部下を細かく管理しないと気が済まないマイクロマネージャーの倒し方



僕がライフワーク的に読んでいる『CAREER SKILLS』という本では、マイクロマネージャーを以下のように定義していた。

「マイクロマネージャーは、部下に何をすべきかを指示し、それをどのようにすべきかを指示してから、仕事の状況を監視し、どこがまずかったかを指摘し、部下が行ったことを事細かく尋ね、それがどう間違っていたかをネチネチとあげつらう」

この一文を読んだときにすぐに思い出したのが、僕が新人のときのチームの課長の顔だった。

毎日、朝(9時から)と晩(20時から)に進捗を確認する会議を開き、少しでも進捗に”違和感”があったら他のメンバーが見ている前で叱責する。

「なんで遅れているんだ?」

「なんでこんな報告の書き方をしたんだ?」

「お前の仕事の仕方がおかしいんじゃないか?」

「だからお前はダメなんだ」

「お前の仕事の仕方は改めないとダメだ」

「明日から毎朝毎晩俺に状況を報告しろ。そのための時間を作れ」


僕は新人だったため、直接課長に報告するような機会はなかったが、みんなの前で晒し者にされて叱られている先輩の顔を見て、「社会人ってなんて辛いんだろう」と陰鬱な気分になった。
この課長のマイクロマネジメントは病的で、「報告通り」に進捗が進んでいないと前倒しだろうが後ろ倒しだろうが叱責し、進捗が適切でも報告が少しでも遅れたらブチ切れていた。

また報告資料も細かくチェックし、完全に内部かつ身内の課長向けの報告資料のフォントサイズが気に食わないだけで人間性を否定していた。
いま振り返ると完全にパワハラだ。法で裁いた方がいい。

しかし当時は僕も入社したてで全く余裕がなく、課長に目をつけられないようにビクビクと震えながら気を消していたので、彼のマイクロマネジメントについて冷静に考えることはできなかった。


部下を細かく管理する課長は何を求めていたのだろうか?

何が彼をマイクロマネジメントに走らせていたのだろうか?


第一に、彼は人を信頼できなかったのだと思う。

仕事に対してはとても熱心で、いつも遅くまで働いていた。

遅くまで働くといっても当然、彼が手を動かして何かをするわけではない。
部下を説教したり、進捗報告会を開かせたり、報告資料を一生懸命作っている部下を監視しにウロウロとフロアを歩いていた。

実に暇そうで、その上


「信じて、任せる」


ことがとにかく苦手な人だった。

そして部下の失敗を絶対に許さない人だった。

何かミスがあったり、進捗に遅れがあるとどこまでも詰めまくる人だった。

「なぜ?なぜ?なぜ?」

「ダメだダメだダメだ」

と。

課長の足音が聞こえるとその場から逃げたくなる衝動に駆られ、そのたび僕はエヴァンゲリオンを思い浮かべた。

エヴァの逃げちゃ駄目だの画像
逃げちゃ駄目だ

課長が先輩を怒りまくっているのを横目で見ながら、

「いや、お前に報告するための資料作りに時間が取られているんだろ...」

と密かに思っていたし、みんな気付いていたが、誰もそのことについては触れなかった。言えなかった。
恐怖政治だったのだ。

結局この問題は、課長の「器」に収斂する。


信じて、任せて、責任を取る。


上司ができることはそれくらいしかないと思うのだが、マイクロマネージャーは人を信じることができない。

病的な完璧主義で、部下のミスが自分に跳ね返ることを恐れているからだ。

マイクロマネージャー自身もそれまで「ミスが許されない環境」を歩んできて、出世競争()を勝ち上がってきた人間なのだ。

だからこそ、部下が自分の下でミスすることは絶対に許さない。

自分と同じレベルの細かさをマネージャーになってからも求めてしまう。

俺ができたからできるはずだと。
俺と同じように働けと。

彼が本当に欲しかったのは、部下ではなく、彼のコピーだったのだ。


第二に、マイクロマネージャーは「自分の王国」を作りたがっていた。

マイクロマネジメントの世界は専制主義的であり、そこにあるのは一番偉い人の「支配」だった。

課長は自分に反論する人間を絶対に許さず、人の意見を聞き入れたところを見たことは一度もない。
とにかく何かを否定して、自分が考えたアイデア以外は認めなかったと記憶している。

彼は完璧に部下を支配したかったのだ。
完璧な世界を作りたかったのだ。

自分の城を作って、部下が自分を持ち上げて、気持ちの良い環境を維持したかった。

新人時代の環境を大げさに言うと、トイレに行くのでさえ課長の許可が必要なようにも感じていた。

何をするにも課長の許可を仰いで、「よろしい」と言われていないことは何もしてはいけない。
そんな空気があった。独創性の欠片もないし、独創など発揮したらぶち殺されそうな雰囲気だった。

