宇佐美典也さんの『逃げられない世代』は、20代〜30代の人がこれからの人生を考える上で一度は読んでおきたい本



宇佐美典也さんの『逃げられない世代』を読んで、僕が今までいかに


「イメージでだけ政治を見ていたか」


がわかりました。


この本は無責任に財政破綻を煽るでもなく、意味不明な陰謀論を語るわけでもありません。

現時点で手に入るデータと政治の事情を踏まえ、「私たちがこれから直面する未来の予測」について、事例を踏まえてをわかりやすく紹介してくれる本です。


今まで色々な本を読んでもイマイチ政治には興味が持てず、ネットで見つけた偏見に満ちた記事を見てなんとなく


「日本の政治って本当にダメやなぁ。このままじゃあかんなぁ」


とか思いながら他人事のように日々を過ごしていました。


しかし、『逃げられない世代』を2周くらい回して読んだ後は、現状を冷静に見つめ、何が起こるかを想定し、そのために今自分が何をしていくべきなのかを考え直すことができました。


勉強になる部分がとても多くて、本が線だらけになったくらいです。

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データが多数引用されており、根拠を元に予測を導き出すライティングテクニックは正直、さすが元官僚...と感動しました。

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本の中で書かれているように、長期的な国家課題に一人ひとりが直接対峙して解決することは不可能です。


日本が抱える問題を理解したところで、私たちが個人としてできることはほとんどありません。

フォロワー数万人のツイッタラーが声高に政治を叫んでも日本は1ミリだって変わりません。


個人の限界を踏まえた上で、私たちは日本社会に立ちはだかる国家的な問題を自分なりに理解し、個人としてどんな対策を取っていくかを考え、そして個人としてどのように幸せに生き抜いていくべきなのかを考えなければいけません。


