「バーニング・オーシャン」は他人事ではない




2010年4月20日。
史上最悪の原油流出事故が起こった。

アメリカルイジアナ州ベニス沖にある原油掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」で起こったその事故は、2010年メキシコ湾原油流出事故と呼ばれる。

約78万キロリットルの原油が流出し、事故によって11名が行方不明となった。
映画「バーニング・オーシャン」は生存者へのインタビューを元に書かれたThe New York Timesの記事「Deepwater Horizon’s Final Hours」をベースにして作られている───。


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仕事では「QCD」という言葉が使われます。
Quality(品質)、Cost(費用)、Delivery(納期)の頭文字を取ったもので、プロジェクトは「Q・C・D」のバランスを考えて進める必要があるということです。

・品質を高めようとすると、品質向上のためコストも高くなり、納期が後倒しになってしまう。
・コストを安くしようとすると、品質の確保が難しくなる。
・納期を早くすれば、人件費分のコストは安くなるが、品質の確保は難しくなる。

というように、全てに完璧を求めるのは困難です。

ただ、どんなプロジェクトにも

「必要な予算」
「スケジュール」
「求められる品質」

があるため、3つのバランスを考えて最適解を探していくのが常です。


映画「バーニング・オーシャン」の現場では、当初のスケジュールから40日近くの遅れが出ていました。
遅延したスケジュールに間に合わせるため、必要なテストを実施せずに掘削(くっさく)を急がせたことが事故の原因だと言われています。

品質を犠牲にして、納期を守ろうとしたわけですね。

事故直前の現場では、なんとも言えない「緩み」がありました。

・今まで事故が起こらなかったから今回も大丈夫だろう
・機械が警告を出しても、普段からよく出ているからまぁ問題ないだろう
・早く家に帰るためにさっさと終わらせたい

など、「何かが起こりそうな前兆」はあったわけです。
現場には明らかな油断がありました。
その油断が悲劇を生んだのです。


ドキュメンタリーとも言えるこの映画を観て最初に思ったのは

「これは他人事ではないな」

ということです。

必要な確認を怠り、

「まぁ、大丈夫だろう」

と進めた仕事が事故を起こす、なんてことは実際の現場でありがちです。

また、現場の空気が緩んでくると、危機感も薄れてしまいます。

常に緊張しっぱなしでは疲れるかもしれませんが、危機感を持って仕事に向き合っていなければ、とんでもない惨事を引き起こしてしまうこともあるわけです。

正直、映画を観終わった後は身が引き締まる思いでいっぱいでした。

僕は原油の採掘現場のような、一つのミスが命の危険につながるような仕事はしているわけではありませんが、
油断や慢心によって事故を起こしてしまうと、社会人にとって命と同じくらい大切な「信用」を失ってしまう可能性があります。

ディープウォーターの事故では、指揮官が希望的観測で仕事を進めていました。

「スケジュールを守りたい」

という思いから、発見された問題点をポジティブに解釈しようとするバイアスがかかってしまっていたのです。

「テストの結果には問題があるように見えるが、論理的に考えると大丈夫なはずだ」

と。

頭で考えた論理で物事の是非を判断するのではなく、テストによって得られた証拠を元に是非を判断するべきなのだという教訓を得ました。

バーニング・オーシャンは対岸の火事ではなく、自分の身に降り掛かってくるかもしれない人災なのです。



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最後に映画の感想を軽く書きます。

終始ハラハラして、手に汗握る映画でした。
観た後に幸せな気分になったり、ほっこりするような映画ではありません。

どちらかというと終始ヤバそうな雰囲気が漂っており、緊張感があります。
仕事でスケジュールに追われている人は何かと共感できるかもしれません。

デートで観るなら「美女と野獣」の方がおすすめです。

バーニング・オーシャンは仲の良い人と見に行くなり、一人で見に行くのがいいと思います。