トヨタ社長が「終身雇用を守るのは難しい」と発言したことが話題になっていた。
経団連の中西会長も同様の発言をしており、新卒一括採用から終身雇用など、日本のメンバーシップ型雇用のあり方は今後見直されていく可能性が高いといえる。
トヨタ社長も終身雇用は限界宣言。御恩と奉公の時代は終了やな。「将来給料上がるから若いうちは我慢しろ」はもう通用せんなこれhttps://t.co/CWtWf3orrv
— こたろう (@kotaro_kagura) 2019年5月13日
昭和の高度成長期には企業の業績は右肩上がりで、年功序列で給料が上がることが保証できていた。
会社はどんどん大きくなり、年齢に応じたポストを用意できたため、年功序列制度を維持することができたのだ。
高度経済成長中はあらゆる職種で人手不足が起きていた。
働き手を確保したい経営者と生活を安定させたい労働者の利害が一致した。
年齢が上がるにつれて、マイホームや子供への出費が増える。
そんな労働者の生活が安定するように、年齢が上がるにつれて給料が増え、定年まで働ける「年功序列・終身雇用」の仕組みができた。
終身雇用は従業員を会社に忠実に、そして勤勉に働かせるために機能した。
その一方で、雇用を保証される代わりに転勤を断ることさえもできなくなった。
昭和の高度成長期に根付いた終身雇用は、多くの日本人に
「会社で一定期間働けば、マイホームで過ごす定年生活が待っている」
という夢を与えた。
しかしその夢は令和の時代に儚く消えようとしている。
「失われた30年」と言われた平成が終わり、これからの日本社会にはもう大きな成長は見込めない。
今後はゆっくりと衰退し、国際社会での相対的な立ち位置を下げていくものと予想できる。
企業が「終身雇用を維持できない」というのは
「コストが掛かり、利益を生み出さない社員の雇用など守りたくない」
ということである。
大企業の看板の下で呑気に過ごし、専門性を身に付けることもなく、市場価値を上げる努力もしなかった中堅社員が狙い撃ちにされていくものと思われる。
それと同時に、新卒一括採用の見直しも進み、
「何もできない新卒を雇ってゼロから育て上げていく」
という日本企業の古き良き伝統も失われていくだろう。そんな余裕はないからだ。
つまり大学でウェイウェイ遊んでいただけの僕のような人間は、5年後、10年後の就職活動では大いに苦戦することが予想される。
ポテンシャルよりも専門能力が評価される就職活動で、これまでのように「サークルをがんばってきた」「バイトでリーダーをやった」という経験が評価されるとは限らない。
並行して雇用慣行はグローバル水準に近づいていき、社員には専門性が求められ、
「私の仕事は課長です。管理職ならできます」
などという「具体的に何ができるはわからないけど偉い」みたいなふざけた話は通用しなくなっていくはずだ。
さて長々と語ってきたが、この記事の主旨は日本型雇用を論じることではない。
最近ツイッターで流行っている「会社員は副業をやって本業プラスアルファで収入を確保しましょう」という戦略が通用しなくなるのではないかということだ。
副業は本当に本業の能力につながるのか?
「副業をすると能力が上がり、それが会社員生活にもフィードバックされる」
というのは、副業界隈ではよく言われていることだが、それはさすがに界隈のポジショントークである。
副業をやっていると、たしかに副業の能力は上がる。
しかしそれが会社員の仕事の遂行能力にプラスに働くかと問われると、甚だ疑問である。
会社員が副業でやるのは、
- ブログ・アフィリエイト
- 転売
- 株・FX
- 不動産
- サロンやメルマガ、有料note
- スマホアプリ開発
のような、小資本かつ個人でできるようなものだろう。
ホリエモンがかつて「確実に上手くいく商売」として紹介した以下の原則に当てはまるものが副業の定石だ。
- 利益率の高い商売
- 在庫を持たない商売
- 定期的に一定額の収入が入ってくる商売
- 資本ゼロあるいは小資本で始められる商売
会社の業務内容をそのまま副業に適用すると職務規定に引っかかり解雇されるリスクもある。
だから副業をやる場合は本業とは別の路線でやらざるを得ない、という人も多いだろう。
もちろん、副業を通じて身に付く能力も多い。
ブログを真面目にやればSEOの知識が身についたり、ライティング能力が身に付いたり、情報のインプット→アウトプットの速度が上がる。
株・FXを通じて経済に詳しくなるかもしれないし、転売を通じて売れる商品のリサーチ能力が身に付くだろう。
これらはその副業を遂行するためにとても重要な能力だが、会社員生活で直接使うことは本当にあるだろうか?
