「加藤はいね」という怪物。



部屋中のパソコンがオレンジ色に染まっていた。


「マイミクならない?」


大学のパソコン室でミクシィの話が飛び交う。

仲の良い友達とマイミクになり、可愛い女の子に毎日あしあとをつけ、紹介文には「イケメン」という文言を入れるよう後輩に指示した。

日本でFacebookをやっている人は誰もおらず、Twitterを知ってる人は誰もいなかった。
携帯電話はパカパカで、みんながミクシィをやっていた。


僕は2007年のインターネットを生きていた。



★ ★ ★


2000年代初頭、侍魂という伝説的なサイトをきっかけにテキストサイトというジャンルの文章が流行った。

テキスト(文章)を主体にしたネタ日記のようなスタイルで、今のようにCSSを駆使してキレイに装飾されたサイトなどはなかったようだ。
テキストサイト全盛期にインターネットに触れたことがなかったため、当時のテキストサイトの熱狂具合はわからない。



僕がインターネットをやり始めたのは2000年代後半で、その時代のブログにはまだ、テキストサイトの影響が色濃く残っていた。

LivedoorやFC2のブログサービスでネタ日記を書いている人が多かったように思う。

「夢を叶えるゾウ」が爆発的にヒットして、今でこそ知らない人がいないくらい有名になった水野敬也さん。
実は無名時代も長く、当時は楽天ブログでアホなことばかりやっていた。

ミズノンノに扮した水野敬也が「手持ちの服を全部燃やしてオシャレに生まれ変わる」という企画覚えてる人はいるだろうか?

ドン小西のファッションチェック企画に応募したときの記事を見つけたとき、大学のパソコン室で割とマジで茶を吹いた。

「ドン小西への挑戦 ~後編~」
http://www.mizunokeiya.com/mizunonno/15/index.html


ミズノンノの応募に対する、ドン小西の返答も面白い。

「すべりまくってるね! かれいの煮付け君 0点!」
http://fanet.jp/regular/don_konishi/58.html


今の時代とは逆行しているかもしれないけれど、こういうテキストのやり取りがやっぱりいいなぁと思う。

ブログも基本的には文章をアップするものですから、テキストサイトを継承するものとして、
テキストサイト文化を受け継いで発展していくのかと思いきや、結果的にはそうなりませんでした。
文章をこねくりまわし、「笑える文章」をストイックに追求する、という事を実行しているブログなどはほとんど生まれませんでした(もちろん少数派ながら存在はしますが)


【今更】あれだけ流行ったテキストサイトが何故廃れたのか考えてみる【考察】
http://omocoro.jp/kiji/4190/


上の引用にあるように、ブログやツイッターにテキストサイトの魂はなかなか受け継がれなかったみたいだけど、2000年代後半には、テキストサイトの影響が感じられるブログがまだたくさんあって、それがすごく好きだった。


当時読んでたブログは、今ではほとんど更新されなくなってたり、消えてしまってたりしたけれど、大学生ならではの暇な時間を存分に費やしてた。


これとか、めちゃくちゃ面白いですよね。

「人生最大の危機。」
http://blog.livedoor.jp/lan_evo129/archives/50783115.html


「老婆は小刻みにビートを刻む 4」
http://humania.blog9.fc2.com/blog-entry-64.html


そいで、スマホが普及して、ツイッターが流行って、テキストサイトの香りがノスタルジックなものになりつつある今、俺の中に彗星のように現れたのが「加藤はいね」だったんですよ。
(加藤さんは実際は2000年代初期から活動していて、俺が存在に気付いたのが最近、という意味です)

「加藤はいね」という怪物。

「加藤はいね」

はてな界隈では、知らない人がいないくらいの有名人ですが、ツイッターからこのブログを見に来てくれる人には、もしかしたら知らない人もいるかもしれません。
加藤さんはめったに記事をUPしないことと、UPしたときの記事のクオリティの素晴らしさから、テキストサイト界の冨樫義博と呼ばれている人です。


昨日ふと思い出して、通勤電車でこの記事を読んだんですよ。


「露出狂にあった話をします」
http://d.hatena.ne.jp/ikkou2otosata0/20140225/1393324125


もうね、普通に涙が出てきました。
感動した。1回上のリンク読んでほしいんですけど、リンク辿ってしまったらもうこっちに戻ってこれなくなると思うんですけど、

「羅って生がない門っ!」

に至るまでに散りばめられた伏線の数々。
ビートを刻むような文章。

ミケランジェロが作ったんじゃない?ってくらい美しい露出狂の露出棒。

北斗神拳くらったくらいの衝撃で「だ び で っ!!!」っつって、私はもう死んでいる!

この息継ぎしないで読ませる感じがたまらん。
いやほんと、素晴らしい絵を見たときとか、素敵な音楽を聴いたときみたいな、そんな感動。そして才能の違いに嫉妬。


今まで数々のテキストサイトを愛してきた僕ですが、加藤はいねは何かこう特別で。
細部にこだわった日本料理を食べるような、そんな気持ちで記事を読んでしまうわけです。


山本一郎さんがいう、「作りこまれた美術品」というニュアンスがすごくしっくりくる。

量産して読み流してアハハという感じの人ではまずない。非常に綺麗につくりこまれた美術品をみるみたいなニュアンスですよね。

たぶん、ひねり出すには命削っていると思うんですよね。絶妙な自虐センスなんです。

引用元:http://narumi.blog.jp/archives/2719865.html

自分でブログを書くと痛感するんですけど、伝えたい事を文章に落として、それを面白おかしく伝えるのってすごく難しいんです。

その困難をワルツを踊るかのごとく軽々と飛び越えていく加藤はいねの言語センス。

加藤さんのセンス、というか加藤節って、普通の人が到底たどり着かない境地にいると思うんです。

一つ一つの文章が作り込まれてて、「ここでこの表現使うか!」って。「こんなんアリか!」って。
笑うよりも先に、感動してしまう。

芸術的といっていい。


テキスト主体のサイトは、まとめサイトやライフハック系のサイトに比べて更新頻度が低くなりがちで、身を絞り出すように記事を書くため、継続も難しい。

そして今後、ウェブのコンテンツはどんどんリッチになっていっていく。
文字数が少なく、動画を駆使したサイトの方がとっつきやすくて人気が出るかもしれない。

でもやっぱり、僕のインターネットの原点は「テキスト」だったわけで。
テキストのやり取りが大好きなわけで。

だから、時代がどんな風に変わっていこうと、僕が愛した古臭いスタイルのテキストサイトを、これからも応援し続けたいと思っています。