無性にスープカレーが食べたかった。
有楽町駅から歩いて5分、銀座一丁目駅から歩いて5分の場所に「札幌ドミニカ」という伝説のスープカレー屋があることを察知した私は、仕事を終えると同時に定時で会社を飛び出し有楽町に向かった。
どうしてもスープカレーが食べたい。
その衝動を抑えきれずにたどり着いたのが有楽町である。
90分後には友達と会う予定があるため、私に残された時間は少ない。
90分以内に有楽町という未開の大地を探索し、周辺を歩く女の子の傾向を見極め、対策を練り、スープカレー屋に誘わなければならない。
美味しい物は、みんなで食べるべきだ。
一人でうまいうまいと涙を流しながらスープカレーを食べるよりも、私は女の子が辛さと感動で涙を流す姿が見たい。
この私に...できるのか...？
一晩中、8時間も六本木をさまよって、ただの一人にも相手にされなかったことがある私にとって、90分はあまりにも短い時間的制約であった。
そもそもネット上でしか女の子と話したことがない私に、女の子を連れ出すことなんてできるんだろうか...？
...やるしかない。
人生は結局、やるかやらないかなのだ。
私たちはいつだって、やるかやらないかの選択を迫られる。
そのたびに
「今はまだ早いから」
「今日は調子が悪いから」
「準備ができてから」
と、自分の中で言い訳を作り、チャレンジから逃げてきた。
そんな自分を変えたい。
私は有楽町で女の子に声をかけ、一緒にスープカレーを食べるんだ。
美味しい食事は、分かち合ってこそ価値がある。
美味しいスープカレーを食べるんだ。
できれば可愛い子と一緒に。
勇気を出して、立ち上がる。
「俺には失うものなんてないんだ」
祈るように、独り言をつぶやく。
大きく息を吸い、一歩を踏み出す。
ロマンはどこだ？
恋愛プレイヤーは有楽町を駆ける。
19時過ぎの有楽町は人通りも多く、仕事帰りの暇そうなOLがたくさんいた。
かつて「もう合コンに行くな」という伝説の本を書いたリーマン氏を始め、多くの先人達がこの有楽町でドラマを作ってきた。
- 作者: リーマンナンパマスター
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連綿と続く日本人の歴史の中で最も多くのロマンスを生み出したのが、有楽町マリオン広場。通称・桶狭間である。
今川義元を討ち取った織田信長のように、女の子を討ち取りたい───
有楽町の「桶狭間」は先人のそんな想いから名付けられたのだろうか。
ここには仕事帰りのOL。待ち合わせ中のギャル。不機嫌そうなババアまで、多くの人が行き交う。
近くには本屋もあって、待ち合わせにもいい。
ツイッターの中には
「本屋で女の子に声をかける」
ことを専門とし、その技術を鍛え続けた職人がいるが、彼にとっても有楽町三省堂は聖地だろう。
今日オレは蔦屋で声をかけ、美女からバンゲした
— ケーゴ (@Kgo_Number10) April 12, 2015
だがこれは、紀伊国屋でも街中の小さな本屋でもできるだろう
違いはオシャレ度と、書店の中に連れ出し場所があるかどうかだけだ
一番重要なことはその女性が、
「たまたま本屋さんで、同じ趣味の本を〜」
と女友達に言えるかどうかだ❗️
有楽町を銀座方面に歩いて5分。
ゴールドジムのすぐそばに伝説の「札幌ドミニカ」がある。
路地裏に佇むその姿は伝説と呼ぶにふさわしい。
繰り返しになるが、私の今日のミッションは、知らない女の子に声をかけ、一緒にスープカレーを食べてもらうことだ。
スープカレーを知らない女性に、その美味しさ、素晴らしさを伝えたい。
たしかキリスト教を日本に伝えにきたザビエルという男がいたはずだが、私はスープカレー界のザビエルになろうとしていた。
見た目もザビエルのようにハゲである。
スープカレー宣教師として、彼女の記憶に、いや、彼女の脳髄に、消えない足跡を残したい。
たった1人の冒険は久しぶりだった。
OLが目の前を颯爽と歩いていく。
なんだかお腹が減ってそうだ。
す、すいません・・・！
え？
彼女はイヤホンを外した。
こ、この辺で、美味しいお店って知りませんか？
...俺は何を言っているんだ！
美味しいスープカレー屋に連れて行こうとしているのに、なぜ店を聞いているんだ。
頭と身体が別の動きをしてしまう。
身体が言うことを効かない...！
壊れたロボットみたいだ。
クスクス。知りませんｗ
そ、そうですよね～。それでは、お気をつけて！
なんてつまらない男なんだろう！
自分を呪いたくなった。
ただのカスじゃないか。
私は宣教師にもなれていない。
