銀行員大転職時代に改めて考えたい、橘玲先生のマックジョブとクリエイティブクラスの話



日経新聞に「銀行員の転職熱が高まっている」という記事が書かれていました。


転職王ゴールド・ロジャーも言ってます。


銀行から転職か?

したけりゃさせてやるぜ......


探してみろ

求人の全てをそこに置いてきた(ニヤ...)



世は大転職時代を迎える───



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日経の内容を簡単に要約すると以下の通りです。

  • 銀行員の転職サービス登録が前年から比べて急増している
  • 転職相談をしている銀行員は業界全体で数千人規模に上る見込み
  • 17年度に銀行員から転職が決まった人はリーマンショック直後の2009年に比べて4.6倍
  • 中堅・ベテラン層は「現在の年収」と「転職市場における価値」が違いすぎて転職が決まらないことが多い

銀行員、高まる転職熱 希望者1年で3割増


一度銀行に就職したら、後は銀行内で定年まで安泰。

結婚し、子どもを育て、ローンを組み、黙っていれば年収1,000万。


そんな昭和的なサラリーマンモデルの象徴が銀行だったのではないでしょうか。


『半沢直樹』をはじめとした池井戸潤作品ではよく、銀行員が描かれます。

企業と共に戦略を練り、中小企業の発展を支え、日本経済の血液を回していた銀行員。

『アキラとあきら』で描かれる銀行員の姿はとてもキラキラと輝いていて、銀行マンの矜持を垣間見ることができます。

めちゃくちゃ面白いですよ。


アキラとあきら (徳間文庫)

アキラとあきら (徳間文庫)


