行儀が悪いと言われるかもしれないが、家で一人で食事するときは、スマホでネットサーフィンしながらご飯を食べていた。
スマホを見ないときはテレビをつけて、録画したドラマを見ながら、ご飯を食べた。
何かを食べながら、僕の注意はいつもご飯以外のものに向かっていたわけだ。
ベストセラーになった「ジョコビッチの生まれ変わる食事」という本を読んだ。
ノバク・ジョコビッチは男子プロテニス協会でランキング1位となっている、世界で最も偉大なテニスプレイヤーだ。
ちなみに、日本で最も偉大なテニスプレイヤーである錦織圭のランキングは第5位。
そんな世界で最も偉大なプレイヤーであるジョコビッチだが、常に順風満帆のテニス人生を送ってきたわけではなかった。
原因不明の不調に悩まされ、動きが鈍り、対戦相手の鋭いサーブに反応できなかったこともある(後に食事が原因だったと振り返る)
そんな不調を拭い去り、ジョコビッチは2011年に3つのグランドスラム大会を制した。
きっかけとなったのが、「食事を変えたこと」だった。
具体的には、食事から「小麦」を排除したことで大きな成果を挙げたのだが、ジョコビッチの食事法については別の記事でまとめたい。
今回は、この本の第5章「食事に関する、私のルール」について考える。
ジョコビッチは食事の際、自分に4つのルールを課している。
- ゆっくり意識的に食べよう
- 体に明確な指示を与えよう
- 前向きであれ
- 量ではなく、質を追求せよ
このようなルールを課すきっかけとなったのが、ジョコビッチがロンドンで訪れた「ダン・ルノアール」というレストランだった。
「眠っている舌の感覚を呼び覚ますことがこのレストランの目的だ」と創業者が語る、真っ暗闇のレストランだ。
何を食べているのか想像もつかないままで食事をする。
そのレストランで、ジョコビッチは衝撃を受けることになる。
味覚と嗅覚が最大限に研ぎすまされ、味が口の中で考えられないほど膨らむ。
ゆっくりと、自然に食べるので、鼻と味蕾で最大限に味を堪能できる。
とジョコビッチは語る。
それ以来、食べる速さを落とすことを心掛けているのだという。
ファストフードメンタリティに抵抗することが大切なのだと彼は言う。
では、ジョコビッチの食事のルールについて見ていこう。
まず一つ目の「ゆっくり意識的に食べよう」というもの。
消化には血液が必要となる。
消化システムを向上させ、消化が速くなれば、必要な血液が消化に回され続けることなく、より早く肉体的活動に戻り、肉体運動のパフォーマンスを向上させることができるのである。
大急ぎでよく噛まずに食事を書き込んでしまうと、胃に食べ物が大きな塊として押し寄せてくる。
すると、胃が情報を処理する時間がなくなり、消化が遅くなる。
そして「満腹だ」という信号も出さなくなるため、食べすぎてしまう。
結局、噛まない人が太るというわけだ。
噛むことによって、唾液に含まれる酵素が、口の中にある食物を分解する。
そして、胃はこれからやってくる食べ物に対する準備をする時間ができるのだ。
短時間に食べてしまうと、体は本来よりも過酷な条件でより多くのエネルギーを使い、食べ物を分解するために、やらなくてもいいことをやることになる。
肉体は食べ物と一体になる必要がある。
そのため、ゆっくりと意識して食べなければならないのである。
二つ目の「体に明確な指示を与えよう」というもの。
僕たちが食物を摂取する目的は二つだ。
一つ目は、体を動かすため。もう一つは、治癒と回復のため。
ジョコビッチは、食事をするときに肉体に語りかけているそうだ。
「今日作った傷を修復してほしいんだ。だからこれから君に与えるプロテインを使って必要なことをやってくれ」
というように。
これだけ見るとスピリチュアルのように見えるが、たとえば筋力トレーニングだって、「鍛えたい箇所に意識を向けるだけで効果は大きく高まる」という実証結果がある。
目的を意識して食べることは、もしかしたらそれなりに意味があるのかもしれない。
三つ目の「前向きであれ」。
ジョコビッチは食事の前に必ず祈りを捧げるそうだ。
食べ物に感謝し、食べ物の前で謙虚であるために。
トリコという漫画をイメージしてほしい。
食材を食べる前に、
「この世の全ての食材に感謝を込めて、いただきます」
と言う。とても前向きだと思う。
そうすることで、食材に意識を集中することができる。心が温かくなるのだ。
人生に食事は絶対に不可欠なものだ。
毎日毎日、何かを食べる。
そんな食事の時間に、毎回「有難い」という気持ちを持ちながら、感謝して食べる。
「ありがとう。美味しいです」
とても精神に前向きな効果がありそうではないか。
四つ目の「量ではなく、質を追求せよ」。
アスリートはつねづね「十分ではない」ことを恐れている。
十分に食べ、水分補給して、栄養を採る...。
だから余計に食べすぎてしまう。
必要以上の食物を胃に詰め込み、胃が処理しきれなくなる。
食べる量を気にするよりも、質を気にするべきだ。
良い食材を食べると、食品から得られるエネルギーはクリーンなものになり、消化のプロセスも早くなるのだという。
ジョコビッチは世界を転々として闘い続けているが、食べる物はほぼ全て自炊しているという。
キッチンがついたホテルを探し、自分で食材を揃え、分量や接種のタイミングをコントロールしている。
身体を作るのは食事だ。
その食事に対する姿勢まで、プロとして徹底しているのがジョコビッチだ。
さて、このようなジョコビッチの主張を読み、僕は自分の食事を見直してみた。
スマホを見ながら物を食べるのをやめ、舌先に集中しながら食べてみた。
するとどうなったか?
美味しいのである。
いつもより、数倍美味しく感じる。
食材を噛んだ時の食感を舌先で楽しみ、食材から染み出てくる味を1から10まで堪能することができる。
スマホに意識を向けながら食べていた時とは、本当に全然味が違うのである。
今までの食事は、食材を口に流し込む作業だった。
でも、スマホを置いて、テレビを消し、目の前の食べ物に集中することで、食事は舌の上の感触を楽しむものとなった。
そして改めて気付いたのである。
この料理って、こんなに美味しいものだったのか、と。
ゆっくり噛むことで、食欲も抑えられる。
量はそれほど食べなくても、一回一回の満足度が上がり、食事の密度が濃くなった。
僕たちの身体は、食べたもので作られている。
今までは「何を食べるか」というのは軽視しがちで、とにかく短い時間で栄養が採れればいいや、と思っていた。
スマホで何か情報を得ながら、食事は単に腹を満たすものだと。
でも、それは間違っていた。
食事自体が贅沢なエンタメなのである。
食事を「物を胃に流し込む作業」にするのではなく、食事自体を楽しみ、じっくりと味わうように意識を変える。
今まで気付かなかった美味しさに気付く。
舌から情報を受け取る。胃に準備をしてもらう。
胃がバッチリ消化して、腸で栄養を吸収する。
それが、僕の身体を作る。
そもそもスポーツ選手だろうとデスクワーカーであろうと、資本となるのは自分の身体なんだ。
だから、その身体を作る食事を軽視してはいけなかったんだよな、と改めて気付かされたのだった。
- 作者: ノバク・ジョコビッチ,タカ大丸
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