会社員は副業したらクビになるのか調べてみた



脱社畜が叫ばれ、副業がちょっとしたブームになった2018年。

「ちょっと副業をやってみようかな」と思った人も、
「会社にバレたらクビになるんじゃないか」という不安な気持ちはなかなか拭いきれないですよね。


ツイッターでは既に勝ち組にいる強気な人が


「就労時間以外に好きなことをやるのは我々の自由だ!」

とか、

「業務外の時間すらも会社に縛られるのは社畜の証だ!」

などと煽ってきますが、僕たちは他人の正義感や倫理観を元に何かを判断してはいけません。


世の中には「法」というルールがあり、その法に則って裁判所がどんな判断を下したかという「判例」があります。

ルールと事例を学んで、

「どこまでなら許されるか」

「どこまでやったらダメだったのか」

を情報として学んでおきましょう。

ルールをきちんと学ぶことで、自分なりの線引きができるはずです。



というわけで、法を勉強してみました!

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実際、「副業解禁か!?」などと言われても、どこまでやっていいのか気になりますよね。


せっかくなので一緒に情報収集しましょう。

(僕は法律の専門化ではないので、本気で何かに困ったときは専門家に相談してください)

小川建設事件

兼業規則に関する裁判例で必ず取り上げられるのが「小川建設事件(1982年11月19日)」です。

東京地方裁判所はこの裁判で


「無断兼業に対する解雇は有効」


という判断を下しています。


事件のあらましはこんな感じです。

**
建設会社のO社で働いていたE子さんは勤務時間後は、とあるキャバレーで会計係として働いていた。

O社の就業規則には、

「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われた場合」

を懲戒事由とする規定があった。

E子のアルバイトを知ったO社は、E子の行為は懲戒事由に該当し、本来なら懲戒解雇にするところを普通解雇にとどめるとして、昭和57年1月に普通解雇を通告した。

E子はこれを不服として訴訟を提起した。


この訴えに対して、東京地方裁判所は


「無断の兼業をすること自体がO会社に対する雇用契約上の信頼関係を破壊するものであり、また兼業の内容は軽作業とはいえ長時間にわたるものであったとして、E子に対する普通解雇を有効」


と判断している。

**

ブログに社外秘の情報を書いたら懲戒処分

日経新聞の記者が、自身のホームページに社外秘としている事実や日経新聞社を批判するような文章を公開したところ、会社の上司からホームページの閉鎖を求められました。

記者は事情聴取を経て、上申書と顛末書の提出を指示され、その後14日間の出勤停止処分と資料部への配転が命じられました。

日本経済新聞社(記者HP)事件


この事例の場合は、記者は後に依願退職していますが、「懲戒解雇」にはなっていません。

裁判所はこの記者の懲戒に対し、

「就業規則に違反する懲戒処分事由に該当すると認められる場合において、日経新聞社が記者に対して、企業秩序維持の観点から懲戒処分を行うことは許される」

としています。

つまり、社外秘の情報をブログに書いた人間を罰することは認められる、ということです。


裁判所曰く、

「職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれがあるなど、企業秩序を侵害するものである場合には、懲戒処分を行うことも許される」

ということです。


中国電力事件

会社の内部情報などを軽率に発信してしまうのは絶対にやめたほうがいいです。たとえ匿名アカウントだったとしてもです。

うっかり会社の悪口をはてな匿名ダイアリーに投稿したり、腹が立ったからといって「社内事情をツイッターで暴露」みたいな真似は控えましょう。

懲戒解雇の場合は退職金も出ません。

まずは就業規則をよく読もう

公務員については国家公務員法(104条)地方公務員法(38条)に基づき、アルバイトは許可制となっています。

一方で、民間会社の社員については社員のアルバイトを許容するかどうか、許容したときにどのような条件とするかは各会社の判断にゆだねられているのです。


読者のみなさんは、会社の就業規則をよく読んでいますか?


