歴史の勉強を面白くするのは人の感情



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皆に愛される漫画「キングダム」は壮大な物語である。
李信という名の将軍の成長を通じて、秦王・政が中華統一するまでの軌跡を描く。

2006年から連載が始まったキングダムは、2017年6月時点で46巻、計9,660ページ分が発行されていて、今はちょうど全ストーリーの中間地点にある。
そんな「キングダム」のこれまでの10年分、そしてこれからの10年分の話は、世界史の教科書では

「戦国の世は、咸陽(現在の西安付近)を都にして発展した秦(前221~前206年)により前221年に統一された」

の1行に要約される。


ここ一週間、プライベートの全ての時間を費やして「蒼天航路」という漫画を読みふけっていた。
曹操の人間性に魅了され、時間を忘れて没頭した。

蒼天航路は後漢末期に現れた乱世の奸雄・曹操孟徳の生涯を描いた物語である。

「レッドクリフ」

という映画の名前を聞いたことがある人もいると思うが、レッドクリフは「赤壁の戦い」という三国時代を生む原因となった闘いを描いた映画である。


蒼天航路36巻分に渡る曹操孟徳の活躍は、教科書で

「後漢末に華北で勢力をのばした曹操の子曹丕が後漢を滅ぼして魏をたてると、劉備が四川で蜀を、孫権が江南で呉をたて、中国は三国分立の時代となった」

の1行でまとめられる。

なんと味気ない一文だろう。

受験勉強をしていた頃、歴史の勉強は苦手ではなかったが、決して面白いものではなかった。

受験勉強の歴史では、何年にどんな事件が起こり、その原因は何か?というのを論理立てて覚えていく。
それからセンター試験の模試問題集を何度か解き、選択問題で引っ掛けてくるポイントを押さえておけば、ほぼ確実に90点は取れる。

が、テストの点数を取れても、歴史に心が震えることは決してなかった。

歴史上の事件は単なる記号でしかなく、そこに出てくる登場人物に感情移入することはない。
なぜかというと、教科書や問題集の記述に人の感情が一切描かれていないからである。

当然、「人の感情」という不確かなものを教科書に載せることはできないし、一人ひとりの細かな動きまで教科書に載せてしまうと学習範囲は膨大に膨れ上がってしまうだろう。

それでも、やっぱり歴史を面白くするのは人の感情なのである。人の想いなのである。


血統を重んじる儒教の概念に縛られず、唯才是挙(ただ才のみ、これを挙げよ)と言って、広く人材を求めた曹操孟徳。
劉備との兄弟の契りを想って死んだ関羽雲長。
後の世で暴君のそしりを受けることになる始皇帝の中華統一に向けた志。他国で生まれた苦難。

歴史上の人物が、何を想ってきたのか。
もちろん、2000年近く前の人が考えていたことなんて想像するしかないんだけど、作家を通じて届く彼らの想いこそが僕の心を震わせる。

僕が今、歴史の漫画や司馬遼太郎の小説を読んで感動していることは、真面目に歴史を学んでいる人からすると滑稽に見えるかもしれない。
しかし、歴史漫画や歴史小説は教科書を読むよりも256倍面白いし、歴史上の出来事が自分の教訓となって頭に残る。

学者でない僕にとって大切なのは、正確な歴史の記録を記憶することではなく、歴史上の出来事から何を得るかだ。
そのための近道は、確固たる歴史観を持った作家が語る歴史に触れることだと僕は思う。

人の人生は、要約してしまうと面白みがなくなってしまう。
そして、要約された人生からは教訓を得られない。

生身の人間の苦しみ、喜び、哀しみ、その時描いていたであろう志。

そういう想いを通じてのみ、物語を人生の糧とすることができるのである。



蒼天航路 全18巻 完結コミックセット (講談社漫画文庫)

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時間を忘れて没頭できる『蒼天航路』全巻セットが4,500円。
飲み会一回我慢して読む価値はあると思います。