもう一度JRに向かった。
結局1時間遅れで電車は動いた。

電車が動かなかったのは残念だが、おかげでずいぶんと英語の本を進めることができた。
客先にも遅刻することもなかったし、結果オーライだと思う。

世の中を上手に生きていくコツは、クラクションを鳴らさないこと。
そして、満員電車にイライラしないこと、遅延する電車に怒らないこと。