映画「チア☆ダン」のあらすじと感想



チアダンを観て、部活に捧げた青春を思い出した。

人生の半分を、バスケ部として過ごしてきた。
小学3年生のときに親の真似してバスケを始め、中学、高校、大学と毎日練習してきた。

「目標は全国制覇だ」

なんて言えたらカッコいいんだけど、あまりに非現実的な目標は人をモチベートしない。

実質的な目標は県大会での優勝で、そのために青春の8割を費やした。

来る日も来る日も部活に明け暮れ、部活をしてないときは恋していた。

平安時代の男は顔も見えない相手にラブレターを送ることに人生を賭けていたらしいが、僕は会うこともできない他校の女子にラブメールを贈ることに青春を賭けていたのだ。

賭けに敗れたのは、言うまでもない。

高2の冬に、隣の高校の女バスのマネージャーと付き合った。
地元で一番可愛いと言われていた女の子で、背景が透けて見えるほど白い肌、人形のような大きな瞳、足は折れそうなほど細いのに、なぜか出るところは出ているという、天然記念物のような子だった。


今ではただのおばさんなのだが。


高2の終わり、桜が咲く頃に、彼女は言った。


「次の大会でダンク決めたら、させてあげるよ」


その言葉で、僕のハートに火がついた。

何かを得るためには、何かを失わなければならない。
僕は英語の予習時間を削り、マイケル・ジョーダンが取り組んだという「JUMP ATTACK」と呼ばれるジャンプ力増強トレーニングに励んだ。


童貞の武器は、想像力である。
まだ見ぬモザイクの向こう側を夢見て、僕は来る日も来る日も筋トレを続けた。


僕の知らない「向こう側」に、敬礼ッ!


そして6月。

「高体連」と呼ばれる地区大会の決勝で、僕は見事に試合を決定付けるダンクを決めた。

割れるような歓声と、飛び跳ねて喜ぶ仲間たち。
最初はよこしまな気持ちで始めたトレーニングだったけど、目標を達成したときには、下心は完全に消え去っていた。

優勝したときに泣いている先生を見て、僕も一緒に涙を流した。


その後、夏休みに始まる青春ラブストーリーは完全におまけだ。

長い時間をかけて、一つの目標に向かって努力して、目標を達成したときの快感以上に気持ちの良いものなんて、存在しなかった。

たくさんの人と出会って、たくさん恋もしたし、たくさん関係を持った。
超絶技巧を誇る暇な女子大生や、セクシー女優並みの技を持つOLもいたかもしれない。

それでも、最も大きな快感の種は、自分の中にあった。
それは、長い時間抑圧された環境の中で、継続的に努力することでしか手に入らないものだった。


* * *


「チア☆ダン」は青春映画である。
福井商業高校の生徒がチアリーディングで全米制覇するという、実話を元にした話だ。

2006年に創部されたチアリーダー部は、創部3年で全米チアダンス選手権大会優勝を達成。
以後、2012年から全米大会4連覇という、福井の片田舎から世界最高の結果を残し続けている。


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映画の内容は王道中の王道である。

ダメな部員が熱血教師によって目標を持ち、ひたむきに努力を始める。
大会に出ても最初は結果が出ず、部員たちは仲違い。

それでも諦めず、夢に向かってまっすぐに努力し続けた結果、全国大会で優勝。
最初は部の存続に反対していた教頭先生を含んだ学校中の生徒に見守られ、見事全米制覇を成し遂げる───。


あらすじだけ読むと、まんまルーキーズである。
だが、それがいい。


ダメな部員がひたむきに努力して夢を叶える下克上スポ根パターンは普遍的に胸を打つからだ。
このパターンは何度も何度も繰り返されてきたが、パブロフの犬よろしく、毎回毎回泣かされてしまう。


怪我を押し通して、「俺には野球しかねえんだよ」と、甲子園の夢のために投球を続けるピッチャー。
廃部寸前のバスケ部に入部して、腐っていたキャプテンを更生させ、全国大会に挑むエース。
弱小アメフト部を勝利に導く元いじめられっ子の神速ランニングバック。


どの漫画でも、なんとなく似たような展開になるんだけど、それでも夢のために痛みに耐えて頑張る主人公の姿に心を打たれる。


* * *


僕たちは大人になるにつれて、他人のことはよく見えるようになるけれど、反対に自分のことが全然見えなくなる。


自分が本当にやりたいことはなんだろうか?
自分が心の底から達成したい目標はなんだろうか?

就活のときになんとなく始めた自己分析は、結局自己PRに使われるだけで、自分のことはわからずじまい。
働き始めると忙しくなって、会社の目標を達成するのに必死で、自分のことを見つめる時間がない。

そうやって、自分の心の声が聞こえなくなる。


自分が本当に達成したいと思える目標はなんだろうか?


チアダンの中で、印象的なセリフがあった。

「とんでもないところにいくためのただ一つの方法は、日々の積み重ねである」

「自分の夢をノートに書いて、それを実現するためにしなければならないことを、1日、1週間、1ヶ月単位で書き込め」

イチローと松岡修造にインスパイアされたセリフだが、これはとても大切なことだと思う。

小さくても、毎日続けること。
心から達成したいと思える目標に向かって、努力すること。

苦しかった大学受験や、本気で目指した資格試験、優勝を目指した部活の大会でもいい。あの時みたいに、本気でコミットできる目標に向かって、まっすぐに努力する。
そして、目標を達成したときに、ああ気持ちいいなって、空を見上げて笑う。

長期間の抑圧された環境での努力と、それが開放される瞬間。
これを指して、「充実」って言うんじゃないかな。