会社での仕事はチームでやるものだ。
計画を立て、スケジュールを共有し、チーム内での課題を見つけ、お客さんと交渉し、人と人の間に入って調整し、仕事を進めていく。
副業は個人で問題を解決することになるが、会社では個人が全ての問題を解決する必要はない。
自分で全ての解決するよりも、問題を解決できる人を見つけ、適切に仕事を振る方が重要となる。
副業で求められる能力と、会社で職務を遂行する能力ではどうしても乖離が出てしまうのである。
したがって、
「副業をやれば能力が高まって、会社員生活にもプラスになって人生ハッピー」
なんて夢を見るのは考えが甘い。
副業は副業で、本業とは別モノとして考えるのが認識としては正しい。
副業が成長したからといって、会社員としての市場価値が高まっているとも限らないのだ。
特にブログで培われるような「ライティング能力」に関しては、ライティング自体の参入障壁が低いため、人材としては常に価格競争圧力をかけられる。
「副業のブログでページビューを稼いだ人は希少価値があるので、会社員としての年収も上がる」というのは基本的にないだろう。
「安く書いてくれる人」は世の中にたくさんいるからだ。
副業にコミットすると会社員生活が疎かになりがち
「副業の時間を確保するために日中集中するから、本業の生産性が高まる」
というのも副業界隈ではよく言われることだ。
これはある意味では正しい。
副業を軌道に乗せるには多くの時間を投入する必要がある。
会社員として夜中まで残業しながら副業を成功させる、というのは超人でなければ難しい。
人間の体は一つしか無いため、副業にコミットするなら本業に費やす時間を減らさなければいけないのである。
僕も会社員として長々働いてきて、最近ようやく気付いたことだが、会社の中で個人が生産性を上げて仕事を進めるには限界がある。
会社員の仕事は一人ではできないからだ。
たった一人でひたすら作業に没頭できるような会社員であれば、個人として生産性を上げれば全てオッケーと言えるかもしれないが、チームで仕事をする限り、チームメンバーの平均的な生産性によって個人の生産性の天井が規定される。
チームで協働する限り、周りのメンバーの生産性に引っ張られるのは当然のことだ。
それに大学受験を頑張った人ならなんとなく感じているかもしれないが、結局量をこなす人間が強いのだ。
「1日1時間、効率よく勉強して過ごした人」は、「1日5時間死ぬ気で勉強した人間」には勝てない。
会社員生活もそれに近いものがある。
毎日残業しながら会社に本気でコミットして働く人間に、
「副業やるから私、定時で帰ります!さようなら」
みたいに、ゆるふわやっている人間は勝てないのだ。
毎日3時間残業して、会社に尽くし、定年まで勤め上げることを前提にして真面目に働いている会社員に、副業サボリーマンは勝てない。
今まではそれでよかった。
日本には強固な解雇規制があって、ある程度真面目に働いていれば、多少パフォーマンスが低いくらいでは解雇されない(できない)からだ。
しかし終身雇用を廃止する=解雇規制を緩和するということは、強固に守られた正社員の「クビにならない特権」も無くす方向に動いていくということだ。
日々のパフォーマンスが低く、忠誠心の欠片もない副業リーマンの立場が危うくなる可能性は否定できない。
本業で成果を出し、副業につなげていくのが王道になるかもしれない
本業をできるだけ低燃費でやり過ごして副業で稼ぐタイプのサボリーマンは、解雇規制が緩和されると立場が危うくなる可能性がある。
そのため「いつか自由を掴みたい」「社畜を卒業したい」と志す人たちが目指すのは
・ 本業で成果を上げ、副業につなげる
タイプになっていくのかもしれない。
これまでのように社会不適合型プロブロガーを手本にするのではなく、
本業の編集者として成果を出しまくって、そのブランドで「箕輪編集室」というサロンを運営している箕輪厚介さんや、ブランド人田端さん、マイクロソフトの澤さんやちょまどさんがロールモデルとなる。
会社をいい意味で踏み台にして、自分自身のブランドを築き上げ、そのブランドや能力を社外の仕事につなげていくやり方だ。
しかし書いていて当たり前に気付いてしまったのだが、
「会社、マジでつまらん...」
「やってられん!脱社畜だァ!」
などと言っている人が箕輪康介さんや田端さんのようになれる可能性はほぼゼロだ。
どう考えても現実的ではない。
なので現実路線としては、
SEOの会社に勤めながら、ノウハウを学んで自分のサイトを運営するとか、
アプリ開発の会社に勤めて自分でスマホアプリを開発するとか、
会社を「専門性を身につける場」「自分のブランドを作っていく場」として活用し、その専門性を活かしてフリーランスや起業につなげるのが王道になると思われる。
あるいは、会社の専門性と強くリンクした(でも職務規定には引っかからない)副業ビジネスを作ったり、
エンジニアが勉強会に参加して社外でのプレゼンスを上げていったりと、本業と副業の境目を薄くした活動を行いつつ、独立のチャンスを狙っていくのが“解雇規制が緩和された未来”の脱社畜戦略になるだろう。
会社を選ぶ側としても、「大企業で安定しているから」という視点で会社を選ぶのではなく、「その会社でどんな専門性を身に付けることができるのか」を判断し、自分の頭でキャリアを考えていくことが求められる。
自分のキャリアプラン、人生プランを会社に任せるのではなく自分の頭で考え、会社は主人ではなく、人生を豊かにするためのパートナーとして捉えるのが「令和時代の会社との向き合い方」となるはずだ。
- 作者: 橘玲
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2019/03/21
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
これからの働き方を考える上で、橘玲さんの『働き方2.0 vs 4.0』はとても参考になるので、気になる人は読んでほしい。