街の粗大ごみだ！
でも諦めない！Never give up！
次の子を探すべく、街を歩く。
たくさんの女の子とすれ違ってはいるのだが、私は慎重だった。
セクシー美女に狙いを定めるためだ。
女遊び界隈では「地蔵は良くないもの」と言われている。
「地蔵」とは、街に出たくせに声をかけることもなく、じっとお地蔵様のように街で立ちすくむ様をいう。
私は地蔵を悪とは思わない。
地蔵は、権利だ。
私は自らの意志で、地蔵になることができる。
誰にも迷惑をかけず、街を見守るように微笑む地蔵。
それが悪いものであるはずがない。むしろ、仏のように祈られてしかるべきだと私は思う。
お前ら、俺に祈れ！
暇そうに歩いているOLがいた。
私は自らにかけたアストロン（石になる魔法）を解き、声をかける。
すいませんお姉さん！
はｗ何！？
お姉さん、お腹すいてません？
えw何言ってるの？
いや、この辺でめちゃくちゃうまいスープカレーを発見してしまいまして！
スープカレーってｗ何やってる人？
怪しいものではありません。ただスープカレーを愛してるだけです！
私、さっきカフェに行ってきたの。
お、カフェですか！？有楽町に「モンブランがめちゃくちゃ美味い店」があるんですよ。
仕方ないなー。お姉さんなら仕方ないな、スープカレーは諦めて、モンブラン行きますか！
私がさっき行ったのがモンブランのお店だよｗ
てゆうか、私何歳に見える？
お姉さん？25歳くらいかな？
はい、ダメー。そういう胡散臭い人ダメ。
え、何歳なん？
君は何歳なの？
○○歳だよ。
私は君の○○歳年上だよ。
※プライバシー保護のため、一部隠しております
え、40歳ですか！？
駅まで送っていって。
かしこまりました、マダム。
マダムを駅までお送りして、お別れ。
明るいところでよく見ると目元に皺があった。
彼女は閉経までその明るい笑顔を保つことができるのだろうか、といらん心配をした。
左手に指輪の跡はなかった。
48歳まで独身だったらHKB48（閉経ババア48）だな
なんて無駄なことを考えているうちに、だんだんとタイムリミットが迫ってきた。
もはや、
地蔵は権利だ
なんて言う余裕は私にはなかった。
一刻も早く女の子と仲良くならなくては。
スープカレー屋が閉まってしまう！！
※閉店時間は22時
困ったときは直球だ。
高校球児のように直球だ。
白球を追いかけた青春を思い出せ。
今は薄給に人生を追われかけていることは忘れろ！
お姉さんンンン！
お、お腹すいてません？
えｗ
いや、もうトボトボ歩いてるから、確実に腹減ってるだろうなと思って！
何言ってるんですかｗ
面白いですねｗ
（...こいつ馬鹿か）
（私は全然面白いことなど言ってないのに）
いや馬鹿ではなく、天使だ！
僕もちょうど腹減ってて！
店を探してたらお姉さんを幸せにできるスープカレー見つけたんですよ！
うますぎて幸せになると思う！というわけで、一緒にスープカレー食べに行きません？
えーダイエット中なんです～
わかった。じゃあ、俺が延々と食い続けるから、それをずっと見てて。
なんなら写真撮ってインスタにアップして。
えーそれもヤダーｗｗ
もうこうやって話してるうちにだんだん食べたくなってきたっしょ？
大丈夫、一日うまいもん食ったって明日から頑張ればいい！
というわけで、行きましょう。
まぁいっか。
長かった...
スープカレー屋まで歩き、念願の......
念願の...
スープカレー食えたーーー！
うまい！
......うまい！
............うまい！
女の子が隣にいたはずなのに、途中から女の子を忘れてカレーを食べていた。
カレーを食べ終え、LINEを交換した。
会話の節々にそこはかとなく漂っていたアムウェイの香りはカレーのスパイスだったのかもしれない
- みんなで集まって毎週旅行に行ってる
- いま、集まってるサークルを大きくしようとしている
- 今度飲み会に来ない？
- 今は彼氏作るよりも、新しい人と出会って刺激をもらった方がいい。成長できる。
みたいなことを言っていた。
意識高いことを言ってたので、
うんうん、そうだね、仕事で結果残して、ビジネスで活躍したいよね〜
と、思ってもないことを言って、話を合わせていた。
この子とウェイウェイしたくて声をかけたのに、まさかアムウェイされてしまうとは...。
帰ったらLINEが届いた。
♪
今度の金曜日、みんなで飲み会するから来ない？
お誘いｷﾀ━(ﾟ∀ﾟ)━!
とりあえず、スープカレーは本当に美味しかったです。
二人でカレー食って、ビールを一杯ずつ飲んで、3,000円でした。
皆様もぜひ行ってみてください～！
