事実上の引退と言われた今だからこそ学びたい「イチローの考え方」



積読していた『イチローの流儀』という本を読みました。

数々の記録を塗り替えてきたイチロー選手の考え方に今一度、触れてみたいと思ったからです。

2006年に書かれた古い本ですが、長きに渡ってイチローの番記者をやってきた小西慶三さんならではの深い洞察で、イチローの素顔が語られています。


この記事ではその中の面白かった部分をかいつまんで紹介します。


イチローの流儀 (新潮文庫)

イチローの流儀 (新潮文庫)

モチベーションは自分の内から


「なぜイチローは、チームが勝った試合の後でもうれしそうな顔をしないのか?」

マリナーズ広報部、副部長となったウォーレン・ミラーは疑問を抱いた。


彼の常識では、公式戦で快勝した日のクラブハウスにはロックミュージックが鳴り響き、ビールの小瓶を片手にした選手がレポーターに軽口を交わすのが恒例の風景だと思っていたからだ。


イチローのロッカー前だけは別世界の空気が漂っていた。


ロッカーに向かって椅子に座り、アンダーシャツのままでしばらく何かを考える。

黙考が終わると自らのグラブを手に取り、丹念に磨く。

そして小さな棒器具を使って足裏を自らマッサージした後にシャワー。


儀式のような行動は、勝った日も負けた日も変わらず、毎日繰り返されていた。


なぜか。


その源流は、オリックス時代の経験にある。

1996年、179万6千人という最大の観客動員数を記録して以降、オリックスの人気は低迷が続いた。


1997年以降の、ひとりひとりお客さんが数えられそうなほど空いていたグリーンスタジアム神戸でプレーする気持ちを、イチローはこう語っている。


「優勝した後、チームがどんどん弱くなっていった。

それからはモチベーションをどうやって保つのかが最大のテーマでした。

そこで考えたのは、外的な要因のプレッシャーを感じているとモチベーションが保てなくなるということ。

モチベーションが自分の中から生まれていればある程度保てるのではないか、と」


他人に評価されることで「良い、悪い」を判断することが正しいとは思わない、とイチローは言う。


「自分が『良い感覚』をつかんでいるかどうかが大事なんです。

他人のプレッシャーに影響を受ける人は、他の人からすごいと言われたら、自分の感覚が納得できていなくてもすごいと思ってしまうかもしれない。


僕は他の人がすごいと言っているからそれでいいとは思えないし、思わない。

あくまで自分がどう感じるのかが大事ですから」


10打席で3度ヒットを打てば一流とみなされる打撃で、イチローの場合は「イチローなら打って当たり前」と言われるようになった。

日本にいた頃のイチローを覚えている人なら、この空気を覚えていると思う。


「イチローは打てないとおかしい」


と。


「何をやっても驚かれない」という状況が形成されていく中で、イチローは「まずは自分がどう感じるか」を指針に置くように心がけた。


イチローは自分自身をきちんと理解できているかをとても大切にする。


「なぜそういう結果になったのか。

その理由がしっかりつかめていないのに結果が出る。


反対に、結果が出ていなくても、なぜそうなったのかがわかっている。

この2つは全然意味が違います。


ちゃんと原因が自分でもわかっていれば、結果はいずれ出るようになるんです


スポーツに限らずとても重要な考え方だろう。

なぜ結果が出たのか、あるいはなぜ結果が出なかったのかをきちんと理解すること。


結果の善し悪しよりも、自分が理由をわかっていることが大事なのだとイチローは言う。



毎日行動を振り返り、遠くを見据えて行動する

「一日の反省はグラブを磨きながら。

昨日試合後に何を食べたか、よく眠れたのか、というところから、実際にゲームが終わるまでに起こったすべてのことをよく振り返って考えてみる」


イチローは日頃から非常に細かいことまでよく考え、ベストプランを実行に移すために何をすればいいのかを探っている。

毎試合後の振り返りは、その細かい調整のルーティーンの一つだ。


イチローはコンスタントに力を出すことにこだわってきた。

ヘッドスライディングやダイビングキャッチをやらないのは、「頭からいったほうが明らかに遅い」という理由の他に、故障による長期戦列離脱を避ける意味もあった。


野球も、私生活も、準備全般は遠い先まで見据えている。

あらゆる行動の起点に、長期にわたっての安定が考慮されていた。


事前準備の大切さ

イチローの元同僚の長谷川滋利はイチローについてこう語った。


「絶対に遅刻をしないことが彼の野球に対する誠意の表れ」


イチローは公式戦は当然のこと、オールスター、オープン戦を含めてチームの集合時間に遅刻したことは一度もない。


一定期間イチローの行動を観察すると、大まかなパターンが浮かぶ。

球場入りは他の選手よりも1時間早く、その時間をストレッチを兼ねた約45分のマッサージに充てている。

睡眠は7時間から8時間。

球場入りの7時間前起きて食事を摂り、カフェでひと休みした後にクラブハウスへ、という流れである。


