「その靴は週末にはすぐに売り切れてしまいますね」
「残り一足です」
「その靴は間違いないですね」
パドローネのダービープレーントゥシューズを買いに行ったときに、店員に言われた言葉だ。
僕は最初から目的の靴を買うつもりで店に行ったのだが、店員のあまりのゴリ押しにうんざりして、
「すみません。検討します」
と言い残して店を出てきてしまった。
服屋には3種類のタイプの店員がいる。
・放置型
・ゴリ押し型
・奉仕型
の3つだ。
「放置型」はユニクロや無印良品のようなタイプの接客だ。
基本的に店員は商品説明はせず、放置する。
商品を客が自由に選び、店員は試着の案内や在庫の確認に専念する。
放置タイプの店は、気が楽だ。
気軽に入れて、自分のペースで商品を見ることができる。
店員は何も営業をかけてこないので、自分のペースで商品を選ぶことができる。
結果として、買うにしても買わないにしても、満足度は高い。
僕は放置型の店はけっこう好きだ。
「ゴリ押し型」の店員は比較的小さめの路面店に特に多い。
店に入るやいなや、いきなり店員が話しかけてきて、ガンガン商品を勧めてくる。
口では
「何かお探しですか?」
と言っても、頭ではほとんど聞いていない。
本音は、
「買えよ買えよ早く買いなよ」
である。
ゴリ押し型の店員は、何を売るかばかりを考えているのだ。
僕が高校の時、ショップスタッフはとてもすごい人だと思っていた。
カリスマ的なイケメン店員が勧めてくる商品を断ることができず、好みじゃない服を試着させられた時は、非常に嫌な想いをした。
「買わせよう」とする気持ちは伝わってくるのである。
彼らの中では客に提案しているつもりなのかもしれないが、客からすると押し売りに近い。
なぜ押し売りに感じるかというと、考える余裕を与えてもらえないからだ。
欲しい情報を与えられるのではなく、聞いていない情報を一方的に投げつけられる感じ。
こっちは店にある商品をゆっくり見たいのに、見ている最中に話しかけられ、
「あ、じゃあこういうのがオススメですね」
と、次から次へと商品を勧められ、気が乗らなくてもとりあえず試着させられる。
ゴリ押し型の店員は、こちらの意見を全然聞かない。
彼らがしているのはただの確認であって、対話ではない。
客の好みを考えて提案するのではなく、自分の売りたいものを出してくる。
聞いてもいないウンチクを語り、客に思考の時間を与えない。
「それはすぐに売り切れますね」
「週末にはなくなりますね」
という言葉は、
「早く決めてくださいよ」
という意味に他ならない。
僕はこういうプレッシャーのかけ方はスマートじゃないと思う。
「人気なんですか?」
とこっちから聞いたときに、
「とても人気があって、品切れになる可能性はあります」
という情報を与えるくらいでいいのだ。
脅す必要なんてない。欲しい情報を与えるだけでいいのに。
人気店にはだいたいこういう店員がいて、高校時代や大学初期の頃は
「ショップスタッフに嫌われたら終わりだ」
なんて考えていたから、勧められたものを断れなかったし、無視もできなかった。
店員に嫌われたら終わりだと思っていたあの頃に自分に伝えたい。
店員に嫌われても終わらない。
代わりの店はいくらでもある。
あの時、あの店で買った服で、5年後も着ている服などない。
時間が経てば好みは変わるし、代わりの店はいくらでもある。
今ではZOZOTOWNでもいい。
金を出すのは自分なのだ。
お金をもらう側が偉そうにするのは基本的にはおかしい。
そんなことが許されるのは、代替品のない独占商品を扱っている会社だけだ。
服屋はそうではない。
なので、選択肢は客が握っていていいはずだ。
自分が頑張って稼いだお金を握って買い物に行っているのだから、不愉快な店員がいたら、
「大丈夫です。自分で考えて、自分で選びますので」
と言っていいのだ。
それで何か嫌な態度を取ってくるなら、別の店に行けばいい。
長年積み重なった愚痴になってしまったが、タイトルに戻って考えると、客の思考力を奪おうとする「ゴリ押し型」は逆効果だと思う。
サービスの主役はあくまで商品であって、店員ではない。
本当に良い商品を売っているなら、客が自ら意見を求めるものだ。
気になる服をゆっくり試着して、自分の頭で考える。
似合うかな、どうかな?
こんなときに着ることができるかな?
値段的にどうなんだろう?
客は服を見ながら、そんなことを色々とじっくり考えている。
なけなしのお金を払う価値があるか考えている時に話しかけられると、結局商品に集中することができず、買っていいかの判断が付く前に思考をブチ切られる。
すると、
「まだ決められないからとりあえず買わないでおこう」
と守りに入りたくなるのだ。
店員は情報だけを与えて、判断は客に任せるほうがいいと思う。
最後に、僕が大好きなタイプの店員について。
僕が好きなスタイルは一貫している。
奉仕型だ。
(はてブでコメントいただいた「見守り型」というのはとても良い表現だと思った)
彼らは商品を売りつけようとしない。
客が店の中をゆっくり見て回るのを、プレッシャーをかけないように見守ってくれる。
そして、手にとって考えているタイミングで、さりげなく
「ご自由に試着してくださいね」
とか、
「サイズ、在庫が気になったら見てきますね」
のように、サポートしてくれる。
こういう気遣いはすごく嬉しい。
あくまで判断の主体は客側に残したまま、客の判断をサポートしてくれるのが奉仕型だ。
時には必要な情報も与えてくれる。
でもそれは、いらないウンチクの押しつけではない。
あくまで、客が聞きたい情報を与え、客の話を聞き、その上で似合うものを提案する。
こんな風に気持ちよく買い物させてくれると、こっちとしてもどんどん試着したくなって、買いたくなってくる。
不思議なことに、「売ろうとしない」店員からの方が、ずっと商品を買いたくなるものなのだ。
なぜかというと、信頼があるからである。
信頼できる店員と仲良くなって、仲良くなると、逆にこちらから意見を求めるようになる。
こういう奉仕型の接客こそが理想の接客だと僕は思う。
結局、相手の立場に立って考えられる人間が信頼を掴み、商売に勝つようにできているのだと思う。
「売ろうとしない人が勝つ」というのは一見矛盾しているが、自分が売りたいものではなく、客が欲しいものを与えるということ。
そうやって信頼関係を築けば、客はもっともっとお金を使ってくれるようになる。
好きな店員がいる店で、毎月5万円以上服を買ってた僕が言うんだから、間違いない。