銀座で女の子に話しかけてみた



15:00

有給を取ったある日。

パジャマのような格好でコンビニにコーヒーを買いに行った。

当時僕は築地に住んでいて、銀座までは歩いて5分だった。

レジには白いワンピースを着たお姉さんが、店員と話していた。

店員は地図を広げていた


その様子を見て確信した。


この人は、道に迷っているんだ。

こちらから"道を聞く"までもなく、本当に迷っている。

困っている人は、助けなければならない。


もしかしたらGoogle Mapを使えないアホなのかもしれない。

とにかく彼女は俺の助けを必要としているように思えた。


しかし...。

着ている服がパジャマであることが、俺を逡巡させた。

いついかなるときに出会ってもいいように、僕たちは常に準備万端で外出しなければならない。

わかっていたのにそれをサボってしまう自分を恥じた。



俺は...パジャマで、知らない女の子に声をかけるのか...。


コンビニを出て、所在なさげに歩いている彼女の後ろ姿を追った。


よし、やるぞ。



「もしかして」


「はい」


「お姉さん、道に迷ってません?」


「え」


「僕、人助けをなりわいとしている者なんです。
お姉さんを助けようと思って」


彼女は思った通り、道に迷っていた。

関西からの旅行者だったらしい。


弾丸で一人で旅行に来ていて、やることがなくなったからホテルに帰ろうとしていたそうだ。

話しながら、どこか不思議な感じがした。


話を聞いているのか聞いていないのかわからず、掴みどころのない感じ。

話しているうちに、

「東京案内してほしい」

とか、

「夜飲みに行きたい」

とか、明確な好意を感じた。


とりあえず遊びに来て暇だったんだろうな、と思った。


降って湧いたようなチャンスである。

しかし、俺はその誘いに乗ることはできなかった。


夜に別のデートの約束があったからだ。


脳内で今後の展開をシミュレートする。

みすみすチャンスを棒に振るのももったいないだろう。


...よし。


「夜に用事あるから、21時にまた会お。夜に連絡する」


一旦彼女をホテルまで送り届け、予定通りにデートに向かった。

作戦はこうだ。


元々予定があった子とデートはするが、セックストライはしない。

業界では「Comfort-Building」と呼ばれる「仲良くなる作業」に徹する。

そして、Comfort-Buildingが完了した段階でお別れし、旅行女子と再会する。


これで両方のチャンスを無駄にすることなく活かすことができるはずだ。


僕は内心ほくそ笑んだ。


18:30

18時30分からのデートはつつがなくこなした。

以前に二人組で歩いているところに声をかけた子だ。

俺は二人相手に話しかけるのがけっこう得意である。

二人組の方がむしろトークが楽だと感じるくらいだ。


なぜなら、相手が数的に多い状況では警戒されにくいからだ。

ストリートナンパは警戒されずに仲良くなるまでが大変なのだが、二人組だと相手も油断してくれる。


最初のデート相手は予定通り軽くイジリつつ、信頼関係を築いていった。

デートの終わり際に、手をつなぎ、駅まで送っていく。

Comfort-Buildingの終盤に来ていた。

次に会えばヤレる.....!

と、思いつつ、俺の中でなぜか途中で情熱が尽きた。


チンコが反応しないのだ。


チンコが反応しない子とは恋はできない。

先がない関係は、早めに見切りをつけなければならない。

相手のためにも、自分のためにも。


このときの僕はまだ、愛を探していた。

愛せないなら、余計な手出しをしてはいけない。

それが自分の美学だった。


「今日はありがとう。気をつけて帰ってね」


駅で彼女を見送り、もう会うことのない背中をじっと見つめた。

家に帰り、そっとLINEを削除した。


自意識過剰だったかな、反省しつつ前を向いて歩く。


21:00

旅行女との待ち合わせに向かう。

彼女は東京に憧れていて、都会っぽいところに行きたいというので、六本木のリゴレットに連れて行った。

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RIGOLETTO BAR AND GRILL

リゴレットは予約しないで行ったにも関わらず、東京タワーが見える綺麗な窓側の席に案内された。

彼女はとても、運がいい。

東京タワーを見ながらサングリアを楽しみ、東京を案内してくれる便利な男を捕まえたのだから。


「みんな私を甘やかしてくれる」

「洗濯とか掃除とか自分でやりたくない」

と妙に調子に乗っているサインが出ていたので、適当にディスった。


「洗濯できないアラサーとか異性として見れんってw」

「顔はかわいいけど、絶対結婚したくないタイプだよねw」


少し褒めつつ、ディスる。

このスキルを業界用語で「褒めディス」と呼ぶ。


見た目を褒めて中身をディスっていたら相手の反応が明らかによくなってきた。


リゴレットを出るときには相手から身体を寄せ、手を握ってきた。

彼女のホテルに送っていこうとする電車の中でもずっと身体を寄せてくる。


そんな彼女の体温を感じながら、僕は幻影旅団の団長を思い出していた。



鎖野郎は殺れる。造作もなく。

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旅行女はやれる。造作もなく。


クロロは念能力を盗むが、僕が盗むのは彼女のハートだ。

21世紀の怪盗ルパンである。


電車を降りて、手をつなぎながら歩いていると、交差点の真ん中で、彼女の方からキスしてきた。

情熱的だった。人の目なんて、何も気にしないかのように。


そりゃそうか。

だって旅行中だもんな。


情熱的な口づけを続けながら、僕は冷静に「その後」を考えていた。


カスっぷりはデスノートの夜神月のごとし。

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この子と一晩の関係を結んだところで、「僕は」幸せになるだろうか?


脳内で何度もシミュレーションした。


夜に時間をかけて、交わり、翌朝の生産性を落とし、読めるはずだった本を読まず、彼女を抱く。

その意味はあるのだろうかと何度も考えた。


答えは、NOだった。

というのも、彼女は旅行者。

継続的に会えるような距離ではない。

この日どんなに情熱的に交わったとしても、今後も同じように情熱の日を灯し続けるのは不可能だろう。


この旅行を彼女の中で綺麗な思い出にしていてもらいたいとも思った。


よくわからない男のチンコで思い出を汚すわけにもいくまい。


ホテルの前まで彼女を送ると、名残惜しそうに身体を寄せてきた。

しっかりと抱きしめ、彼女を送る。


「今日はありがとう。よく寝て明日も楽しんで」


彼女を送り、俺もまっすぐ帰路につく。

帰って仕事の準備をする。

おもむろにパソコンを開くと、プログラムされた機械のようにAVを見てしまう自分がいた。


いいんだ...これで...。


チンコは挿れず、自らしごく。

それでいいんだ...。


自慰が終わりスマホを見ると旅行女からあたたかいLINEが届いていた。


最後はこんな言葉で締めくくられた。


「また会うことはできますか」


俺はYesともNoともつかない、曖昧なスタンプを送った。

たぶん、彼女と会うことはないだろう。