インターネットで有料で記事を売るということ




コピペで量産したインチキ医療情報をバラまいた「WELQ」が社会問題となったことは記憶に新しい。
WELQはサイトを閉鎖したが、今度は別の会社が似たようなサイトを作り、検索結果は惨憺たる状況になっている。

wikipediaに見られたように「善意の市民」がネットの情報を良い方向に編集し、正しく有益な情報をGoogleが検索上位に表示する

という、Web2.0的な牧歌的な時代は終わった。

インターネットでは、悪貨が良貨を駆逐する。
悪質なサイトがネットに跋扈し、Googleを欺き、検索結果をハックした結果、良質な情報を発信する人のモチベーションを著しく下げた。

一生懸命取材して、裏を取って、正しい情報を発信した人の記事が検索下位に表示され、情報の裏付けもなく量産したコピペサイトが検索上位に表示されるのだから当然だ。
かくして、ネットはゴミでいっぱいになった。

かつてはゴミはGoogleによって隠されていたが、今度はゴミの山がGoogleに勝利したのだ。


ネットでゴミの量産現象が起こるのは、ネットの情報がとにかくページビュー至上主義になっているからだ。
ページビューというのはウェブサイトのページが開かれた回数である。

サイトに広告を貼り、ページビューが多ければ多いほど広告収入は増えるのだ。

ページビューを稼ぐためには、検索されやすいキーワードを狙い、拡散されやすいような煽りを入れたタイトルを付ける。
情報の裏付けを取って記事の信憑性を高めることや、コツコツと読者の信頼を得ることよりも、とにかく記事を量産して、人の目を引き、ページビューを増やすことが優先される。
結果、記事の質が下がってしまう。


* * *

「週刊文春編集長の仕事術」という本を読んだ。
文春砲でおなじみの週刊文春は、ネットでの情報発信を試行錯誤している。

月額864円の週刊文春デジタル
2017年1月10日からはLINEでの配信を始めた。

週刊文春編集長である新谷学氏は、ネットのメディアの多くはコンテンツの安売り競争に引きずり込まれているという。

ページビューを稼ぐために大切なコンテンツを無料で配信し、安売り競争をした結果、Googleやヤフーニュースなどのプラットフォーム側に主導権を握られてしまった。
その先に待ち受けていたのは、取材費カット、人件費カット、ページの削減などによるコンテンツの劣化である。


これからのメディアが生き残る上で不可欠なものは何か?

それは、「週刊文春というブランドへの信頼である」と新谷氏は語る。

「週刊文春が書いているから事実だ」
「週刊文春のスクープにはお金を払う価値がある」

と言われるように、読者との間に信頼を築くことが何よりも大事で、そのためには極限までコンテンツ力を高める必要がある。
そして、良いコンテンツを提供するには「手間、暇、お金」がかかっていることを理解していただき、それに対する対価を払うことへの抵抗感を払拭したいと新谷氏は語る。

コンテンツビジネスを進めていく上での大原則は「コンテンツを適正な価格で提供すること」だ。

どういうコンテンツになら、お金を払ってもらえるか。
他には真似できない、お金を払って買う価値のあるコンテンツをどうやって作るかを考えるのが、週刊文春のスタンスだ。

コピペサイトでページビュー稼ぎに奔走するキュレーションサイトとは全く別のアプローチであると言えよう。
積み重ねるのはページビューではなく、信頼なのだ。


* * *

「週刊文春」といえば、ズケズケと有名人のプライベートに踏み込み、相手を貶めるとんでもない雑誌だというイメージがあった。
書いてる本人はリスクも負わずに他人を蹴落とすものだと思っていた。

が、「週刊文春編集長の仕事術」という本を読んで、考えが変わった。
彼らは「読者からの評価」を背負っていたのだ。

たしかに記者は顔出しはしないが、その分読者に評価されている。
権力者に屈することなくスクープを狙い、徹底的に取材して、読者に正しい情報を届けようと努力するのだ。

余談だが、僕自身も一度、週刊文春の記者から連絡をいただいたことがある。
恋愛工学の記事を書くのに取材させてほしいというのだ。

もはや「恋愛工学の有識者」でも何でもないため丁重にお断りさせていただいたのだが、週刊文春はちゃんと取材しているんだな、と感じたのはよく覚えている。
1ページにも満たない小さな記事のために膨大な手間をかけて取材して、裏を取ろうとしているのだ。


さて、ここ数年、ネットで情報を有料配信する流れが加速してきている。
noteやメルマガで有料の情報を配信し、ファンがそれを購入する。

「良質な情報はお金を払って手に入れるものである」

という認識は、WELQ問題を経てより一層強くなったように感じる。

ここでも大切なのはコンテンツだ。

手間をかけて、情報の裏を取る。
読者に伝わりやすい表現にするために、記事を編集する。

「このコンテンツをこの値段で買えるならお得だな」と感じてもらうことが大切だ。
それが「信頼を築く」ということだろう。

noteや有料メルマガのようなファンビジネスは、売り手に主導権がある。

無料で記事を配信して、不特定多数に批判される従来のネットの情報配信と違って、買い手は基本的には著者のファンである。
売り手と買い手の間には既に信頼があるのだ。

ただし、信頼というレバレッジにあぐらをかくと、コンテンツが疎かになりがちだ。

多少コンテンツがショボくても、ファンは優しい気持ちでお金を出してくれる。
それに甘えてしまうと、ついつい楽をしてしまう。

「今しか教えない秘密のテクニック」
「これを読めば絶対モテる」
「僕についてくれば絶対成功」

というように読者を煽って瞬間的に売上を増やすのは容易だと思うが、そういう小手先のテクニックに走ってはいけない。

「コンテンツを適切な価格で販売すること」

は、価値以上の値段で売ってはいずれ信頼を失う、ということでもある。


情報発信側はオリジナリティを磨き、他には出せない価値を徹底的に追求する。
自信のあるコンテンツを安売りすることなく、適正な価格で世の中に出す。
読者も「信頼できるコンテンツはお金を払って買うものだ」と認識する。

Google検索が正義ではなくなった今、このような良い情報をお金を出して購入し、発信側はコンテンツで勝負する流れが加速していくだろう。


「週刊文春」編集長の仕事術

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