『べしゃり暮らし』という漫画がある。
『ROOKIES』や『ろくでなしBLUES』を描いた森田まさのり先生の作品だ。
『べしゃり暮らし』のテーマは「お笑い」で、主人公の上妻圭右(あがつま けいすけ)は漫才の祭典、「NMC」に挑んでいる。
NMCは「日本漫才コンテスト」の略だったか。
僕たちの世界で言う「M-1グランプリ」である。
圭右は現在、「NMC」の決勝トーナメントまで勝ち進んだのだが、準決勝の直前まで事故で記憶を失っていた。
記憶を失っていたことは秘密にしていたのだが、NMCの出演者の紹介コーナーで、「お涙頂戴エピソード」として記憶喪失の件を放送されてしまったのだ。
記憶を失って、逆境から這い上がるストーリーは美談に見えるが、「笑い」にとっては不要な要素である。
悲惨な事故を知ってしまうと、客は無意識に笑う事に罪悪感を覚えてしまうからだ。
「客に気を遣わせる笑い」など漫才ではない。
しかし事故のエピソードは放送されてしまった。
NMC決勝という念願の晴れ舞台に立つ圭右は客の心を掴めるのだろうか?
『べしゃり暮らし』の今後の展開は、吉本興業の未来とリンクしているようにも思える。
べしゃり暮らし 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
- 作者: 森田まさのり
- 出版社/メーカー: 集英社
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僕たちは宮迫のギャグを笑えるか
吉本興業の反社騒ぎは詳細には追っておらず、事件にはあまり詳しくない。
しかしニュースで繰り返し流れてくるもんだから、なんとなく大きな騒ぎになっていることだけはわかる。
僕はアメトーークが地味に好きで、毎回笑いながら見ていたのだが、果たしてこれから宮迫が出てきたときに笑えるだろうか?
どうしてもテレビで見た深刻な顔が忘れられない。
『龍が如く』の悪役のような顔だった。
ロンブー亮は正直、置物のようなポジションが多かったから大丈夫な気もする。
記者会見でめちゃくちゃ老けていたのは気になるが、昔のようによく笑う置物としてテレビに復帰してほしい。
何か問題があってもいずれ人々は忘れていくものだが、今の重苦しい「笑えない空気」をどう打開していくのかは注目していたい。
パワハラよりひどい吉本興業の搾取体質
『こいのぼり』の歌を思い出してほしい。
「屋根よーりーたーかーいー
こいのーぼーりー♪」
という歌だ。
明石家さんまが『こいのぼり』の替え歌を歌ったことがある。
ギャラより高い交通費
大きなお金は会社側
小さいお金は芸人に
面白そうに稼いでる
「ケチ本」とも言われる吉本興業は搾取が伝統になっている。
ギャラの取り分は芸人との相談で決める。
大御所の場合は独立されたら困るので折半になるが、若手は吉本の言いなりだ。
1対9で吉本が多く取るケースが多いのだという。
ちなみに萩本欽一が所属する浅井企画では事務所3:芸人7、ダチョウ倶楽部の太田プロやおぎやはぎの人力舎で事務所4:芸人6となっている。
吉本の搾取体質の異常さがわかるだろう。
なぜこんな搾取が許されるのかと言うと、吉本が「免許のないテレビ局」と言われるほど多くの番組制作に関わっているからだ。
吉本の芸人なしにお笑いやバラエティ番組を作ることはできない。
芸人も基本的には吉本興業から抜けてしまうと成功するのは難しく、搾取されながら下積み期間を過ごさなければならない。
夢を与えて金を奪うのが吉本の方針だ。もっとも、夢を叶える舞台も整えてくれるのだが。
吉本はどうやって抜けた芸人を潰すのか。
基本的には「共演拒否」という手段を使う。
そのタレントが番組に出演するときに自社タレントを引き揚げる。
そうすると、その番組が成り立たなくなるので、結局テレビ番組側も吉本の方針に従わざるを得ない。
ちなみに共演拒否のやり口はジャニーズ事務所でも同じだった。
かつてこのような吉本の支配に抵抗したのが島田紳助で、彼は1981年11月に労働組合を結成して組織で対抗しようとしたのだ。
要求は
「週一の休みをくれ」
「賃上げ・ギャラ査定の明確化」
のような真っ当なものだったが、吉本側は相手にしなかった。
「週一回の休みやて?ほな、ずっと休みいな」
ビジネスマンのように転職が許されない世界で、芸人の生殺与奪を吉本が完全に握っているため、吉本の立場が圧倒的に強くなる。
結果として芸人は搾取されてしまうのだ。搾取されても抵抗できない、といった方が正しいかもしれない。
この吉本の搾取体質こそが、闇営業問題にも深く関わっているのだろう。
吉本に依存して生活が厳しくなった若手芸人は、会社を介さない場所でお金を直接受け取りたくなってしまうだろうし、
普段からピンハネされまくって不満が溜まっている芸人も直接ギャラを受け取りたくなるのだろう。
反社と関わるのは良くないが、吉本が芸人搾取を是正しない限り、形を変えて似たような問題は起こるかもしれない。
余談だが、これらの搾取構造は会社員だからといって他人事ではない。
吉本ほど露骨なやり方はしないにしても、会社に生殺与奪を握られたままだといずれ搾取されてしまう可能性もあるのだ。
- 作者: 星野陽平
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『芸能人はなぜ干されるのか』は芸能界の構造に切り込んでズバズバと語っていて面白い。ジャニー喜多川にも触れていたので、別の機会でまた紹介する。