目覚め、身支度を整え、食事を済ませて球場に向かう一連の行動はある程度の誤差が生じることも計算に入れ、余裕あるスケジュールになっている。


その事前準備の周到さは2006年にドラマ「古畑任三郎」に出演したときも同じだった。

約二週間に及んだ収録では、集合時間の2時間前には必ずスタジオ入りして万全を期していた。

台本は完璧に暗記していたという。


どんなときも徹底して事前準備を行う。

決して手抜きしないところに、イチローのこだわりが見えた。

妻のサポートも素晴らしい


イチローはそれぞれの遠征先の街に、お気に入りの店を見つけてある。

味の良し悪しも大事だが、それ以上に落ち着いて食事ができる雰囲気であることを重視する。


美味いものには目がないイチローが旅先で少々我慢ができるのは、弓子夫人が手がけるバランスの取れた食事に満足しているからなのだろう。


イチローの準備は弓子夫人なくして成り立たない。

元TBSアナウンサーである弓子夫人は、イチローと結婚後、同社を退社。

以降、芸能活動からは遠ざかり、夫のサポートに徹している。

弓子夫人も年に1、2度遠征に同行することもあるが、食事の準備をするために必ず夫よりも一足先に帰る。


「夫がパソコン画面を長時間見ることで視力に悪影響が出ては困る」


と心配して、ノートパソコンは主に妻である自分が使うように気を遣っていた。

イチローがここまでストイックに野球に専念できるのは、弓子夫人の支えがあってこそなのだ。



この話を読むと、どうしても松坂大輔を思い出さずにはいられない。

柴田倫世さんと結婚してから激太りし、不調の原因とも言われた松坂大輔。


日本球界に復帰するときも妻は


「子供の教育のため」


と言って、月額400万の家賃の家に住み続け、日本に帰ろうとせず、3人の子供に年間1千万を超える学費を投資しているという。

「子育て」と「ママ」の上手な関係

「子育て」と「ママ」の上手な関係

色々と本を出していることからのわかるように、積極的に前に出るタイプの方のようで、イチローを陰ながら献身的に支える弓子夫人とは対照的に見えた。

もちろん前に出ていくことが悪いことだとは思わないし、人様の家庭に口を出すつもりはないが、

スポーツ選手が長い期間第一線で活躍したい場合、プロとしての生活に集中できる環境を作れるかどうかも重要な要素であるように感じた。


こだわりの強さ

イチローは物持ちが良いことでも有名だ。

小学校6年生でプロが使うようなミズノ社製「ウシジマモデル」という本格派グラブを使った。

今なら6万円近くするグラブをよく手入れして、中学で後輩に譲るまでずっと使っていた。


「本物は長く使えば使うほど味が出る」

ということは、この原体験から学んだ。


趣味はDVD鑑賞と車。

しかし、高級車をステータス・シンボルにする考えはない。

あくまでも走りの楽しさを優先させている。


渡米後も日産スカイラインで球場に通うが、車の性能や走りのフィーリングがイチローに合っているからである。


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この画像は有名な斎藤佑樹の画像だが、イチローとは根本的に考え方が違いそうだ。

服も他人からどう見えるかよりも、自分が納得するものを身に着けることにこだわった。

自分が納得したものを自慢せずに密かに楽しむ美学が彼にはあった。


交友関係に関しても、有名人や財界人との交流は少ない。

どちらかというと、地味であるとも言える。


彼の友人のほとんどは、彼との交友を大袈裟に吹聴することがない点も共通していた。


イチローの知名度と名声をもってすれば、交友の輪は広げようと思ったらいくらでも広げられるだろう。

しかしイチローはこう言った。



「僕は(純粋に野球を)やりたい人。

(野球をすることで偉く)なりたい人ではない」


ここに彼の職人気質が表れているように思う。


インターネットやスポーツ誌はあまり見ない


気に入ったDVDは飽きずに何度も何度も見る一方で、テレビやインターネットはあまり見ない。

新聞、週刊誌の類もほとんど読まない。

株式投資が趣味なので、株価欄はよく見るが、スポーツ番組や野球に関する記事は意図的に避けている。


大ブレークした1994年シーズン初期。

当時はスポーツ紙の一面で取り上げられることを心地よく感じていたが、ある日その慢心に気付いて一切読むのを止めた。


「グラウンド上でのベストのために、自分でやれることはすべてやる」


「他人の視線が気になると、自分自身を見失いやすい」


「自分の真意が必ずしも伝わらないことをあれこれ気にしても仕方がない」


新聞や雑誌に載っているデータが相手投手の状態を判断する参考材料となることはほとんどないし、駆け引きする上で逆に要らないことまで考えてしまうリスクもある。


それに、ほどほどの成績を見て悦に浸るようでは、そこそこの成績で選手を終えてしまうだろうという危機感もあった。


そんな考えから、スポーツメディアに目を通すことは一利なしと判断し、できる限り見ないようにしている。


イチローの流儀 (新潮文庫)

イチローの流儀 (新潮文庫)