2016年。
不世出の料理アカウント
としてツイッター界に降臨した私の評判は散々であった。
味への冒涜
悪い方向に芸術的
ひと目見ただけで口に合わないことが想像できる稀有な料理人──────。
ツイッターに料理の写真を上げるたびに、四方八方からこんな声が聞こえてきた。
中には口だけの料理アカウントと僕を評価する人達もいた。
しかし、僕の話を聞いてほしい。
パンチラは、たまに見えるからこそ価値がある。
僕の料理も、それと同じことなのだ。
中学生の頃を思い出してほしい。
拾ったエロ本の中で当然のようにお股を開脚しているセクシー女優と、階段でたまたま見えたクラスの女の子のパンチラ。
どっちが興奮しただろうか?
本当に大切なものは、たまに見せるからこそ価値がある。
僕は自分の料理のプレミアム感を演出したかったのだ。
毎日食べる吉野家の牛丼ではなく、たまにしか行けない高級フレンチのように。
たしかに、そう思っていたのだ───。
しかし昨年末、改めて自分を振り返り、不都合な真実に気付いてしまった。
あまりにも腕を出し惜しみをしすぎると、人は私を料理アカウントとして認識してくれないということだ。
それはいけない。そうなると、僕はアイデンティティを失ってしまう。
というわけで、2017年は料理アカウントとしてのロケットスタートを切るべく、初日から料理を紹介するわけである。
* * *
さて皆様、あけましておめでとう!
僕は今日、読者の皆様にとびきり自信のある料理を紹介したい。
絶対に、誰が食べても「うまい!」と言ってもらえて、しかもなんとなく健康に良さそうな魔法の料理だ。
その名は...
グルテンフリーパンケーキ
である。
グルテンというのは、小麦粉製品に含まれるタンパク質の一種で、このグルテンが入っていない商品をグルテンフリーという。
世界で最も偉大なテニスプレイヤーであるノバク・ジョコビッチ選手の
「ジョコビッチの生まれ変わる食事」
がベストセラーになったことで「グルテンフリー」がブームになった。
ジョコビッチ曰く。
世の中の食材には、ありとあらゆるところで「小麦」が使われている。
けれど、実はそんな小麦が身体に悪影響を与えているのかもしれない。
小麦の摂取をやめてから、2週間であらゆるポジティブな影響が現れた。
競技成績も大きく向上した───
ということで、小麦を断つことで、なんらかのポジティブな影響があるらしい。
とはいえ、「グルテンフリー」であれば小麦製品よりも絶対に健康に良い、とは言えない。
小麦なしでトロッとした風味を出すには、何か「別の物」が入っているはずで、その「別の物」が健康に良いとは限らないじゃないか、と主張する人もいるくらいだ。
結局、何が健康に良いのかは自分で調べて、自分で信じられるものを口にして検証するしかない。
「健康」というのは目に見えないものなので、有名な言説を考えなしに鵜呑みにしがちだ。
でも、僕たちは実際のところ、一人ひとり違う種を持つオンリーワンな存在なはずなので、何が自分に合うかは自分で見つけていかなければならない。
さて、僕は味にこだわる料理アカウントである。
目に見えない「健康」について自信を持って記事を書くことはできない。
だから、グルテンフリーについて、ここでは論じない。
しかし、味に関しては、僕自身が口に入れ、たしかめたものだ。
グルテンフリーパンケーキは、本当に美味しいのである。
フワッとした食感になる。
寒い夜に降る粉雪みたいに。
サクッサクッと口の中で音を立てる。
朝起きて、庭に積もった真っ白な雪を長靴で踏んだときみたいに。
この味を、僕は紹介したい。
それも、再現性のあるレシピで。
それでは、早速調理に入ろうか。
* * *
まず用意するのは「GLUTEN FREE」と書かれたホットケーキミックスだ。
iHerbというサイトで「グルテンフリー」と検索したら出てくる。
ちなみに普通のホットケーキミックスは500円くらいで買えるので、iHerbのグルテンフリーパンケーキは相当高い。
送料がかかるからだ。
なので、もし小麦を使わないパンケーキが気になったら、Amazonで米粉のパンケーキを探してみるのもいいかもしれない。
僕の料理は高級フレンチを意識しているので、味のためには多少原価が高くなっても仕方ないと考えている。
なのでとりあえず、このまま話を進めたい。
さて、このグルテンフリーパンケーキ。
裏に何やら作り方みたいのが書いてあるけど、英語でよくわからない。
でも安心してほしい。
僕が日本語で、完璧なホットケーキの作り方を教えてあげる。
まず用意するのは、牛乳である。
100mlの牛乳を用意してほしい。
次に用意するのは、卵だ。
この卵と牛乳を、ボールに入れて混ぜる。
注意しなければいけないのは、卵と牛乳を混ぜてからホットケーキミックスを投入すること。
そうしないとダメだと、どこかに書いてあった気がする。
次に、ホットケーキミックスを150g分投入する。
そして、グルグルと混ぜる。
混ぜて混ぜて...
トロトロにする。
ここまでトロッたら、次に用意するのは油である。
僕は健康に気を使う男。
体に脂肪がつきにくい油を用意した。
こいつをフライパンに投入し、フライパンを弱火であたためる。
混ぜたホットケーキミックスはちょっとトロッとしすぎなように感じるかもしれない。
正直いうと、僕も不安になった。
もうちょっと牛乳足したほうがいいんじゃないか、とも思った。
しかし、そこはグッとこらえてほしい。
意外と大丈夫なのだ。
俺のレシピを信じろ!
フライパンが温まったら、ホットケーキミックスを投入。
出来の悪い粘土みたいになるけど、気にしなくてもいい。
味は本物だ。
しゃもじみたいな調理器具を使って、形を整える。
形の美しさは、心の美しさだ。
柴犬みたいな色になったら、裏返そう。
裏返して、中の様子を見てみよう。
これはまだ熱し方が足りない。
さて、いい感じに焼けてきたら、ここで隠し味を投入する。
バターである。
バターを切る。
そして、パンケーキに載せる。
バターが溶けて、香ばしい匂いが出てくる。
これぞ、隠し味という感じだ。
そして、裏返す。
バターはフライパンで焼けて蒸発してしまったが、気にしてはいけない。
人は誰しも最期は天に帰るように、バターも天に召されたのだ。
いい感じに焼けてきたら、煙が出てくる。
換気扇を回すのを忘れてはいけない。
さて、ここまでやったらもう一息だ。
最後は、ハチミツを用意しよう。
上等なハチミツを...
ぶっかける!!!
上等な料理にハチミツをぶっかけるかのごとく!
これで完成。
中はフワフワ、食感はサクサクなパンケーキの出来上がりである。
どうだろう?
とても美味しそうではなかろうか?
皆さんもぜひ、この幻のレシピで、グルテンフリーパンケーキを楽しんでほしい。
僕からは以上だ。