「ドリルを売るには穴を売れ」はどういう意味か?



「ドリルを売るには穴を売れ」


というタイトルを聞いたことがある人はいますか?



2007年にコンサルタントの佐藤義典さんが『ドリルを売るには穴を売れ』という本を出して以来、

マーケティングを語る際によく引き合いに出される言葉です。


ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ



この有名な「ドリルを売るには穴を売れ」というタイトルの意味は、顧客にとっての価値を考えよ、ということです。


ドリルを買いに来るお客さんが求めているのは「穴を開けること」であって、「ドリルを買うこと」ではありません。


顧客は、顧客にとっての価値を実現するために製品を買うのであって、製品を買うことが目的ではないのです。



『ドリルを売るには穴を売れ』は、マーケティングを初めて学ぶ人向けの入門書です。


この本に書いてあることは、最低限の理論です。

最低限の理論を、できるだけわかりやすく、最小限のカタカナで、体系的にまとめています。


この本で書かれているマーケティング理論は4つです。


  • ベネフィット──顧客にとっての価値を考える
  • セグメンテーションとターゲティング──顧客を分けて絞る
  • 差別化──競合よりも高い価値を提供する
  • 4P──価値を実現するための製品・価格・販路・広告


これらの理論をストーリーを交えて、やさしく掘り下げて解説してくれます。

長くなりそうなので、いくつかの記事に分けて内容を見ていきます。


......最近ツイッターの反応を見ていると、こういう記事はあまり求められていないのが痛いくらいに感じているのですが、たまには真面目なことも書きたいのです。

顧客にとっての「ベネフィット」とは何か?


ベネフィットとは、「顧客にとっての価値」のことです。


売り手の視点に立つと「ドリルを売る」ことが目的になってしまいがちですが、

顧客にとって価値があるのは「ドリルが開ける穴」です。


つまり、顧客はドリルを買っているわけではなく、「穴を開ける道具」を買っているわけです。

トンチみたいな言い回しですね(笑)


極端な話、もし「いつでも穴を空けてくれる職人」がドリルよりも安く売っていたら、ドリルではなく職人の時間を買っていたはずです。


何が言いたいかというと、売り手の立場だとつい


「商品を売ること」


ばかりに目がいってしまいますが、顧客が何を求めているのかを忘れてはいけないということです。


ドリルを売ろう!と意気込むのではなく、まず顧客がどんな価値を求めているのかを想像し、適切な価値を提供しなければいけません。


有料noteはなぜ売れるか


マーケティングとは、「顧客にとっての価値」を売り、その対価として顧客からお金をいただくことなのです。


「顧客が得る価値」が「顧客が払う対価」より大きいと感じたとき、顧客は「商品を買う」決断をします。

顧客が払う対価とは、お金だけではなく、その商品を手に入れるための手間や時間なども含まれます。


noteがあんなに売れる理由の一つは、課金のハードルが非常に低いからでしょう。


もし500円の有料noteが本屋に行かなければ買えないとしたら、

たぶん今noteを買っている人の半分以上は


「やっぱ買うのやーめた」


と言うのではないでしょうか。


有料noteが売れる理由はこんな感じかと思います。

  • 本に比べて手軽に読むことができる
  • 「読むと成功に近づける」という期待感が得られる
  • 著者が買い手と直接つながっているため、他の商品と比較されにくい
  • 中が見えない「袋とじ」になることで、より貴重な情報に感じる
  • 限定販売されると慌てて買いたくなる


noteを買う顧客が期待しているのは以下のようなベネフィットだと思います。

  • もっと稼ぐことができる
  • もっとモテることができる
  • もっと仕事の能力を向上させることができる
  • もっと美しくなることができる


なので、どちらかというと、漫画や小説よりも自己啓発系の内容の方がウケるように思います。

2種類のベネフィット


「顧客にとっての価値」はベネフィットと呼ばれます。

ベネフィットは2種類あります。


・機能的ベネフィット

・情緒的ベネフィット


の2つの観点です。


機能的ベネフィットとは、物理的で計測しやすい価値のことです。


時計の場合は「時間がわかる」、「軽くて使いやすい」

バッグの場合は「丈夫」「荷物がたくさん入る」

靴の場合は「歩きやすい」


などが「価値」となります。



情緒的ベネフィットとは、デザインや憧れなど、その商品本来の機能とはあまり関係のない価値のことです。


高級ブランドの時計を買った人は、ただ時間を測りたいだけではなく、

「そのブランドを買ったという達成感」や、「憧れの時計をしている魅力的な自分」を買っているわけです。


一躍”時の人”となった梅木雄平さんが、こんなツイートをしていました。



このツイートを見た各ブランドのマーケターはほくそ笑んでいたと思います。


これらのブランドは巧みに高級感を演出し、情緒的ベネフィットを満たすように設計されています。


このようにブランドで人間が格付けされるのは、マーケター冥利に尽きるでしょう。


買い手の購買意欲を掻き立てる裏側には、必ず優れたマーケターがいるのです。


人が価値を感じる源泉は何か?

価値とは、突き詰めると人間の欲求や欲望です。


「マズローの欲求5段階説」が有名ですが、もっとシンプルでわかりやすい理論があります。

アルダファー氏が提唱したERG理論です。


アルダファーは人間の欲求を3つに集約しました。


【1】生存欲求(E : existence):物質的・生理的な欲求をすべて含み、飢え、賃金、労働条件などすべてに対する欲求。


【2】関係欲求(R : relatedness):自分に重要な人々(家族・友人・上司・部下・敵など)との関係を良好に保ちたいという欲求。社会的に認められたいという欲求。


【3】成長欲求(G : growth):自分の環境に創造的・生産的な影響を与えようとする欲求で、これが充足されれば、人間としての充実感が得られるとされる。


参考:アルダーファのERG理論


この分類は個人的にもしっくりきました。


ご飯を食べるのも、眠たくなるのも、女の子を追い求めるのも、生存欲求を満たすためです。

高いブランドの時計が欲しくなるのは、人にすごいと言われて、関係欲求を満たすためです。

毎日勉強するのは、もっとたくさんのことを学んで成長欲求を満たし、また将来の成功につなげるためです。


人はこの3つの欲求を満たすために行動します。

マーケティングとは、人間の欲求を満たすことができるベネフィットを提供し、その対価としてお金をもらうことなのです。


続きはまた明日。


ドリルを売るには穴を売れ

ドリルを売るには穴を売れ