「平日のクラブっていうのは実はブルーオーシャンじゃないのか?」
半兵衛は言った。
半兵衛は僕と一緒に遊んでくれるパートナーだ。
面白い発想をする親友である。
「週末はサラリーマンが大挙して押し寄せる。
でも休みの日はそうはいかないはずだ。みんな翌日に仕事がある。
ライバルのサラリーマンはいないが、平日が休みの職種もある。
月曜・火曜はアパレルや美容師の可愛い子が来るかもしれない」
半兵衛は意気込む。
「たしかに...。たしかにそうだな。行く価値はある」
何事も経験だ。
お互いの予定を確認し、平日のクラブに突入することを決めた。
「平日にクラブに可愛い女の子を探しに行こう」
暖かい春の夜、半兵衛と僕は六本木の地に立った。
1時に六本木で待ち合わせてV2に向かう。
ロアビル前に行列は全くなかった。週末にこんなに並ばずにスムーズには入れたことはない。
外は晴れていて暖かい。
女の子も「クラブでも行こうか」となるかもしれない。
状況は悪くないはずだ。
ボディチェックを済ませ、店の中に入る。
クラブ独特の匂いがしてきた。
この匂いをかぐと僕はいつも胸が高鳴る。
今夜はどんな冒険が待ち受けているんだろうとワクワクしながらエントランスをくぐる。
...。
......。
...なんだこれは...?
中にはほとんど人がいなかった。
スカスカだ。
暇そうにしている女の子は一組だけだった。
他の可愛い子は軒並みVIPに吸い込まれていっているように見える。
VIPじゃないとダメなのか...?
わずかにギャルらしき女の子の集団はいたが、なぜか耳にイヤホンをつけている店員のような人物と抱き合っていた。
こいつらは身内なのか?
これは...なんだ?
店員がチラリとこちらを見る。
なぜか勝ち誇っているように見えた。
なんだこいつは。
グルグルとお立ち台の周りを歩くも、人がいない。
ごくわずかにいた暇そうな女の子と話し、少し仲良くなるものの、テンションが上がらない。
すまん!可愛くないからだ。
この子たちに「店から出ようよ」と打診し、そこからつるとんたんのうどんをご馳走し、家に一緒に帰ってイチャイチャするくらいなら、帰って英語の勉強がしたかった。
半兵衛にもそのようなサインを送った。
クラブでは声がなかなか聞こえないので、あらかじめサインを決めておくのだ。
「放流だ!」
放流とは、魚を離すように女の子から離れることである。
一旦様子見ということで、ダンスフロアで踊ってみる。
相変わらずのステテコダンスだ。
全くリズム感がない。
思えば高校の頃からダンスの成績は壊滅的だった。
人間は成長しない。
得意だった体育で唯一全く評価されなかった「ダンス」
まさか大人になって人前で踊ることになるとは。
しかし子供の頃と同じように、人のいないクラブで、僕のダンスが評価されることはなかった。
30分くらい踊ったときに半兵衛が言った。
「ここを、出よう。ストリートに出るんだ」
僕は一瞬ためらった。
一縷の望みを断ってしまうのか。
福岡のクラブと違って、六本木のクラブは再入場はできない。
クラブから出るということは、ゲームセットということだ。
→福岡のクラブ「Ibiza(イビザ)」に平日、一人で行ってみた
たしかに半兵衛の言うように、状況が改善する見込みはなかった。
「わかった。出よう」
半兵衛と共にV2を後にした。
六本木の街を歩く。
さすがに平日は人が少ない。
マツキヨの前の通りを歩いても誰ともすれ違うこともなかった。
マツキヨ前の通りを2往復した頃、3人組を見つけた。
「お疲れ!なんのパーティ帰り?って絶対クラブじゃんw」
「V2行ってきた。イケメンいなかったーーー」
みたいな返事をされた。
「あーたしかにいなかったね。じゃがいもはたくさん落ちてたけど」
「お兄さんたちもV2いたの?」
「いたけどずっと踊ってた。でもこんなテンション高い女の子は見た記憶ないな」
「私いたの覚えてるよー」
と、別の女が話をした。
3人組相手に並行トークを決める。
どこに行くかも決めずに外を歩いていたようだ。
僕たちだってどこに行くあてもない。
トイレに行きたくなったというので、一緒に六本木ヒルズまで行ってトイレを探し、十分に仲良くなった。
家への「連れ出し」を打診するには良いタイミングだとサインを送った。
「連れ出し」とは、別の場所に女の子を連れ出すことである。
半兵衛といつものルーティーンを使う。
いつものルーティーンというのは、連れ出し先の家主ではない方の男が、
「○○の家でシャンパン飲も!」
みたいに提案するやり方だ。
たとえばこんな風に使う。
僕が
「半兵衛の家行こうよ!
こいつん家、いつもうまいシャンパン置いてあるし、てゆうか、最近引っ越ししたし!
引越し祝いで!」
と言うと、そこで半兵衛が少し戸惑い、「マジで?本当に来るの?」みたいに嫌そうな顔をする。
でも、
「いいじゃんいいじゃん」
とみんなで嫌がる半兵衛の家に押しかける’テイ’にするのだ。
これをやると、「本当は連れ出したくないけど、仕方なく家に行ける」みたいな形になる。
もしかしたら女の子も気付いているかもしれないけど。
この辺のテクニックは「恋愛工学の教科書」が詳しい。
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この日はこの「ルーティーン」がうまく機能し、みんなで半兵衛宅に流れ込んだ。
ルーティーンとは、「決まりきった動作」、ストリートファイターでいうとコマンドを撃って技を決める、みたいなイメージである。
半兵衛の部屋はいつも通り、暗くて雰囲気が良かった。
シャンパンをあける。
半兵衛宅のお酒はいつも美味しい。
酒が進む。
「会話の途中で下ネタを入れて、ハードルを下げる」
のが教科書的なやり方だ。
でも今回は女の子が3人。
こっちは2人。
どうやって扱えばいいのか。
人数比がネックになっている。
どうしようかと考えつつ、特に口説くことは意識せずに話していたら、隣で座ってた子の食いつきが上がってきた。
食いつきとは、好感度的な意味である。
途中から手を絡ませてきたり、口づけをされたりだ。
クラブっていいな。
「何も狙っていないけれどいつの間にか好かれてる」みたいなことは、遊び慣れてくると割と頻繁に起こるものだ。
何事も経験だ。読者のみんなも、もしクラブに慣れていないなら、まずは一歩目を踏み出してほしい。
慣れたら必ず「良いハプニング」は起こる。
結局、食いつきがある子をうちまでタクシーで連れ出し、そのまま致してしまった。
一夜で結ぶ関係はエキサイティングだ。
何も残らないかもしれないけれど、その日は夢を見ることができる。
改めて振り返ると、平日は六本木のクラブはイマイチだった。
ストリートで連れ出せたのも運の要素も強いだろう。
女の子の食付きが上がった理由はわからない。
たまたま好みだけだったのかもしれない。
連絡先は交換するも、その後連絡を取り合うような関係にはならなかった。