「スタンフォード式 最高の睡眠」という本の広告を電車内で見つけ、衝動買いしてしまった。
僕はずっと睡眠について悩み続けてきた。
意識が高かった学生時代。
どうにかして睡眠時間を削れないかと考えた。
毎日7時間眠っているのを4時間に減らすことができたなら?
一日3時間分、活動時間を増やすことができる。
ひと月で90時間。これはだいたい簿記2級に合格するくらいの勉強時間だ。
一年で1080時間。これだけの時間を費やせば、何か一つ、身になるスキルを身に付けることができるかもしれない。
伝記を読むと、「ナポレオンやエジソンは一日3時間しか眠らなかった」と書いてあったり、
成功した芸能人の話を読むと、「明石家さんまはほとんど寝ていない」というような、ショートスリーパーの逸話がたくさん出てきて、短時間睡眠さえできれば何かが変わるような気がしていた。
本屋で目についた「3時間睡眠法」のような本を買って、自ら実験してみたこともある。
「24時間ぶっ続けで起きる。
それから4時間の睡眠を3週間続ける。
そうすると、3時間睡眠が楽に継続できるようになる」
というような訓練が紹介されていて、実際にやってみたら見事に体調を崩した。
このショートスリーパーについては、「スタンフォード式 最高の睡眠」で「遺伝によるもの」と断言されている。
短時間睡眠を後天的に身に付けることは極めて難しいので、短時間睡眠の遺伝子を持たない人は、起きている時間を有効活用するしかない。
ツイッターに費やしていた3時間を他に使えば、睡眠時間を削らなくても新たな時間が生まれるということだ。
他にも、
「ノンレム睡眠とレム睡眠の周期は90分。だから90の倍数分眠れば睡眠の質が上がる」
という話を信じて、受験期に4時間半睡眠を試したこともある。
一応4時間半の睡眠で日々過ごすことはできたが、日中眠くて仕方なかった。
90の倍数だからといって、効果があるわけではないのだ。
スタンフォード式「最高の睡眠」のプロローグでは「根拠のない話は書かない」と約束している。
書いてある内容は研究結果として発表されているものばかりで、それゆえに、僕のような睡眠ライフハックオタクからすると、どこかで見たような内容も多い。
でも、「どこかで見た内容」に明確な根拠が与えられたことはありがたいことだった。
今日の記事では、自分の復習も兼ねて、質の高い睡眠を取る方法をまとめたいと思う。
量を確保するだけでは「最高の睡眠」は得られない
最高の睡眠とは、「脳・体・精神」を最高のコンディションに整える、「究極的に質が高まった睡眠」のことを指す。
睡眠と覚醒(パフォーマンス)はセットになっていて、質の良い睡眠は日中のパフォーマンスの向上につながる。
スタンフォードでの研究によると、「睡眠の質は眠り始めの90分で決まる」という。
なぜ、入眠90分が大切なのだろうか?
皆さんご存知の通り、睡眠には「ノンレム睡眠」と「レム睡眠」がある。
ノンレム睡眠とは深い眠りのことで、明け方に近づくにつれて浅く、短くなってくる。
レム睡眠とは浅い眠りのことで、明け方に近づくとレム睡眠が長くなって、身体が覚醒の準備を始める。
レム睡眠は「Rapid Eye Movement」の頭文字を取ったもので、まぶたの下で眼球が素早く動く「Rapid Eye Movement(急速眼球運動)」を指している。
入眠してから最初の90分のノンレム睡眠は、睡眠全体の中でも最も深い眠りである。
成長ホルモンが最も多く分泌されるのも最初の90分で、成長ホルモン全体の70~80%は、この第一周期のノンレム睡眠時、つまり最初の90分にに分泌される。この時間の睡眠の質が悪い場合は成長ホルモンは正常に分泌されないこともわかっている。
この成長ホルモンはアンチエイジングにも効果的があるので、美容を志す場合は、寝る時間に気をつけつつ、特に眠り始めの90分の質を高めることに気を使う必要があるだろう。
「眠りたい」という欲求の多くが最初のノンレム睡眠で解放されることもわかっているため、「黄金の90分」の質を高めれば、すっきりとした朝が迎えられるようだ。昼間の眠気も抑えることができるという。
つまり、寝る時間を確保できない現代人は特に、「最初の90分」の睡眠の質を下げてはならないのだ。
最初のノンレム睡眠が妨害されてしまうと、あとの睡眠は器械で計測できないほど乱れてしまうことがわかっている。
「スタンフォード式最高の睡眠」とは、「黄金の90分」の質を最大限まで高める睡眠方法なのである。
「黄金の90分」の質を高めるためのポイント
人間の表面上の皮膚の温度を「皮膚体温」といい、身体の中心部の体温を「深部体温」という。
1999年に「Nature」に発表された研究によると、皮膚温度と深部体温の差が縮まったとき、人間は入眠しやすくなるようだ。
つまり、良い睡眠を得るためのポイントは入眠に向けて深部体温を下げて、皮膚温度との差を縮めること。
皮膚体温は室温などの影響を受けやすいため、身体の内部の深部体温より若干低くなっている。
体温を理想の状態に調整するコツは、就寝90分前に40度のお風呂に15分入ることだ。