池井戸潤さんが働いていた頃の銀行員は、

日本経済の屋台骨を支えているという自負と誇りを持ち、

転職など考えることもなく、行内で偉くなって世の中を良くしようと志すのが主流だったのでしょう。


しかし時代は変わりました。

半沢直樹が今の大転職時代に生きていたならば、


「倍返しだ!」


などと復讐に走ることもなく、


「倍の年収だ!」


と叫び、別の会社に転職していたと思います。

直樹、優秀ですからね。



銀行も最近では、

国民から預金を集めて国債買うだけ

とか、

稟議を回す技術だけは一流、金融知識は二流

とか、

情弱に投信売りつけるだけのお仕事

など、色々と言われるようになってきました。


マイナス金利で利ざやが稼ぎにくくなったことも、銀行員の転職を促しているのかもしれません。



最近、橘玲先生の『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』を読み返しました。

タイトルにあるマックジョブの話はこの本の主題ではないのですが、身につまされることが多い内容でしたので、紹介します。



* * *


私たちにとって最大の資産は"働く能力"です。

これを人的資本といいます。


私たちはグローバル化した知識社会に生きています。

知識社会とは、「知」が権力として作用し、そこから富が創造される社会です。


知識社会に必須とされている知能は2つあります。

「言語的知能」「論理数学的知能」です。


言語的知能とは、文字や言語を操作する能力です。

論理数学的知能とは、問題を論理的に分析したり、数学的に処理する能力です。

プログラミングも論理数学的知能といえるでしょう。


我々は上記2つ以外にも身体運動的知能などの様々な知能を持っていますが、知識社会では「言語的知能」と「論理数学的知能」が特別に重視される傾向があります。


高度なテクノロジーに支えられた知識社会では、私たちの仕事は大きく3つに分けられます。

  • クリエイター
  • スペシャリスト
  • マックジョブ

の3つです。


マックジョブはマクドナルドのアルバイトのように、誰でもできる代替可能な仕事です。


スペシャリストは、医師や弁護士、会計士のように専門スキルを必要とする仕事です。

何らかのビジネスに精通し、その知識や経験にふさわしい報酬を得ていればスペシャリストと見なせます。


クリエイターはその名の通り、クリエイティブ(創造的な)ビジネスに携わっている人たちです。

作家や音楽家、スポーツ選手などが含まれます。


グローバル化によって、コストの低い発展途上国の人材を安い賃金で雇うようになりました。

都心ではコンビニのアルバイトはだいたい海外の人になってきているように見えます。


マックジョブは誰にでも代替可能なので、賃金は世界標準まで引き下げられるのです。


こうしたマックジョブに対して、スペシャリストやクリエイターは相対的に高い所得を期待できます。

スペシャリストやクリエイターのことをクリエイティブクラスといいます。


格差社会とは、グローバル化と知識社会への適応度で労働者がクリエイティブクラスとマックジョブに二極化されていくことなのです。



同じクリエイティブクラスでも、「拡張可能な仕事」と「拡張不可能な仕事」に分けられます。


クリエイターは拡張可能な仕事で、

スペシャリストは拡張不可能な仕事です。


拡張可能な仕事とは、映画や小説、ヒットアプリのようにヒットすれば世界中で売れるような仕事のことを指します。


逆にどんなに手術が上手な医者や凄腕弁護士がいたとしても、その人が分裂して増えるわけではないので、スペシャリストは拡張不可能な仕事です。


信じられないような大成功をするのは拡張可能な仕事で成功した人です。


UberやAirbnbなどは世界中で使われてますもんね。

アプリ開発も夢のあるクリエイティブクラスの仕事だと思います。


一方で、スペシャリストに比べ、鳴かず飛ばずの人が多いのもクリエイターの特徴です。

どちらも一長一短で、どれがよくてどれが悪いという話ではありません。




日本の大企業の多くは、「年功序列・終身雇用」を前提としてきました。


「年功序列・終身雇用が崩壊した」と言われて久しいですが、そんな外部事情はともかく大企業の中では「年功序列・終身雇用」の文化だけは根強く残っています。


日本の会社は新卒で社員を雇い、異動や転勤でさまざまな仕事を体験させます。


「ゼネラリストを養成する」


という体で、実際はその会社でしか通用しない「企業特殊技能」を学ばせるためです。


その会社でしか通用しない技能を何十年にもわたって習得させられた会社員は、会社をクビにされたらどこにいくこともできません。

日本企業では社員を会社に依存させた方が望ましいので、

なるべくスペシャリストを育てようとせず、「転職」という”裏切り”を防いできました。


高い専門性を持てばどこでも働けるようになって、人材への投資が無駄になってしまうからです。


このようにして、日本企業では専門性を持たない正社員が「サラリーマン」と呼ばれるようになりました。


自分の専門性がないため、職業を訊かれたら会社名を答えるしかないのです。



* * *


これまでは橘玲先生の本の要約で、ここからは僕の感想です。


「職業を訊かれたら会社名を答えるしかない」


これは痛いところを突かれていると思います。


僕が見たり聞いたりした限りの狭い範囲の話ですが、

大企業はスペシャリストやクリエイターを育てにくい構造になっているように感じています。


なぜか。


「その人しかできない仕事」

があると、その人がいなくなったら業務が回らなくなるからです。



どんな企業も社員に「スペシャリストになれ」と求めます。

これは偽らざる本音でしょう。

企業としても、社員がスペシャリストになって利益を上げてくれることを期待しているはずです。


その一方で、属人化した仕事を残さず、他の人でも同じことができるように「標準化せよ」とも言います。

属人化された仕事は大きなリスクですし、標準化できた仕事はコストの低い海外の労働者にも回すことができるからです。


このようなダブルスタンダードが併存しているのが多くの企業の実態かと思います。

そんな中、業務時間の多くがルールに則った定型的な会議や資料作り、報告に費やされ、市場価値の高い専門性を磨く時間を確保できず、

その企業特有の業務のスペシャリストになっていきます。


誰が担当してもアウトプットは安定し、誰でも一定の成果を上げることができるのは、

企業としてはとても洗練された姿でしょう。


でも、転職市場ではどうかな?


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その企業特有の業務しかできない。

社内の評価ばかりを見て、市場に評価される機会がない。

一生懸命仕事しているのにどうも自信を持てる専門性が身に付かない。



そんな状態で20代、30代を過ごし、お金の稼ぎ方がわからないまま40代に突入してしまうと、

会社と運命を共にするしかなくなってしまいます。


運命を会社に捧げる覚悟であればそれで大丈夫かと思いますが、

残念なことに、企業の寿命はどんどん短くなってきています。


企業の寿命が短くなる一方で、医療の進歩によって私たちの寿命はどんどん長くなり、働かなければいけない時間も伸びてきています。


そんな時代の最適戦略は何か?


橘玲先生は


「超高齢化社会の人生設計は『自分の好きな仕事をする』ことしかありません」


と言っています。

60年働かなければいけない時代で、嫌いなことをずっとやって生きる生活に耐えられるわけがないからです。


好きなことを仕事にして、自分だけのニッチな世界でスペシャリストになり、会社に依存せずに富を得る───。


知識社会に生きるとは、このような生き方を余儀なくされることなのです。





経沢香保子さんが大企業からベンチャーへの転職についてVoicyで語ってくれています。

ものすごく参考になるので、大企業からベンチャーへの転職を考えている人はぜひ聴いてほしいです。

第76夜 大企業からベンチャー転職の注意点