『ノルウェイの森』永沢さんの「主体的に努力する」とはどういうことか



村上春樹のヒット小説『ノルウェイの森』に出てくる永沢さんという男が好きだ。

中でも僕に響いたのは、彼の努力に対する価値観だった。

「でもね、俺は空を見上げて果物が落ちてくるのを待ってるわけじゃないぜ。
俺は俺なりにずいぶん努力をしている。お前の十倍くらい努力してる」

「そうでしょうね」と僕は認めた。

「だからね、ときどき俺は世間を見まわして本当にうんざりするんだ。
どうしてこいつらは努力というものをしないんだろう、
努力もせずに不平ばかり言うんだろうってね」

僕はあきれて永沢さんの顔を眺めた。
「僕の目から見れば世の中の人々はずいぶんあくせくと身を粉にして
働いているような印象を受けるんですが、僕の見方は間違っているんでしょうか?」

「あれは努力じゃなくてただの労働だ」と永沢さんは簡単に言った。
「俺の言う努力というのはそういうのじゃない。
努力というのはもっと主体的に目的的になされるもののことだ」


「努力というのはもっと主体的に、目的的になされるもののことだ」は至言だと思う。

軽い知り合いに「ミュージシャンになる」という夢を追い続けている人がいた。

ミュージシャンになるまでの壁は高く、道のりは遠く、なかなか目が出ないため、貧しい生活を強いられているらしい。

又聞きなので正確な情報ではないが、この記事の主旨は売れないミュージシャンの生活を追うことではないので特に問題はない。

その方は数年間、CDの販売やライブを細々と続けていたそうだ。


「夢に向かって、毎日歌い続ける」

「売れるまでCDを出し続ける」


彼が行っているのは努力だろうか?

たしかにひたむきかもしれないが、僕はこれは努力ではなく惰性だと感じている。

ミュージシャンを馬鹿にするつもりは一切ない。

しかし、「このままでは売れない」と判断した場合は、手を変え品を変え色々と試してみなければならない。


たとえば、毎日路上で歌う代わりにYoutubeにアップしてみることで、チャネル(露出する場所)を変えるとか。

あるいは、ライブで自分たちの曲を宣伝する代わりにツイッター芸人のような活動をやってみて、SNSでプロモーション(広告)してみるとか。


もちろん、やり方を変えただけで簡単に売れるようにはならないとは思うが、大事なのは試行錯誤を避けることだ。

失敗から学び、柔軟に手段を変えていかなければならない。


上の「Youtube」や「ツイッター」の例は、僕がネットに入り浸っているからパッと思いついたものだが、別の業界の方が考えたらまた別の手段が見つかるかもしれない。

何が言いたいかというと、「今の自分と別の考え方」を取り入れて、うまくいかないやり方を変えていく必要があるということだ。


人に話を聞きに行ってもいいし、本屋に行ってもいい。

主体的な努力とは、思考停止せずにあらゆる手段を試してみることに他ならない。


「ブログのページビューが増えない」という人に、「とにかく書け!毎日アップしろ!」とアドバイスしている人がいた。

書きまくることでいつか質が上がり、検索にも引っかかりやすくなるという面はあるが、何も考えずにただ毎日記事をアップするのは決して努力ではない。

単なる習慣だ。

主体的な努力をするためには、思考停止を避けなければならない。

「どうすれば質が良くなるのか?」

「何をすれば露出が増えるのか?」

をよく考えて、そのための勉強をして、試行錯誤する必要がある。


ツイッターを見ると、「資本家はけしからん!ZOZOのネガティブキャンペーンをしよう!」と吹聴している労働運動家がいた。

「労働者の待遇を変えたい!」

「ブラック企業で働いている労働者を救いたい!」

というのが彼らのモチベーションだそうだ。

彼らはツイッターで悪口を書くことで社会を変えられると考えているようだが、僕には彼らのやり方が悪手なように見えてならない。

彼ら自身は頑張っているつもりになっているが、あれは努力ではなく、ただのストレス発散であり、嫌がらせだ。



本当に労働者の待遇を改善したいなら方法は3つある。

1つ目は、政治を使うことだ。

法律を作るのは国会議員である。
最低賃金を上げるためにやるべきなのはまず、国会議員に陳情することだ。

ツイッターに悪口を書いても仕方がない。

投票に行こう。

投票に行くだけでなく、「国民の意見」として国会議員に要望を出す。

たとえ絶対数が少なくても、大きな声を上げれば国会議員を動かすことができるかもしれない(現に農業従事者はそのように大きな声を上げてきた)

親指だけ動かしてツイッターで悪口を書いて活動した気になっても、一時的にスッキリするだけで、問題は何も解決しない。

ZOZOだけを攻撃しても世の中は変わらない。

世の中を変えたければ、法を変えるように働きかけるべきだ。


2つ目に、不当な待遇で働かせる企業に対し、労働者がどんな手段を取れるのかをマニュアル化して啓蒙しよう。

法に違反した職場で泣き寝入りしてしまうのは、そもそも労働者が戦い方を知らないことに原因がある場合が多い。

日本の法律はどうなっていて、何が違反で、違反していた場合、労働者にはどのような手段が取れるのか。

法という現代の剣を取り、敵を斬る方法を体系的にまとめ、広めてほしい。

ネットで悪口を言うよりも、法に則って戦う方が大事だ。

そのためには労働者だって学ばなければならない。


これは偏見になってしまうが、ツイッターで藤田某さんにぶら下がって悪口を言っているような人々の多くはきっと、本を読まない。

いきなり「法律を学べ」といっても難しい場合が多いだろう。

だからこそ、大衆を扇動するハーメルンの笛吹き男こと藤田某さんがわかりやすく法律をまとめて、「ブラック企業との戦い方」をネットで公開することに価値があるのではないだろうか。


3つ目は、労働者の自立を促すことである。

待遇を改善したいときは、賃上げ交渉を起こすよりも、転職したほうがいい。

優秀な人でも働く場所によっては低待遇に陥ってしまうこともある。

お金がよく入り込んでくる業種を選ぶ必要がある。


藤田某さんのような扇動家が自らの飯のタネにするために大衆を煽り、世の中に働きかけるのは合理的だが、普通の会社員が彼と一緒になって悪口を書き散らしても何の得にもならない。

その時間で英語の勉強でもしたほうがよっぽど収入の期待値が上がるはずだ。


労働運動家は、その活動自体が彼らの宣伝であり、また収入源にもなっているのだ。

僕は藤田某さんが労働者を救いたいと本気で考えているとは思えない。

本気で労働者を救いたいなら、「ZOZO」という一つの会社を槍玉に挙げて攻撃しても意味がないからだ。

単なるネット上の人気取りに終始してしまうだろう。

本人が気付いていないならあまりにも愚かだし、気付いているなら罪深い。


最後は永沢さんの話からずいぶん離れてしまったが、「努力は目的的になされなければならない」という点からはそれほどずれていないはずだ。


思考停止を避けて、目的意識を持って努力を積み重ねていくことが大事なんだ。



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ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

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