『ジャンプ流』というジャンプ作家の漫画家としての流儀を紹介する雑誌を読みました。
僕が購入したのはジャンプ流の第3弾、尾田栄一郎さんの特集です。
『ジャンプ流』の冊子自体は薄いのですが、尾田栄一郎さんが成功するまでに積み重ねてきた努力や葛藤が語られていて、ファンである僕にとってはそれだけで十分な価値のあるものでした。
経歴
「OEN PIECEの作者は天才だ」とよく言われます。
数々の記録を打ち立て、今なお加速し続けるONE PIECE。
作者の尾田栄一郎さんが天才であることに疑問を持つ人は少ないでしょう。
そんな彼にも知られざる雌伏の時期がありました。
幼い頃から絵を描くことが大好きだった尾田先生が「マンガ家になろう!」と決意したのは4歳の頃でした。
絵を描いて暮らせるマンガ家という職業があることを知り、「将来はマンガ家になる!」と心に決めたのだそうです。
熊本の東海大学付属第二高等学校在学中の1992年。17歳のときに「月火水木金土(つきひみずきこんどう)」というペンネームで少年ジャンプの手塚賞に応募しました。
デビュー作の名前は『WANTED!』です。
- 作者:尾田 栄一郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1998/11/04
- メディア: コミック
初投稿の『WANTED!』が準入選を果たし、そのまま天才として華々しくデビューするかと思いきや、ONE PIECEの連載が始まるまでは実に5年もの下積みの期間があります。
担当となったジャンプ編集部の久島薫とは連日ケンカのような激論を繰り広げていました。
新しいものを描いてはボツにされ、とにかくネームが通らない。
あの「ONE PIECEの尾田栄一郎」のネームが通らなかったんです。
しかし尾田先生は、何度ボツにされても納得しない部分は絶対に曲げなかった。
当時を振り返って
「編集者に間違っていると言われたからといって、一生懸命考えたネームを”はい、そうですか”と簡単に変える気持ちにはなれなかったんです」
と語っています。
このエピソードを読んで、イチローの話を思い出しました。
イチローがまだ芽の出ぬ二軍選手だった頃。
コーチに「独特の打法を是正しろ」と指導されても決して自分流を曲げなかった、といいます。
超一流のプロフェッショナルになる人には、譲れない自分流の信念があるのでしょう。
尾田栄一郎は『WANTED!』のデビューから5年の間、『ジャングルの王者ターちゃん』の徳弘正也先生、『ライアーゲーム』の甲斐谷忍先生、『るろうに剣心』の和月伸宏先生といった数々の先生のもとでアシスタントを経験しています。
キツイキツイと言われるアシスタント作業も「マンガ好きの仲間と泊まり込みで絵を描いて過ごす、楽しい合宿だった」と語っています。
画力向上の為の練習方法
画力に定評のある尾田先生ですが、はじめからあんなに上手に描けていたわけではありません。
『ジャンプ流』では画力向上のために行ってきた練習についても述べられています。
『ピーターパン』などのディズニーのアニメーション作品を観てきっちり描き写す日々。
『リトルマーメイド』に関してはビデオをコマ送りして、すべてのキャラクターと、気になった表情全部を描き写していました。
マンガ家はマンガ的な絵だけでなく、見たものをそのまま描く、写実的な絵も描けないといけません。
その練習のために映画雑誌を買ってきて、載っているたくさんの映画スターの顔を写真のように正確に描いて練習していました。
これらの膨大な努力の積み重ねの上に、今の「天才・尾田栄一郎」があるわけです。
殺人的なスケジュール、短すぎる睡眠時間
尾田栄一郎先生の一週間のスケジュールも紹介されています。
想像を絶する仕事量でした。
気になる睡眠時間は3時間。
夜中の2時に眠って5時に起き、食事などの時間を除くとひたすら仕事をしています。
1週間のタイムスケジュールは、週の前半にネームを行い、ネームが出来次第、原稿執筆に移行します。
以下のような時間の使い方です。
月〜水:ネーム
木金土:下書き、ペン入れ
日:単行本などのカラー作業
ウィークリージャンプが合併号の時にはかつてのアシスタントでお世話になった先生や仲間に会って、お互いの近況を報告するのだそうです。
職場の風景
『ジャンプ流』についているDVDでは、尾田栄一郎先生の仕事場の様子も見ることができます。
尾田先生の机の横には普通の青いCAMPUSノートがありました。
これです。
コクヨ キャンパスノート 5冊パック 5色アソート B5 B罫 30枚 ノ-3CBN×5
- 発売日: 2000/11/01
- メディア: オフィス用品
キャンパスノート1冊ごとの表紙に「ZOU」とか「革命軍」とか「BIG MOM(ビッグマム)」などと書かれていて、細かい設定が書き込まれているそうです。
ワンピースの伏線は全て、キャンパスノートの上で考え抜かれていたのですね。
また、「仕事のできる人は机が整理整頓されていて美しい」などと言われていますが、尾田先生の机はめちゃくちゃ散らかっていました。
「雑然」という言葉がぴったり当てはまる感じです。
本棚には海外の画集や風景の写真集があって、写真集からインスピレーションを得ているのだそうです。
仕事の流儀
尾田栄一郎先生の漫画に対する哲学も語られていました。
作品の根底にあるのは、「ひたすら考え抜き、描き込んで、納得できるものを生み出す」というこだわりでした。
マンガ家を目指す人には、「普通の人の気持ちが普通にわかる人になっておけ」とアドバイスしています。
流行に流されてもいい。
みんなが話題にしているものを見て、聞いて、普通の人の気持ちをちゃんと理解できるのが最大の強みであると。
その上で、自分の作品については「世間に流されてはいけない」と警告しています。
「自分が好きなもの」をどうやったら普及できるか。
ブームを起こす方向で考えてください。
世間が流行ってるから乗っていこうではなく、「世間の人は知らないけど自分は好き」というものをブームにしていきましょう、語ります。
マンガ家は流行を作り出すことができる職業なのだから、と。
関連記事:尾田栄一郎の妻に学ぶ「忙しい夫」の支え方