「他者を支配したい」という人間の根源的な欲求を発揮しているようにも見えた。
ただ残念ながら、会社の人間は奴隷ではないし、職場の上司は王様ではない。

「課長」とはただの役職なので、恐れる必要などないのだ。
それに気付くには「いつ辞めてもOK」という覚悟が必要なのだが。

第三に、マイクロマネージャー本人が自分の能力を信じ切っていた。
自分の仕事に自信があるからこそ、部下に同じ仕事のスタイルを求めたのだ。

たしかに、その課長の仕事の能力は高かったのだろう。

彼がプレイヤーだった頃の様子は全く知らないので確信はないが、誰よりも熱心で、誰よりも遅くまで、誰よりも細かく仕事していたのではないだろうか。

そういう人がマネージャーになると、部下に自分と同じ仕事のやり方を求めてしまう。
自分の積み重ねてきた実績が、マイクロマネジメントにつながっているように見えた。

しかし自分に自信がある人ほど陥りがちな罠は、自分より大きな才能を全く認めないところにある。

鉄鋼王アンドリュー・カーネギーは墓石にこう刻んだという。

「己より優れた者を周りに集めた者、ここに眠る」

己より優れたものにどれだけ才能を発揮してもらうかが事業の成長につながることに疑いの余地はない。
人間一人でできることは限られているし、個人の才能には限界がある。

周りの人間の能力を信じ、自主性を尊重し、仕事を任せ、異なる才能がぶつかりあうことで新しい何かが生まれる。
しかしマイクロマネージャーの下には彼の才能を超えるものは生まれてこない。

マイクロマネージャーは自分が理解の範疇を超えたものを信じることができないからだ。

マイクロマネージャーの倒し方

さて前置きが長くなったが、ここからはマイクロマネージャーの倒し方の話だ。

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『CAREER SKILLS』401ページでは、以下の3つの方法が挙げられている。

  • 信頼を勝ち取る
  • やるべきことは求められる前にやってしまい、全部報告する
  • マイクロマネージャーの手に余るくらい、いちいち報告していちいち指示を仰ぐ


一つ目の信頼を勝ち取る努力はわかりやすい。

マイクロマネージャーは細かい報告を求めているのだから、とにかく「報告しろ」と言われる前に報告してしまうのがいい。

「やらなければいけないこと」は「やれ」と言われる前にやっておき、やった後は必ず報告する。


歴史上でこの能力に極めて長けていた人物がいる。


豊臣秀吉である。


織田信長の要求を事前に察知し、報告を求められる前に全て準備していた。

信長が何を求めているかを常に想像し、先回りして信長の欲求を満たすように努めた。


戦国時代は平成のようにぬるい時代ではない。

主君(上司)の要求を満たせなかったら簡単に首を跳ねられてしまう。

笑い事ではなく、マジで死ぬのだ。

だから命がけで上司の信頼を勝ち取らなければならないのだ。

「上司の欲求を先取りして満たす」仕事を続けていった結果、信長は「秀吉なしでは困る」くらいに依存してしまった。

こうして秀吉の出世の道は開けていったのである。



「いちいち報告していちいち指示を仰ぐ」のもマイクロマネージャーを黙らせる有効な手段である。

『CAREER SKILLS』では大統領になる前の、不動産王だったトランプに接してきた部下(ホテルの経営者)の話が紹介されている。


トランプはホテルの経営にいちいち口を出してきて、あらゆる問題に首を突っ込もうとしてきた。

ホテルの経営者はそうしたマイクロマネジメントに文句一つ言わずに、にこにことして全て対応した。

この経営者は一枚上手だった。


ホテルのあらゆる判断について、トランプにいちいち電話をかけて指示を仰いだ。

しつこく電話して、しつこく指示を仰いでいるうちに、トランプはこの状況にうんざりし、


「自分の考え通りにホテルを経営しろ」


と彼に命令したのである。


本ではマイクロマネージャーを倒す方法について、こう書かれている。


「過剰に報告し、行っていること全てに指示を求めるのである。

マイクロマネージャーでも手に余るくらい細かいことをいちいち報告して相手を苦しめ、そういったことは自分でも好きなようにして結果だけを報告しろと言わせるのである」


「誰かと『戦う』ときには、柔術家たちのように相手と戦うのではなく、相手自身の動きを利用して相手を倒すやり方がもっとも効果的な場合がある」

と『CAREER SKILLS』は説く。


厄介な相手を倒すために、正面からぶつかる必要はない。
衝突を避けて、相手に認めさせて、相手から負けを認めてしまうような、そんなシチュエーションに持っていくのが「賢いマイクロマネージャーの倒し方」なのだ。


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