実写化も決まり、絶好調に見えるキングダムだが、個人的には最近の朱海平原(しゅかいへいげん)編はいまいち面白くなかった。
主人公の信が属する秦国が中華統一するための大きな一歩として、
趙(ちょう)という国にある鄴(ぎょう)を取るための戦争である。
朱海平原編ではキングダムで初めて「兵糧」を戦術に組み込んだ意欲作だ。
「腹が減っては戦が出来ぬ」というように、敵国に攻め込んで飯がなくなってしまうと全滅してしまう。
なので、遠い趙の国に大量の兵糧を運び込まなければならず、また趙国内に侵入してからも兵糧が尽きるまでに敵を殲滅しなければならない。
今回の戦争のテーマは兵糧であった。
それはそれで大事なことなのはわかるが、正直言って、地味である。
いち読者として僕は「ヤーッ!」と士気を上げて「バーンッ!」と敵を倒す展開を期待していたのだ。
兵糧戦のような高度な戦いよりも武力で敵を圧倒してほしいのである。
王翦という愚将
「鄴(ぎょう)攻め」と呼ばれるこの大戦争を率いる大将軍は王翦(おうせん)と呼ばれる武将である。
史実でも有能な武将と言われているが、キングダムでは「秦国で最も知略に長けた男」という設定だ。
「朱海平原」と呼ばれる平野で敵の趙と向き合う秦軍。
主人公の「信(しん)」がいるのは右側である。
それで、右翼は戦いが始まって早々に大将が気絶させられて、全然目覚めない。
右翼は大将不在の状態なのに、総大将である王翦は何も指示を出さないのである。
戦争のように命まではかかっていない会社組織でさえ、プロジェクトマネージャーが病欠した場合は速やかに別のプロジェクトマネージャーを立てるように指示するだろう。
王翦は会社でいうと社長だ。
部下が本気で困っている時に何も指示を出せない完全なる無能社長が王翦なのである。
覚醒する飛信隊
最初に述べた通り、キングダムの朱海平原編は兵糧との戦いである。
戦いが始まって12日目。
秦軍右翼の食料は尽きかけていた。文字通り、絶体絶命なのである。
総大将王翦は無能すぎて何の指示も出さない。
このままチンタラ戦っていたら、食料が尽きて全員死んでしまう。
秦軍右翼が勝つために残された手段は「隊を覚醒させること」しかなかった。
そこで12日目の戦いが始まる前に、信は8000人の飛信隊に向けて語りかけたのである。
このシーンが停滞気味だった朱海平原編のターニングポイントとなると確信した。
以下、信の檄である。
僕は昨日ヤンジャンを買って、すでに5回涙を流した。
みんな必ずヤングジャンプで確認してほしい。
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お前達の中にはもう知らねェ奴もいるかもしんねェが
この飛信隊は百人隊から始まった
最初っから馮忌っつう将軍首狙う無茶な作戦やらされて
竜川(りゅうせん、飛信隊の古参)なんかビビって動けなくなっちまった
覚えてるか竜川?
そっからもずっと無茶な戦い方繰り返して
武功あげて
隊もでかくなってって
今じゃ五千人隊
羌瘣ンとこも合わせりゃ八千人隊だ
だけど、まだまだだ
俺は
天下の大将軍になる男だ
その刻(とき)には俺の下には数十万の兵がいる
だがその軍勢の中心となるのは...
元となるのはここにいるお前達だ
俺はその刻、さっきみてェなことを数十万の兵達に言いてェんだ
朱海平原で戦った八千人隊が奇跡を起こして勝ったって
だから天下の大将軍までつながったって
今は右翼全体を仕切る大将も居なくなって
大将王翦にも無視されて
食い物も尽きかけて腹は空かしてて
だけど飛信隊が奇跡を起こして勝ったって言いてェんだ
こんな所で
終わってたまるかよ
力を貸してくれ 飛信隊
俺はっ
お前達と一緒に天下の大将軍まで突っ走るんだ
こんな所でっ
終わらせるかよ
力をっ
力を貸せ 飛信隊!!
これでこそ、キングダムである。
僕が求めていたキングダムである。
これこそが、キングダムの魅力なのだ。
コマ割りも最高なのでじっくりヤンジャンを買って読んでほしい。
これでこそキングダムなのだ。
言葉が持つ力
言葉は人に大きな影響を与える。
人は機械のように正確かつ一定に動くわけではない。
モチベーションによってパフォーマンスが大きく変わってくるのだ。
僕たちはテレパシーは使えないため、人を動かすためには言葉に想いを乗せて、相手に伝えなければならない。
何も言葉を発することなく「他人に想いを察してもらう」のは難しい。
なので僕たちは、相手の感情に配慮しながら言葉を選び、相手をモチベートするよう心がける必要がある。
これは人の上に立つ人間に必要不可欠な能力だ。
中には他人のモチベーションを下げるようなことばかり言う中間管理職もいるが、彼らは大事なことをわかってない。
会社での業務のほとんど全ては一人ではできないものである。
だから、いかにして部下に気持ちよく動いてもらうかを考えることは、上司の最も重要な仕事なのだ。
モチベーションの源泉には内発的なものと外発的なものがあって、言葉だけで他人のモチベーションを完全にコントロールするのは難しい。
しかし、言葉は最もコストがかからず、あらゆる手段の中で最も使う頻度が多く、また効果が出やすいモチベート方法でもあるのだ。