お風呂に入ることで、深部体温は0.5度程度上昇する。
深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質があるので、お風呂に入って一度グッと深部体温を上げると、その反動で深部体温が大きく下がってくる。
お風呂に入らないと体温はゆるやかにしか下がらないが、入浴で深部体温を一度上げることで、そこから急降下させることができるのだ。
0.5度上がった深部体温が元に戻るまでの所要時間は90分。
90分以降は入浴前よりも深部体温が下がっていく。
深部体温が下がると、皮膚温度との差も小さくなるため、入眠しやすくなるというわけだ。
次に心がけることは、寝る前に脳に刺激を与えないことだ。
単調な高速道路の運転中は眠くなるように、人間は単調な状況に眠くなる法則がある。
普段からも、就寝前はできるだけ「退屈」するようにしよう。
いつもどりのベッドで、いつもどおりの時間に、いつもどおりのパジャマを着て、いつもどおりの照明と室温で寝る。
スマホはなんでもできてしまい、交感神経を刺激してしまう可能性があるのでよくない。
本を読むならまだしも、ツイッターでクソリプラーと闘うようなことをしてしまうと、交感神経が刺激されて戦闘モードに入ってしまう。
寝る前のツイッターは絶対にやめた方がいい。睡眠障害の元になってしまう。
第三に、就寝時間を固定すること。
どんなときも同じ時間に眠り、できれば同じ時間に起きる。
朝はできるだけ光を浴びて、夜はできるだけ強い光を浴びない。
朝の光は体内リズムを整える。
また、太陽の強い光は、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌を抑えてくれる。
逆に夜に強い光を浴びてしまうと、メラトニンの分泌を抑えるため、眠りづらくなってしまうので注意が必要だ。
こうやって見ると、当たり前のことを当たり前にやるのが大切だということがわかる。
他にも、睡眠の質を高め、覚醒時のパフォーマンスを上げる方法として、以下のような内容が紹介されている。
- 朝シャワーを浴びる
- 朝食をよく噛みながら食べる
- コーヒーは朝に飲んで、夜は飲まない
- ちゃんと夕食を取る
その他に紹介されている覚醒のコツは以下のようなものがある。
- 会議で眠くならないコツは、会議中に発言すること
- ガムを噛めば覚醒スイッチが入る
- 仮眠を取るなら20分程度がおすすめ
- 通勤時間の睡眠は「better than nothing」程度のもの。細切れよりも連続して眠る方が大事
やはり、「スタンフォード式」とは、当たり前に言われていることを当たり前にやることがポイントなのかもしれない。
当たり前を当たり前にやるのが一番難しいんだけど。
以下、蛇足。
なぜ、眠らないと太りやすくなるのか?
眠らない人は太りやすい。
ダイエットに励む人は、まずは日々の睡眠を見直してみよう。
以下のような興味深い研究結果がある。
- 眠らないと、インスリンの分泌が悪くなって血糖値が高くなり、糖尿病を招く
- 眠らないと、食べすぎを抑制するレプチンというホルモンが出ず、太る
- 眠らないと、食欲を増すグレリンというホルモンが出るため、太る
- 眠らないと、交感神経の緊張状態が続いて高血圧になる
- 眠らないと、精神が不安定になり、うつ病、不安障害、アルコール依存症、薬物依存の発症率が高くなる
僕自身、寝不足の日の朝はなぜか菓子パンを食べたくなったり、おやつを多めに食べてしまうことが何度もあった。
これはもしかしたら、グレリンというホルモンの影響だったのかもしれない。
睡眠の効果
睡眠には以下のような効果がある。
- 脳と身体に休息を与える
- 「記憶」を整理して定着させる
- 「ホルモンバランス」を調整する
- 「免疫力」を上げて病気を遠ざける
- 「脳の老廃物」をとる
睡眠を排除したくなる気持ちは痛いほどわかるが、睡眠は「無駄なもの」ではなく、人間は眠っている間に大事な仕事をしていることがわかる。
眠りの借金を積み重ねない
睡眠不足は積み重なる。
積み重なった睡眠不足は「睡眠負債」と呼ばれ、人間の脳と体にダメージを与える。
アメリカの平均睡眠時間は7.5時間。
フランスの平均睡眠時間は8.7時間。
日本の平均睡眠時間は6.5時間となっており、比較的睡眠が短い。
その上、睡眠時間が6時間未満の人のが約40%もいるといわれており、その傾向は都会ほど強い。
このような睡眠不足は、「土日によく眠る」だけでは挽回できないことが研究でわかっている。
研究の詳細は本を読んでほしいが、慢性的に睡眠負債を抱えた人が、最もパフォーマンスを発揮できるレベルまで回復するには、3週間程度の十分な睡眠を取る期間が必要である。
現実的にはこのような時間を確保するのは難しいため、やはり睡眠の質を高めるしかない、と本書では結論づけている。
- 作者:西野精治
- 発売日: 2017/02/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)