懲戒の判断に使われるのは就業規則です。

就業規則に何が書いてあって、どこまで許されるかはしっかりと把握しておきましょう。

アルバイトや副業の全てが規制されるわけではないですし、決まりに違反した場合に当然のように懲戒処分を行うことができるわけではありません。


会社員の中には、実家の仕事を手伝ってたり、農業を手伝ったり、病気の家族がいてやむにやまれずアルバイトをする人もいるわけで、

会社としてもむやみやたらに兼業を規制したいわけではないだろう、と本の中では書かれています。

建前としては会社は正社員には忠誠を求める。

他者で働くことは、この忠誠に反する行動である。

これを表立って承認することは会社としてはできない。

そのため、建前としては、兼業を規制するという立場をとらざるをえないのである。

大内伸哉『雇用社会の25の疑問 労働法再入門』


裁判所は

  • 本務の遂行に支障が生じるようなアルバイトであれば、会社はそれを制限してよい
  • 会社の秩序を侵害した場合は制限してよい
  • 対外的信用・対面を傷つけるようなアルバイトも制限してよい
  • 競業の会社で兼業していた場合は懲戒解雇もありえる


としています。

逆にいうと、会社の秩序を侵害したり、対外的信用、対面を傷つけたりしないようなものであるときには、会社はこれを不許可とすることはできませんし、また無断でアルバイトをした社員に対して「無断」という点は問題にできるとしても、少なくとも懲戒解雇のような重い処分を課すことはできないのです。


どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門 (新潮新書)

どこまでやったらクビになるか―サラリーマンのための労働法入門 (新潮新書)


懲戒解雇のハードルは相当高い

『泣きたくないなら労働法』という本にも書いてあるのですが、懲戒解雇は相当に重い処分です。

就業規則に必ず明記しなければならない絶対的必要記載事項の一つに、


「解雇の事由に関する事項」


というものがあります。

これは必ず読んでおきましょう。


会社が

「これをやったらクビですよ」

という解雇自由をあらかじめ就業規則等に列挙しておく必要があるのです。

その中でも「懲戒解雇」に関しては「限定列挙するもの」とされており、つまりは

「何をやったらダメというものがずばりと限定的に列記されていなければ、懲戒解雇の根拠となりえない」

ということです。

また、解雇する場合には少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。

労働契約法第16条には


「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」


と規定されています。

高知放送事件 最二小判昭52.1.31 労判268-17


この法律が成立したことによって、解雇の有効性を主張するためには、使用者側、つまり会社側が権利濫用に当たらないことを立証しなければいけなくなりました。

では、その根拠はどこにあるかといえば、

「就業規則に列記された解雇事由」

に他ならないのです。


ちなみに「懲戒」といっても色々あります。
以下のように区分されます。

  • 始末書を書かせるもの(譴責)
  • 賃金を減額するもの(減給)
  • 出勤停止
  • 本人に退職願を提出させるよう勧告するもの(諭旨解雇)
  • 懲戒解雇、すなわち即時に解雇


そして、「懲戒処分は段階的に考慮すること」とされており、よっぽどのことがなければ「いきなり懲戒解雇」とはならないだろうと予想できます。


特に近年増えているネットで副業をしている人に関しては、

  • 会社の内部情報をネットに書かない
  • 職場で知り得たことをネットに書かない
  • ちゃんと納税する(脱税しない)


などに注意するのがいいでしょう。

就業後にアルバイトをしているような人は、

  • 本業に支障をきたすような長時間労働しない(そもそも一日の労働時間が8時間を超すと通常の賃金の25%の割増賃金を支払わなければならない)
  • 会社の看板に傷をつけるようなアルバイトはしない
  • 競業でのバイトは絶対に厳禁


などを気をつけていれば、いきなり懲戒解雇される可能性は低いと言えるのではないでしょうか。


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泣きたくないなら労働法 (光文社新書)

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『泣きたくないなら労働法』にこの辺の情報が詳しく載っていて、めちゃくちゃ勉強になります。