サラリーマンはなぜ、台風で電車が止まっても会社に行くのか



らくかちゃさんの『津田沼駅が大混雑した理由と日本人のアホさ加減について』という記事を読んだ。

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2019年9月8日夜に関東を通過した台風15号の影響で電車の運行が乱れ、津田沼駅に長蛇の列ができた。

行列は伸びに伸びて、12時になってもまだ電車に乗れない人が大量にいたそうだ。

台風が過ぎた後、関東地方の気温は急激に上昇し、日中の気温は30度を超えた。

炎天下の中、汗を拭いながら電車を待つのは相当な苦痛だったろうと容易に想像できる。

らくかちゃさんが津田沼駅に赴いたところ、

「はい、到着は16時くらいになりそうです!」

などと電話している方もいたそうだ。

そんな様子を見て、らくかちゃさんは

「もうね、帰れよ」

と呆れ果てている。

そりゃそうだ。

朝から夕方まで電車を待ち、消耗しきった体で電車に乗り、16時に会社に行って、そこからできることなど限られているだろう。

朝からずっと並び続けたのか、電車に乗れるタイミングを近くのスタバで待っていたのかはわからないが、電車を待つ時間でパチンコでもやってた方がまだ有意義な時間を過ごせたのではないだろうか。

もちろん、インフラ企業に務めている人や医療系の会社、病院に勤めている方が強い責任感を持って出社し、我々の生活を支えてくれていることには感謝しなければならない。

災害のたびに言及されていることだが、社会インフラを支えてくれる人がいるからこそ、私たちは通常通りの生活を送ることができるのだ。


とはいえ、電車を待つ全ての会社員がインフラ・医療関係者なわけではないだろう。

「無駄な我慢を無駄と言えない雰囲気が、企業活動の生産性を落としている」

点と、「災害時に不眠不休で働いてくれているインフラ関係者への感謝」は別問題だ。

なぜ雨にも風にも負けず出社しなければならないのか

会社組織には色々ある。

「無駄なことをやるのは合理的ではないから、単純作業はとにかく自動化せよ」

みたいなノリの組織もあれば、

「無駄なことでも一生懸命やるのが美徳」

と考えるような人もいる。


16時まで電車を待って、夕方からわざわざ出社する人は間違いなく後者だろう。

なぜ「来ない電車をひたすら待つ」みたいな無駄に耐えるのかというと、彼らにとって大事なのは

「一生懸命会社に行く努力をした」

という忠誠心を示すことだからだ。

そういうプレイなのだ。

僕も身に覚えがある。

新人時代だ。

会社に貢献できることなど何一つなく、社内の立ち位置は最下層で、課長は鬼のパワハラで有名な人だった。

課長が怖くて怖くて仕方がなかった。

足音で課長の接近を判断し、課長の気配を感じ次第、「死ぬ気で仕事しているフリ」をするという弱者の処世術を覚えた。

課長に怒られないために、とにかく「一生懸命やってます!会社のために頑張ってます!」みたいな服従の姿勢を見せた。

何も生み出さない残念な作業を命じられて、「これ、絶対意味ないよなぁ」と心の中で思いながら、それでも

「一生懸命です!仕事は楽しいです!」

みたいな顔をして働いた。


自分に力がなかったから。
クビになるのが怖かったから。
怒られるのが怖かったから。


無駄な作業に“NO”と言えるようになったのは、年次を重ねてからというか、「クビになったらなったで仕方ないでござる」みたいに開き直ってからだった。

会社をクビになっても、まぁ人生は終わらないだろうと。

加えて、鬼の課長がどこかに行き、チームが変わり、心理的安全性が担保された点も大きいだろう。

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津田沼駅で一生懸命電車を待って出社している人も気付いてるはずだ。

「来ない電車待つなんて意味ねぇだろ」

って。

絶対わかってる。彼らは決して馬鹿じゃない。

臆病なだけだ。

もっというと、一部の会社員は「怒られたくない」という恐怖に支配されて、無駄な作業を一生懸命やるポーズを取ってしまっている。

そんな服従のポーズを取ってしまう理由は3つある。

1つ目は「クビになったら困るから、服従のポーズを取るしかない」というもの。

2つ目は「組織で心理的安全性が担保されていない」というもの。
無駄な慣習に対して「それ無駄ちゃうん?」と言える雰囲気がないともいえる。

3つ目は「会社が忠誠心の競争の場になっている」というもの。

偏差値の高い大学を出た人は特に、我慢強い人が多い。
多少の無駄など軽々と跳ね除けて、大きな成果を上げるような馬力がある逸材もいる。

というか、「これ無駄やで!あれも無駄や」なんて斜に構えている人よりも、黙々と大量の時間を投入している人の方が短期的には大きな成果を出す。

そんなサラブレッド達が日々意識を高く持って、本心はどうであれ、会社に高い忠誠心を持って働くのが日本型雇用のすごいところだ。

で、そんな高い意識の人達が当たり前に残業し、雨にも風にも病気にも負けずに出社し、多少の無駄など気にせず猛烈に働くような組織だと、生産性の改善に目を向ける気風は育ちにくい。

生産性を上げるというのは、人間が楽することを許容することでもあるのだ。

意識が高く我慢強く優秀な人の方が、人間の弱さや手抜き(に見える改善)を肯定しづらい。

その結果として、優秀な人が揃っている組織のほうが生産性が低くなってしまうこともある。

主語が大きくなるが、日本企業においては「生産性が低い」=「無能」というわけではない。

むしろ優秀な学生がたくさん入社して、その優秀さゆえに生産性の低さが温存されている可能性もある。

「なんでも一生懸命やる」
  ↓
「一生懸命やると成果が出る人がいる」
  ↓
「成果が出る人の発言権が大きくなり、『とにかく一生懸命』が肯定されやすい雰囲気になる」
  ↓
「今のやり方を疑い、もっと良い方法を探す空気が生まれにくくなる(あるいは「全部やれ」となる)」
  ↓
「一生懸命やってるうちに、『いつものやり方』がいつの間にか時代遅れになって、相対的に周りの会社よりも生産性が低くなっている」

みたいなことが起きているのではないだろうか。


他にも失敗を許さない減点主義や前例主義なども原因としてはあるかもしれないが、
個人的には生産性の低さに関しては「会社員の無能が原因ではない」と考えている。


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「俺がいないと仕事が回らない」のは本当か

台風の中、何が何でも出社する人の中には、

「俺がいないと仕事が回らないからなガハハ」

と豪語する人もいるだろう。

そういう人は本気で「自分がいないと仕事が回らない」と信じているのだが、多くの会社組織では、一人いなくなったくらいで仕事は止まらない。

「俺がいないと回らないマン」が明日いなくなったとしても、通常通り業務は流れていく。

特に大企業だったらほぼ100%、一般社員が一人いなくなったくらいで会社はビクともしない。

「俺がいないと回らない」が口癖の人は、自分の価値を過剰評価しているし、
そもそも自分がいないと回らないような仕組みにしている時点で組織人としてはイマイチだ。

中には根源にある「怒られたくない」という恐怖に向き合わずに「俺がいないとダメだから」と正当化している人もいる。

いや、色々悪く書いてしまったが、責任感を持って出社する人は本当に素晴らしいのは間違いない。すまん!

でも台風の日くらい休んでも、次の日に

「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」

と謝れば何とかなるケースもけっこうあると思うよ。

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