会社に入ったばかりの頃、
「社会人はマルチタスクが当たり前なんだ」
と先輩に教わった。
複数の仕事を並列で回していくのが優秀な会社員だと言われた。
実際、毎日の業務ではTODOリストが一つになることはほとんどなく、
常に複数の「やらなければいけないこと」を抱えている状況だ。
目まぐるしく入れ替わるタスク。
横から入り込んでくる打ち合わせ。
突然の対応。
1時間おきに設定された会議。
目まぐるしく仕事が入れ替わり、なんだかとても忙しいけどあまり仕事が進んだ気がしない。
ドラッカーは
「無駄な時間を省き、まとまった時間を確保し、最も重要な仕事に投入せよ」
と言った。
そして最近読んだ「SINGLE TASK」という本でも、タスクを一つに絞ることの大切さを繰り返し繰り返し説いていた。
人間の脳はそもそも、マルチタスクで仕事を進めるようにはできていないのである。
SINGLE TASK 一点集中術――「シングルタスクの原則」ですべての成果が最大になる
- 作者: デボラ・ザック,栗木さつき
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2017/08/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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昔は情報共有をするためにメールを使っていたが、今ではチャットが主流となった。
ネット上ではよくSlackを絶賛する声があがる。
Slackを使わない企業は時代遅れだ、とも言われるし、僕も同じように思っていて、チャットの導入を強く支持していた。
で、実際にチャットを情報伝達の中心に置いてどうなったかというと、たしかに気軽で素早く情報共有ができるようになって、恩恵は大きかった。
その一方で、失われがちなのが「集中力」だった。
絶えず誰かのチャットがデスクトップに通知されるようになり、集中が途中でブチ切られることが増えた。
ツイッタラーはよくわかると思うが、人は「通知」があると気になって見てしまうのである。
チャットは便利だ。
常に周りに人がいて、気軽に会話できるような状態を維持できる。
でも、集中したいときに周りで人が喋っていたら気が散るだろう。
便利さの裏で、チャットは多くの人の集中力を奪っているのではないかと考えるようになった。
今ではチャットの常時起動は避け、決まった時間にだけチャットを確認するようにしている。
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もし通勤電車を使っている人がいたら、思い出してみてほしい。
電車の窓から見える、外の風景を覚えているだろうか?
乗車駅から目的地に着くまで。
どの駅の周りにどんなものがあるか、思い出せる人はいるだろうか?
僕は3年ほど同じ通勤電車を使っているが、全然思い出せなかった。
いつもスマホを見ていたから。
インターネットには強い引力がある。
人が本来向けるべき集中力を、スマートフォンの小さな画面が奪っていくのだ。
友達と話しているときに、ついスマホを開いてSNSをチェックしてしまう人は重症である。
堀江貴文さんが『多動力』という本を出してから、目の前のことに集中せずに絶えず動き回ることを正当化するような風潮が出てきたが、俺たちはホリエモンじゃないんだ。
目の前に人がいるのにスマホをいじり出してしまう人は、「多動力を持つ優秀な人」ではなく、ネットの誘惑に抗うことのできない意志の弱い人だ。
無礼な人でもある。
僕自身が病的なツイ廃で、通知が気になってしまう人間だからネットが気になる気持ちは痛いほどわかる。
いつもスマホを見ていたい衝動に駆られる。
いつもだ。
でも、目の前の人間との会話や食事、トイレの時間にスマホをいじってしまうことで、失ってしまうものも大きいと僕は思う。
この誘惑を断ち切らなければならないんだ。
常時インターネットに接続された状態は人間の集中力を著しく低下させる。
『SINGLE TASK』ではミーティング中にネットサーフィンする人間を例に上げて、
常にネットに接続している人間の特徴を以下のようにまとめている。
- 「敬意」の欠如:ミーティングの出席者よりネットで接続詞ている相手を重視している
- 「注意力」の欠如:一度に1つのことに集中できない
- 「聴く力」の欠如:真剣に話を聞いていることを、身をもって示せない
- 「自律心」の欠如:他社からの要求に抵抗できない
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『SINGLE TASK』では、一日に何度かデジタル機器を完全にオフにして、自分のことだけに集中できる時間を持つことを推奨している。
中でも、スマートフォンを見る時間を減らして自分自身を見つめる時間を持て、という主張は新鮮だった。
僕たちは自分のことを全然わかっていない。
だからノートに自分のことを書き出すべきだ、という記事を書いた。
社会人こそ自己分析が必要だ。秘密のノートに自分をさらけ出すべきだ。
エレベーターを待つ時間や信号待ちの時間。
少しでも暇になるとすぐにスマホを開き、何かの画面を確認してしまっている。
興味は常に画面の向こうにあり、内省する時間なんてなかった。
たまにはネットから自分を切断し、待ち時間を自分自身について考える時間にするのもいいかもしれない。
今までの経験を振り返ると、何かまともな成果をあげることができたのは、1つのことに集中できたときだった。
「色んな仕事を抱えて回していくのが優秀な社会人だ」
と思い込んでいたけれど、納得のいくアウトプットを完成させるにはやはり、まとまった時間を1つの仕事に投入する必要がある。
日々、洪水のようにタスクが押し寄せて来る中で、「シングル・タスク」状態を作るのは難しいが、成果をあげるには「他を切り捨てて重要なことに集中する勇気」こそが大事なのかもしれない。