【書評】『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』



人類の歴史に貨幣制度が登場して以来、お金持ちになる方法はたった3つしかない。

(1)収入を増やす
(2)支出を減らす
(3)運用利回りを上げる

の3つで、この3つは一行の式に表すことができる。

資産形成 = (収入 - 支出) + (資産 × 運用利回り)

世の中の全ての金持ち本は、収入を増やすか、支出を減らすか、運用利回りを上げるかのどれかに分類できる。
サラリーマンの出世術とか副業成功指南は(1)の収入を増やすためのもの。
節約術の本は(2)の支出を減らすためのもの。
株で大成功する本みたいなのは(3)の運用利回りを上げるためのものだ。

この原則に当てはめると、『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』は(1)〜(3)の全てに触れてはいるが、強調されているのは(2)の支出を減らす方法だろう。

本書で書かれているのは具体的なノウハウというより「考え方」といった方が適切だ。

その肝を一行で述べると、以下の通りだ。

「制度の歪みから構造的に発生する富を合法的に手に入れて、豊かになろう」

制度の歪みを合法的に利用するにはどうしたらいいか?

マイクロ法人(オーナー企業)を作ることで、黄金の羽根に手を伸ばすことができる

と橘玲先生は主張している。

個人の人格の他に「法人格」を持つことで、

  • 合法的に税コストを下げることができる
  • 法人向けの融資を受けることができる

などのメリットを享受できる。
特に法人を作れば家族を雇用したり、法人と個人の間でお金の貸し借りができるので、税コストを圧縮する余地は大きくなる。

僕は法人を作ったことがない(法人を作るほどの収入がない)ので法人について詳しく語ることはできないが、個人で確定申告をしたことがあるので、

「売上から経費を引くことができる」

ことの有り難みはよくわかる。

たとえば会社員で給料をもらって生活する場合、月収から税金が引かれた(源泉徴収された)後のお金で家賃を支払う。

ものすごく単純化した話をしてみよう。

会社員の場合、50万円の月収があると、まず税金で10万円引かれて40万円が残る。
残った40万円から家賃の20万円を払って、残ったお金が20万で、そこから本を買ったり、映画を見に行くことになる。


自宅で作業する個人事業主の場合は慣例的に家賃の2分の1程度は「経費」にできる。

50万円の売上があって、家賃20万円中10万円分は経費となる。

資料のために本を買えば、それも経費になる。映画レビューのために映画を見に行っても経費だ。
50万円の売上から家賃の10万円分を引く。本や映画のお金を引く。

売上から経費を引いて残ったお金が30万円だとすると、その残った30万円から税金5万円を払う、みたいな計算になる。

会社員は「給与所得控除」という形で経費が勝手に算出されているので、経費を恣意的に積み増すことはできない。
一方で自営業者の場合は、経費の積み増しの余地は大きく、中にはプライベートと仕事の境界がつきにくいものもある。

どこまで経費にできるかは判断が難しいものではあるが、「税務署にきちんと説明できるもの」は経費として算入できると考えると、意外と経費にできる範囲は広いのだ(不安だったら税理士に相談しよう!)

パソコンの購入費用や通信費、書籍などは経費にできることが多い。
車も経費になるかもしれない。

繰り返しになるが、これらは全て税金を払う前の売上から差し引くことができるのだ。
ここで書いたのは、(法人を作らずにとも)個人でできるようなことを列挙したに過ぎない。

法人を作ればさらに多くの節税オプションを行使できるはずだ。
そして合法的に税コストを下げることができる。

会社員でいるうちは税金や社会保険料を意識することはほとんどない。
僕たち会社員は国家に容赦なく奪われているが、なす術がない。

社会保険料の負担額はいつの間にか上げられいて、国民年金の赤字の穴埋めに流用されている。
どんなに理不尽に奪われても、所得がガラス張りになっている会社員はなされるがままに蹂躙されるしかない。

辛いよ。本当に。

『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』は『貧乏は金持ち』と合わせて、法人を作った後にもう一度読みたい本だ。
知識が増えると世界の見え方が変わる。これらの本は「世界の見え方」を変えてくれる本だと思っている。
ただし、マイクロ法人に興味がなく、税金に関心がない人にとってはおそろしく退屈な本となるだろう。


僕は自分で確定申告書を作って初めて、税金のことを真剣に考えた。
確定申告書を作るまでは、税金は勝手に取られていくもので、面倒な手続きは全部、親切な経理部の人がやってくれるものだと思っていた。

oreno-yuigon.hatenablog.com

お金持ちになりたいと願う気持ちが少しでもあるのなら、税金のことは真剣に考えていかなければならない。
僕たちが最も貢いでいるのはワガママな女の子でもないし、AKBの握手券でもない。

国家だ。

女の子に食事を奢る以上の金を、何がなんだかわからないまま国家に貢いで、しかもそのお金はどこに消えたかよくわからない。
頑張ってお金を稼げば稼ぐほどお金は取られて、手元に残るお金はなんだか少ない。それでも会社員は税金を意識しない。
取られたところで抵抗の余地はほぼないからだ。

もう一度振り返ろう。

「黄金の羽根」とは、制度の歪みから湧き上がる富のことだ。

制度の歪みは正しい眼鏡をかけないと見えてこない。
正しい眼鏡とはすなわち、制度の知識と理解だ。

そして黄金の羽根の「拾い方」は「知識を基にした行動力」である。

『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』に黄金の羽根が落ちているわけではない。
本の中では「黄金の羽根の拾い方の実践例」を紹介してくれる。

その実践例をそのまま利用するだけではなく、僕たちが学ぶべきは考え方だ。

制度の歪みを目ざとく見つけて、正しく活用すること。
「黄金の羽根の拾い方」は豊かな人生を送るために最低限身に付けておきたいリテラシーでもあるのだ。