「どれくらい残業してる?」と忙しさを語り合う風潮が苦手だった。



社会人二年目の頃。


今のように「働き方改革」の名のもとに残業を減らすような風潮はなくて、どちらかというと


「残業をたくさんしている人は頼りにされていて、頑張っている」


と認められるような雰囲気があった。


新人研修で一緒だった会社の同期と久しぶりに会ったときの会話が


「残業どれくらいしてる?」


みたいになっていて、基本それほど忙しくなかった僕は、なんとなく気まずくて、


「だいたい月に40時間くらいかな」


と答えていた。10時間くらい盛って、残業している風に答えた。


他の人は50時間も60時間も残業していた時代である。


古き良き時代であったとも言える。


だんだん皆が仕事を任されるようになると、ツイッターでは


「今日も帰れない。辛い」


という呟きが増えた。

古き良き時代の「リア垢」というやつである。


僕はその頃から下ネタしか呟いていなかった。

たいした重要な仕事をしている感じもなかったので、仕事の話をするのが恥ずかしくてふざけていた面もある。


「みんなすごいな。こんなに重要な仕事を任されて。


俺はこんなに早く帰っていいんだろうか」


と、ずっと引け目を感じていた。


引け目を感じるのがしんどくなって、いわゆる「リア垢」は消してしまったくらいである。


この雰囲気は、自分の勤務先だけに限らなかった。


大学時代の友だちと会うときも


「いつも何時に帰ってる?」


「...俺は終電だよ...」


みたいな話が多く出てきて、穿った見方をすると、


自虐風社畜自慢


とも受け取れるような、そんな会話が多かった。


とにかくみんなが忙しく、忙しいことをどこか誇りに思うような雰囲気があった。


もしかしたら、時代というより年齢によるものなのかもしれない。


20代前半の、社会人になりたての頃。


みんなが一斉に社会人デビューして、よーいドン!で仕事を始める。


みんなが「会社に認められたい」と思っていたし、高い志を持って仕事に取り組んでいた。


だからこそ、会社に仕事を任され、遅くまで働かざるを得ない状況というのは名誉なことでもあった。


30代になった今、残業の話をするような人はどこにもいない。


電通の過労死事件があって以来、トップダウンで残業を減らす流れが生み出され、社会全体でも


「無駄なことは省いて早く帰ろう」


という風潮に変わってきているように思う。


昔は21時から始まる飲み会に


「残業で遅れる!ごめん!」


みたいなノリが普通だったけど、今では19時から始まる飲み会に残業で遅れる人はほとんどいない。


自分が勤めている会社に限らず、他の会社の人と飲むときもこんな感じで、みんなが残業ばかりする時代ではなくなったように感じている。



一方で、少し意地悪な言い方を許してもらえるならば。


トップダウンで「残業を減らせ」と言われてすぐに減らせるくらいなのであれば、元々残業する必要がないのにダラダラやっていた部分もあったのではないか。


無駄な会議、無駄な書類、無駄な申請、社内のおっさんに「うむ」と言ってもらうためだけに作る豪華な資料...


無駄なことにたくさん時間を費やして、早く帰ろうと思えば帰れたはずなのに、無駄に残業していた部分もあったのではないだろうか。


組織の規模が大きくなればなるほど、無駄は比例して増えていく。


そういう無駄をなるべく減らして、できるだけ効率的に、人間が働きやすい仕組みを作っていこうという風潮は歓迎するべきだろう。


そして、効率化や生産性を高める風潮が加速すると同時に、


会社に尽くして、一生懸命働いて、出世したら幸せになれる


というような、昭和的な価値観を持っている人も少なくなってきているように思う。


逆に言えば、「働きまくって出世するぜえ」という人には有利な時代なのかもしれない。

昭和のように経済が右肩上がりで成長する未来は見えないが、熱血サラリーマンを志し、サラリーマン金太郎よろしく


「24時間働けますか?」


的な雰囲気の人が極端に減っていくとしたら、熱血マンは逆に、相対的に目立つようになるだろう。




熱血サラリーマン志望の人間が減る一方で、

「好きなことで生きていく」

とか、

「プライベートの時間でスモールビジネスを始め、自由な時間とお金の両方を求める」

という考え方をする人は、最近増えているように感じている。


自分がツイッターを通じて見る世界がそう見えているだけで、リアルにスモールビジネスを始めている人は少数かもしれない。


それでも、最近バズりまくったDJ社長の


【好きなことで、生きていく】


に多くの人が心動かされたように、


「好きなことをやっていこう」


「一度きりの人生、自分の楽しいことで生きていきたい」


と考える人が少しずつ、少しずつ増えてきているように思う。


www.youtube.com

ちなみに僕はこの動画の音声をmp3にしてiPodに入れて、繰り返し繰り返し聞いている。


小説も同じだけど、心を動かされたものは何度も何度も繰り返して味わうのがいい。

読むたび、そして聞くたびに新しい発見がある。


今の時代は生き方の選択肢が多くて時々道に迷いそうにもなるけれど、

楽しくない仕事で辛そうに残業することが"善"とされていた時代よりも、ずいぶん居心地が良い。


動画の中で


「人生は自分次第やろ」


とDJ社長が言った。


「自分次第の人生」


を後押しするような、そんな空気が醸成されていく気運を感じている。