この本は、1979年〜98年生まれの「逃げられない世代」である私たちが「国家が抱える長期的な課題」を理解し、その上でどのように生きていくかを考えるための本です。


そういう意味で、現在20代〜30代で、


「僕たちはどう生きるか」


を真剣に考えている人は一度は読んでおきたい良書で、個人的には今まで読んだ政治・行政の本の中で一番納得できる素晴らしい本でした。



宇佐美典也さんは面白い経歴の持ち主で、それゆえに『逃げられない世代』は彼にしか書けないオリジナリティの高い本に仕上がっています。


1981年生まれの37歳。

東京大学経済学部を卒業し、2005年に国家公務員Ⅰ種試験に合格し、経済産業省に入省。

絵に描いたようなエリートコースを歩んできた人生から一転、


「政府の中からはこの国が抱える問題を解決することはできない。抜本的な改革などできやしない」


と気付き、2012年に経済産業省を退職。


そこからはフリーランスとして、

「いかに組織の看板に守られて生きてきたか」

を痛感し、たくさんの人に力を借りて生きてきたそうです。


『逃げ切れない世代』の中でも書かれてますが、私たち標準的なサラリーマンは


「だいたい87〜90歳まで生きることを前提に、20代前半から60歳までは会社の主戦力として、

その後65歳までは会社の補助的戦力として、その後70歳までは一定の収入を得るために自活し、

70歳を超えてようやく年金収入を中心に90歳までの余生を過ごす」


というような人生を送ることが予測されます。


宇佐美典也さんは標準的なサラリーマンが65歳から経験することになる「自活期間」を30代で過ごしてきており、

それゆえに本の中で語られる「己の無力さを痛感する話」は生々しく、示唆に富んでいます。

日本の懐事情と将来予測


天文学的に膨れ上がった日本の借金がマジでヤバイ、とたびたび話題に上がります。

僕自身もネットで日本の財政事情の情報を断片的に拾うたびに震え上がり、


「やべぇ...やべぇよ...これからの日本。

財政破綻しちまうよ...生きていけねぇよ...」


と、海外に逃げることばかりを考えてきましたが、『逃げられない世代』では数字を交えて「これからどうなっていくか」の予測を紹介してくれます。


2018年末時点での公債残高は883兆円で、地方自治体の借金などを加えると政府部門の長期債務は1107兆円となっています。

これらの借金を返すには税収を全額返済にあてても15年はかかる見込みで、借金完遂は現実的ではありません。


なので財務省はむしろ


「いつまで金利が払い続けられるのか」


を気にしており、金利が払い続けられる限りは借金自体はそこまで悪ではないのが実際のところです。


現在の日本の利払い額は低金利政策のおかげで1990年代よりもむしろ減っており、それゆえに「まだ借りても破綻しない」状態を維持することができています。


逆に言えば、金利が1%上昇すれば利払い費は8.83兆円も増えることになり、早々に政府財政は行き詰まることになります。

日本の懐は金利に左右されやすい脆弱な構造になってしまっているということです。


それで、僕たちがみんな知っているように、社会保障関係予算は毎年5000億円ペースで増加しており、その費用は超高齢化社会の到来を控えて今後も増加し続ける見込みです。


今は国債の93.9%を国内機関が買い支えていて、その場合は国債を大量に売りに出して値崩れさせても買った本人が損をするため、急に値崩れする可能性は低いでしょう。


日本の家計の金融資産は1880兆円で、国内でまだ国債を吸収する余地があるうちは、先延ばしにした問題は表面化しません。

問題は国内で国債消化が間に合わなくなった場合で、そのときは外国金融機関頼りにならざるを得ません。

それが2037年ごろだと言われていて、2037年には政府としても本気で財政再建に向き合わなければいけなくなります。


このような懐事情は『逃げられない世代』で詳しく紹介されてますので、ぜひ手にとって読んてみてもらいたいです。

この記事をここまでフンフンと読めた人はきっと、興味深く読むことができると思います。


興味ない人はたぶん、ここまで来る前にブラウザバックしてしまっていると思うので...


逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)

僕たちはどう生きるか?

50歳を過ぎた人の良いおじちゃんと話していたら、


「引退後は何しようかとそればっかり考えて今働いているんだ」


と言っていました。

今50代の人たちはいわゆる逃げ切り世代とも言える世代です。


「教育→労働→引退」


という三段階のモデルでキャリアを歩んできて、最終形態である「引退」に差し掛かった人たちとも言えます。

定年退職してからは年金で生活し、平均して87〜90歳くらいまでの余生を楽しんでいくのでしょう。


22歳から65歳までの「つまらない労働期間」を耐え、定年退職を楽しみに残りの会社人生を過ごし、仕事しなくてもいい未来を楽しみに生きる50代はきっと、日本にたくさんいるはずです。


翻って自分たち30代はどうなるでしょう。


年金積立金という巨大な財源があるため、


「年金が全くもらえない」


可能性は低いです。

とはいえ、ギリシャなどの例で見ると、財政破綻状態になった場合に真っ先に削られるのが年金に関する予算です。

本の中で様々なパターンで年金受給額の予測がされていますが、将来的に財政危機が起きて、経済成長率が政府予測の最低水準に事態が推移していった場合、

私たちがもらえる年金は現役時代の3分の1強となります。

平均的な手取り収入月額が35万円なので、だいたい月々11万円の年金収入です。

共働きならもう少し増えて、平均すると月に17万円程度となります。


高齢者世帯の平均支出は25万円程度なので、どちらにしても貯金を切り崩して生活しなければならず、病気などで支出がかさんだ場合は家計が立ち行かなくなってしまいます。


そんな未来を見据え、私たちは現役時代の25%程度の収入は(会社に頼らず)自力で稼げるような術を身に付けていかなければいけないのです。


昭和的な人生設計は構造的に成り立たなくなっており、その事実をよく見つめて、これからの人生設計を真剣に考えなければ高齢者になった後に困ることになります。


『逃げられない世代』は私たちが未来を考える上での基礎となる情報を与えてくれる素晴らしい本でした。


※続きの記事も書きました。
人生100年時代は「好きなことで生きていくしかない」という現実を考える

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)