上野の街に行くのは久しぶりだった。
上野公園にある「パークサイドカフェ」というカフェに行って以来だった。
もちろん、ナンパしに行くのは初めてだ。
「パンダの街」として知られる上野。
パンダの街にはどんなロマンが待っているだろう。
胸が高鳴る。
ワックスで髪を整え、ヒゲを剃る。
コンタクトをつけて、家を飛び出す。
夏は巨乳の季節だ。
ロマンはどこだ?
恋愛プレイヤーは街を駆ける。
★ ★ ★
小走りで自宅最寄りの駅に向かう途中、目の前に綺麗なお姉さんがいた。
追い越し、すれ違い様に目を合わせる。
目が合う。
ルーティーンの始まりだ。
目が合ったからといって、その場で声はかけない。
でも、相手は気付いているはずだ。
信号を渡り、小走りで立ち去る・・・
・・・ように見せて、振り返る。
彼女は交差点で別の方向に向かっていた。
彼女の方向に駆ける。
すいません!
はい!ビックリした。
さっきすれ違って、急いで駅に向かってたんですけど、声かけないと一生後悔すると思って。
クスクスと彼女が笑う。
オープンした!
友達と待ち合わせしてて、あと15分で電車乗らなきゃいけないんですけど、5分だけ立ち話でもできませんか?
いいですよ
道端で10分程度お話して、LINEを交換。
今度ご飯行こうねと話しながら、お別れする。
山手線を降りた先は上野だ。
下町と聞いていた上野の駅は意外なほど立派で、雨の日は上野駅の構内でナンパできそうなくらいだった。
駅を出ると、仕事帰りのサラリーマンが涼んで帰りたくなるような、雰囲気の良い広場があった。
俺が目指すチャノマは丸井今井の9階にある。
今日の目標は初めて知り合った女の子とチャノマに行って適当にお茶することだ。
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新しい店に行ってみることは、自分の経験になる。
経験は話のタネにもなるし、自分の幅を広げてくれるだろう。
ナンパに使う強いエネルギーを、自分の経験にできれば一石二鳥だ。
陸橋を降りると、ストリートミュージシャンが歌を歌っていた。
面白く、そして大きな声だった。
隣にいた買い物帰りのお姉さんに声をかけてみる。
ちょwすごい声ですねw
うふふw
面白いですねw
上野初めて来たんですけど、お姉さん、なんか上野のベテランみたいな顔してますねw
その大量の荷物ww買い物しまくりじゃないですかw
今日は休みだったから買い物してきたんですー
そうなんだ!買い物してきたんですね!
いまオレ、上野に来た記念にチャノマっていうオシャレなカフェに行ってみようと思ってるんですけど、
友達と待ち合わせまで1時間くらい空いてて。
よかったら、30分、コーヒー一杯だけ一緒に飲みに行きませんか?
コーヒーなら奢るし!
え、なんか悪いですよー
全然だいじょうぶですよ!一人で入るのも寂しいし。
コーヒー一杯だけだし!行きましょ!
じゃあ、コーヒー一杯ごちそうになろうかな♪
ひと声かけ目ですんなりと連れ出しが決まった。
これは何も、俺の実力があるとかではない。
運である。
街を歩けば10人に1人くらいは、自分の顔が好みという子はいる。
それが今回はたまたま一人目だっただけで、パチンコの大当たりとさほど変わらない。
穴に入るのが玉か棒かの違いだけだ。
撃っているのはパチンコではなくチンコだが。
上野のチャノマはみなとみらいのチャノマと違って、ちょっと狭い感じがした。
丸井の中ということもあって、みなとみらいのような「デートに最高」というレベルの雰囲気ではないように思えた。
ちょっと明るい。
でも、チャノマ特有のフラットな座席は健在で、足を伸ばして座れるのはとても良さげだった。
女の子はよく喋ってくれる子で、バックトラックとイエスセットを駆使して、ラポールを築いていった。
9割は話を聞いていたので、トーク内容に特筆すべき点はなかった。
俺はよく喋ってくれる子が好きだ。
心を開いてくれるように感じるからだ。
目を輝かせて話してくれる女の子を見ているのが好きだった。
45分後。
そろそろ友達と待ち合わせの時間近づいてきたし、店出よっか。
といって、店を出た。
エレベータを待つとき、どちらからということもなく、手をつないだ。
このとき、俺は誘惑に負けたのだ。
おれは、一回目のデートでは性的なアクションを起こさないことを決めていた。
しかし、恋愛プレイヤーである前に、吾輩は武士である。
何が準準即アルゴリズムだ。
据え膳食わぬは武士の恥。
友達がまだ仕事終わらないみたいだから、もう少し歩こう
上野駅周りの散歩を提案した。
散歩しながら、ある場所を探した。
ホテルだ。
丸井から出て、細い道を曲がると、サラリーマンで賑わう下町のような雰囲気の通りに出た。
ホテルは見つからない。
話を聞くフリをしながら、目はせわしなくホテルを探す。
見つからない。
何が上野のラブホスタッフだ。
ラブホねぇじゃねぇか。
探してるのはロマンじゃねぇ。ラブホだ。
15分くらい歩くと、御徒町という謎の駅にたどり着いた。
「おかちまち」
早口言葉に出てきそうなこの街は、住みやすい下町・上野というイメージを根底から覆すかのような、下品な街だった。
狭い歩道に柄の悪い客引き。
露出した韓国人、キャバ嬢。
治安の悪そうな雰囲気が全面に出ていた。
が、こういう場所にこそ、ラブホはあるはずだ。
俺はこの治安の悪い道を求めていた。
探していた。
御徒町に感謝したい。
この下品な街にこそ、俺が渇望していたものはある。
歩いた。
この先に光があることを信じて。
やっと・・・やっとホテルを見つけたとき、そんな苦労はおくびにも出さず、堂々と言った。
入っていこっか。
え、ほんと?
うん、今日出会えたのは何かの運命だと思ってる。
彼女はコクリと頷いた。
休憩8500円だった。
高い。
上野の洗礼を受けた気分だった。
久しぶりの急展開に、冷静さを失っていた。
ついでに金も失った。
ハートは熱くなっても、頭はクールでなければいけない。
事後、手をつなぎながら駅へと歩いた。
仲良くなったので、写真を撮りながら歩くことができた。
よくナンパとかされるの?
たまに声かけられるけど、ついていったのは初めて!
まじかwありがとう。今日はどしたん?
顔が好みだったの。
パチンコでもあるように、ビギナーズラックは初めてナンパする駅でも発生するのかもしれない。
また会おうねと話しながら、駅で別れた。
上野駅での素敵な思い出になった。
出会ってくれて、ありがとう。
今度はホテルに高い金を出すのではなく、同じ値段で寿司でも食わしてやりたいなと思った。