小説「検索刑事」を読んで、SEOとWELQ問題を考えた。



最近、WELQ(ウェルク)というサイトが信頼性に欠ける記事を多数上げていたことが問題になりました。
クラウドワークスを通じて大量の記事を発注し、網の目のようにリンクを張り巡らし、必要なキーワードをふんだんに盛り込んだ当サイトは検索エンジンに「良質なサイト」と判断され、健康関連のキーワードの上位を独占。

パッと調べた限り、WELQのページビューは月間5,000万にも達し、多くの広告収益を生んでいたものと思われます。

WELQに関しては、球団を持つ上場企業が「健康」という極めてsensitiveな分野において、真偽が曖昧な情報を垂れ流していたことが大きな問題として取り上げられていました。

しかし、それよりも問題なのが、WELQのコンテンツがほぼ丸パクリであったことです。
他の誰かが時間をかけて作り上げたコンテンツを語尾だけ変更して記事を大量に生産していたのです。


Googleはこれまで、コピーサイトは厳しく罰するという方針を貫いてきました。

世の中の情報を整理して、良質な情報をユーザーに届けるのがGoogleの使命だからです。

他人の成果にタダ乗りし、利益だけを掠め取るコピーサイトは、そんなGoogleの使命に真っ向から反しています。

だから、Googleは「コピーしている」とみなしたサイトには厳しいペナルティを課し、サイトをGoogle検索に表示させないようにしていたわけです。

しかし、WELQはGoogleの検索アルゴリズムの「癖」を研究し、文章をパクリつつも、語尾の表現だけ「~だと言われている」のように変更。
Googleはコピーされていることを見抜くことができず、「オリジナリティのある記事がたくさん組み込まれている」(ように見える)WELQを高く評価しました。

このように、Googleの癖を研究して、検索結果の上位に表示するような施策のことを「SEO」といいます。
SEOとは「Search Engine Optimazation」の略。検索エンジン対策のことです。

普段何気なく見ている検索結果ですが、検索結果の向こう側には壮大な人間ドラマがあります。
検索結果の上位に表示されればされるほど、検索エンジンからサイトへの流入が見込めるからです。

そのため、自分たちのビジネスに関係のあるキーワードで検索上位を取得するために、企業やそのサイト制作者、SEO業者がしのぎを削って知恵比べをしているのです。


キーワードには「たくさん検索されるワード」と「あまり検索されないワード」があります。

中でも暮らし・健康・娯楽など生活に関連するキーワードは「ビッグキーワード」と呼ばれ、多くの検索流入が見込めます。
「DeNAパレット」と呼ばれる株式会社DeNAのキュレーションメディアプラットフォームは、このようなビッグキーワードを押さえ、検索エンジン上位を独占するような状態になっていました。


DeNAが作ったサイトは全て同じ作り方をしていました。

クラウドワークスでパクリ記事を安価に量産し、SEO対策を講じ、Googleの評価を上げる。
検索エンジンからの大量流入を促し、そこから広告収入を得る。

今回はたまたま永江一石さんの記事がネットで大きく取り上げられたため、DeNAが自主的にサイト閉鎖という形になりましたが、
同じようなことをやるメディアはこれから大量に出てくるでしょう。


www.landerblue.co.jp


DeNAは氷山の一角に過ぎないのです。
だからこそ、Googleは検索エンジンのアルゴリズムを改善し、コピーサイトに適切なペナルティを与え、良質なオリジナルコンテンツを表示させなければいけないわけです。

インターネット上の膨大な情報から、適切な情報を引っ張り出してきてくれることをユーザーは期待しています。
そして、他の検索エンジンに比べて圧倒的にGoogleの検索アルゴリズムが優れていたからこそ、ユーザーはGoogleを選んできたのです。

ユーザーが「良い」と信じている検索エンジンだからこそ、広告主がGoogleにたくさんのお金を払い、Googleの広告を利用しているわけです。
そんなGoogleの検索結果がゴミばかりになると、ユーザーが離れてしまう。

だから、検索品質はGoogleの生命線なのです。


* * *

「検索刑事」はSEOを舞台にした小説です。

著者の竹内謙礼さんは経営コンサルタントで、ネットビジネスの専門家でもあります。

正直に言ってしまうと、小説のストーリー自体は本業の作家に比べると見劣りする部分はあるかもしれません。

しかし、この本の本質はストーリーや文章表現にあるのではなく、昔流行った三枝匡さんの「V字回復の経営」や、エリヤフ・ゴールドラットの「ザ・ゴール」のように、小説を通じてビジネスを学べる点にあると思います。

スラスラ読みながら、セリフ一つ一つからSEOの基礎を学ぶことができました。


Googleに評価されるにはどういう方針でサイトを作っていけばいいのか?
なぜSEOが必要なのか?


という話は、自分でサイト運営をしてみないとなかなか意識するものではありません。
小説を通じて、日常のどんな場面でSEOが関わってきているのかをより身近に感じることができます。


* * *

検索刑事は、

「『羽毛布団』というキーワードを使って、6ヶ月以内にグーグルの検索結果で1位を取りなさい。さもなくば、もう一人天誅を下す」

という、一通の脅迫文から始まります。

SEOを何も知らない京丸菜々子が四苦八苦しながらSEOを学び、たくさんの人と協力しながらサイトを作り上げていく成長ストーリーでもあります。

その過程でSEOを京丸と一緒に学んでいけるのが、この小説の最高の「オリジナリティ」だと思います。

小説の中で「Googleはインターネット上の警察だ」と言われていました。


「リアルな世界では、確かに善悪の判断をするのは警察かもしれない。
だけど、ネットの世界では、グーグルがすべてを司るルールなんだよ。
グーグルが悪質だと判断すれば、それはペナルティの対象になるし、グーグルが悪質じゃないと判断すれば、それは正義のサイトとなるんだ」


現実世界での警察もたまに間違えることがあるように、Googleにも間違いはあります。
しかし、Googleは一貫して、顧客満足度を高めるように進化し続けてきました。

世界中の優秀な人達がGoogleの門を叩き、世界最高の検索エンジンを改善し続けています。

WELQの問題はネットの信用問題そのものです。
そして、ネットの信用を足元で支えているのはGoogleの検索品質です。

これまでもブラックハットを駆使するSEO業者とGoogleの闘いは繰り広げられ、最後は必ずGoogleが勝ってきました。
真摯にユーザーのためを思って作られたサイトが最後は勝つということです。

Googleを作っているのは神ではなく人間です。
だから、Googleもたまに間違えることもあるかもしれません。

でもこれからきっと、Googleは僕達が思いもしないような進化を遂げて、僕達に良質な情報を届けてくれることでしょう。

そんなGoogleの可能性を。
テクノロジーが正義を支える未来を、僕は信じています。


検索刑事(デカ) (日経ビジネス人文庫)

検索刑事(デカ) (日経ビジネス人文庫)