最近はトヨタ自動車社長が「終身雇用を維持するのは難しい」との発言して話題になったり、「老後も生活水準を維持するためには退職までに2000万貯めなければ厳しいよ」と金融庁が発表した報告書が大炎上しました。
その他にも経団連の中西宏明会長が「終身雇用は制度疲労。限界にきている」と持論を展開したり、みずほ銀行が副業を積極的に推進しようとしたり、古き良き時代の終身雇用・年功序列の日本型雇用が黄昏の様相を見せております。
日経新聞ではジョブ型雇用を取り入れる企業の記事が目立つようになってきました。
ジョブ型雇用というのは、職務や勤務地を明確にして、職務記述書で担当業務(=必要とされる専門性)を労使で共有し、仕事に対して人を割り当てる雇用方式です。
日本は伝統的にまず人を採って、そこに仕事を割り当てていく「メンバーシップ型雇用」を採用しています。
このメンバーシップ型雇用は、戦後、日本が右肩上がりで成長していた輝かしい時代には雇用者にも労働者にも都合が良いものでした。
この時代は仕事が次々と入ってきて、会社が成長するにつれて業務内容もコロコロと変わっていったそうです。
そのように変化があまりにも激しい高度成長期には、明確に専門領域を定めて採用するよりも、まず人を採って、仕事に対して人を割り当てていくメンバーシップ型雇用の方が合理的だったわけです。
そんな右肩上がりで成長していた時代とっくに終わり、制度が現状に合わなくなってきてしまいました。
その歪みが最近になって噴出し始めて、大企業の偉い人たちが「日本型雇用、これ以上続けるのは無理ゲーなんじゃないか...」とボヤき始めたのです。
いわゆる“老後”も悠々自適の生活というわけにはいかず、現役時代の75%程度の生活を維持するためには若いうちからコツコツ資産を作っておきましょうね、という話が出てきています。
取材が来るので金融庁の例の報告書を読んでみましたが、「高齢夫婦が退職後30年暮らしていくには、年金以外に約2000万円が必要」なんてどこにも書いてないですね。「平均的な高齢者世帯は収入20万円に対して支出25万円なので、足りない5万円を貯蓄から取り崩してますよ」という話ですね。
— 橘 玲 (@ak_tch) 2019年6月11日
今後も少子高齢化が進むのは確定路線なので、「年金で優雅な定年生活」を期待するのは構造的にも無理があるでしょう。
僕たちが“老後”を迎える40年後の日本では「仕事はとっくに引退して、孫の顔を見ることが生きがいの爺さん」にはなれません。
何らかの専門性を持って社会に貢献することが求められます。
爺さんになっても動ける限りは会社で働き続けるか、あるいは自分でビジネスを回してお金を稼ぐか、頑張って貯めた貯金を切り崩しながら明日に不安を抱えていくかを選択することになるでしょう。
前置きが長くなりましたが、橘玲さんの『働き方2.0 vs 4.0 』は今後の日本の働き方がどのように変わっていくかの道標となります。
働き方の未来予想図とも言えるでしょう。
『働き方2.0 vs 4.0』では、年功序列・終身雇用の日本型雇用慣行を「働き方1.0」としています。
そんな「働き方1.0」に対して、成果主義に基づいたグローバルスタンダードな働き方が「働き方2.0」です。
現在の日本社会で起こっているのは「働き方1.0」から「働き方2.0」に向けた制度変更です。
しかし世界の潮流は、プロジェクト単位でスペシャリストが離合集散するシリコンバレー型の「働き方3.0」から、評判経済の中で自分のブランドを確立し、仕事を獲得していく「働き方4.0」に向けて大きく変わりつつあるので、これから日本が「働き方2.0」に突入したとしても、世界の潮流に追いつけないことには変わりありません。
好きなことで生きていく、しかない
『フラット化する世界』という本が大ベストセラーになったのを覚えているでしょうか。
著者のトーマス・フリードマンはアメリカのジャーナリストで、世界で最も著名な言論人の一人です。
そのフリードマンの最新刊が『遅刻してくれて、ありがとう』です。
『遅刻してくれて、ありがとう』では、フリードマンがアメリカの大学の研究者やシリコンバレーの起業家・投資家。エンジニアなどを精力的に取材し、我々が「スーパーノバ」ともいうべき科学・技術革命の時代を生きていることを説得力を持って示しています。
その上で、加速する時代で雇用を維持するためには、「3つのR(読み、書き、算数)」だけでなく、4つのCのスキルが必須になるとフリードマンはいいます。
ちなみに3つのRはReading, Writing, Reckoningで3R's(スリーアールズ)と呼ばれているそうです。
4つのCは創造性(クリエイティビティ)、共同作業(コラボレーション)、共同体(コミュニティ)、プログラミング(コーディング)です。
このとてつもない変化に遅れないようについていくには、すべての労働者が生涯教育によってスキルを高めていかなくてはなりません。
そんなフリードマンの主張に対して、橘玲先生は「バカげている」と一蹴します。
遅刻してくれて、ありがとう(上) 常識が通じない時代の生き方
- 作者: トーマス・フリードマン,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2018/04/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (5件) を見る
『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』のリンダ・グラットンも技術の進化に合わせて人間は学び続けなければいけない、と主張しています。生涯学習や学び直しは最近の一大ムーブメントでもあります。
しかし、実際に生涯学習が可能かというと、厳しいでしょう。
人生100年時代の生涯教育をしようと思えば、1世紀にわたって最新知識を学び続けなければなりません。
いま50歳の人がこれからプログラミングを勉強して、IT企業でデジタルネイティブの若者たちと机を並べてエンジニアの仕事ができるのかというと、無理だろうと橘先生はいいます。
「生涯学習できない人間が落ちこぼれるのは自己責任」と切り捨てるよりも、人生100年時代にもっとも重要なのは、好きなこと、得意なことを仕事にすることです。
嫌いな勉強を1世紀もつづけることなど誰にもできませんが、好きなことや得意なことならいくらでもできます。
「好きなことで生きていく」に対して、「そんな甘いことが通用するはずがない」と批判する人は必ずいますが、そういう人は労働は生活のための必要悪であり、苦役であると考えています。
しかしそうなると、人生100年時代には、20歳から80歳までの少なくとも60年間もの間、労働という苦役をやり続けなければいけなくなります。
普通の人間にとっては、60年も嫌いな仕事を続けて勉強し続ける方が無理でしょう。
なので、人生100年時代には原理的に、好きなこと、得意なことをマネタイズして生きていくほかないのです。
これは橘玲先生が他の著書でも主張されていることです。
最近つくづく思うのは「楽しんで仕事をしてるヒトには誰も勝てない」ということです。論語にある通り「これを楽しむものに如かず」なんですね。だから「勝ちたい」と思うのならスキルを高めて努力するよりも「楽しさと価値が一致する場所」を探す方が良い。努力とスキルで何とかなるのは二十代までです
— 山口周 (@shu_yamaguchi) 2019年6月12日
- 作者: 橘玲
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2019/03/21
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る