俺の遺言を聴いてほしい

これは俺の遺言だ。

オフ会の店をケチってはいけない。

久しぶりのオフ会に胸が高鳴った。
ご察しの通り、僕はほとんど飲み会に誘われない。

リアルでもネットでも、基本スタンスは引きこもりだ。

二週間前の話だが、久しぶりにツイッターの人と飲みに行くことになった。

1年前から知り合いだった女子ツイッタラーとそのツイッター友達で、ヒデヨシ含め3人で飲みに行こうと。


これが両手に花になるのか、四面楚歌になるのかはわからない。
しかし、ヒデヨシは一つ決意していた。


会計だけは、スマートに済まそう


と。

女子二人が楽しく話している間に、さっと会計を済ます。
あとでケチヨシと呼ばれぬための秘策である。

しかしこのヒデヨシ、貯金がほとんどない。
無い袖は振れぬ。

一瞬思案して、先手を打った。
女二人に気軽に奢れるレベルの店を予約しようと。

今思うと、邪心だったと言わざるを得ない。

渋谷駅から徒歩1分、予算3,000円の店を選んだ。
写真で見る限りは、個室で雰囲気が良さそうに見えた。

「こんなにコスパの良い店はありえない」とさえ思った。
この期待は後で見事に裏切られることになる。






【男性向け鉄則1】
店の雰囲気は写真だけでは判断できない。


女性には以下の鉄則を授けたい。






【女性向け鉄則1】
ショボい店を自分から指定する男はゴミ



オフ会の当日に、元々友人だった女子垢が体調不良となり、急遽二人で飲みに行くことになった。

予期せぬ事態である。

金曜の夜だ。
もしかしたら、何かが起こるかもしれない。

期待に胸を膨らませ待ち合わせ場所にいると、目の前に女性が現れた。


「こんばんは~はじめまして!」


巨乳である。


僕の胸は踊った。
いや、踊っていたのは彼女のおっぱいかもしれない。

「こんばんは。

渋谷の治安を守る者です。

完璧に店にエスコートできるように3回Google Mapを確認してきたので、安心してください」

彼女は苦笑いしていた。






【男性向け鉄則2】
おっぱいに動揺してはならない



ハチ公前から人混みをかき分け渋谷を歩く。
駅から歩いて3分。

Google Mapによると、店が近くにあるはずだ。


「あ、あれじゃないですか?」


女の子が先に店を見つけた。


あんなにGoogle Map、見てきたのに...

何度も練習したスピンムーブをいとも簡単に河田にブロックされた赤城キャプテンのような気持ちでビルに入る。
ちなみにこのネタは、スラムダンクを知らない人には全くわからないだろう。

話を進める。






【男性向け鉄則3】
店の場所は肉眼で確認するべし



店のエスカレーターは昭和風であった。
明らかに耐震強度的に問題がありそうなビル。

一抹の不安がよぎる。

ぐるなびの写真はまともだったはず...
ぐるなびの写真はまともだったはず...

エレベーターの中でそればかり考えていた。

店の入り口についたとき、我々を迎えたのは大音量の音楽であった。
祝福されたわけではない。流れているのはJ-Popである。



なんだここは──────。



「いらっしゃいませー」


と言う店員に覇気がない。
大丈夫か?


案内された部屋はたしかに個室だった。
個室ではあるが、完全にカラオケである。
しかも、ソファが破れ、テレビ(のようなもの)の画面は割れている。


ホラーだ。


ここから僕の長い言い訳が始まった。


「思えば僕たちは長い時間、生きてきました。

この世に生まれ落ちて30年。

良いこともあったし、悪いこともありました。

振り返ると、人生で最もたくさん笑い、輝いていたのは大学生だったかもしれません。

今日は、そんな大学時代を思い出すような飲みにしましょう。

そう、この大学生みたいな店でね


彼女は軽やかに笑いながら言った。


「大学生でもこのレベルの店は行かないよ!」


彼女の笑顔だけが救いだった。
破れたソファーの切れ端が尻に刺さって心が痛かった。






【男性向け鉄則4】
渋谷で一人あたりの予算が3,000円以下の店はヤバイ








【女性向け鉄則2】
デート中に言い訳を始める男はゴミ


ツイッタラーの飲みは楽しい。
共通の話題がたくさんあって、話が尽きないからである。


途中で「僕はなぜ女子垢にモテないのか」と、すがるような気持ちで聞いてみた。

・近寄りづらい
・絡みづらい
・親しみやすさが足りない
・アイコンがカッコよくない
・友達のいないネタアカウント感がすごい

など、歯に衣着せぬ物言いで、僕の弱点を教えてくれた。
大事なのは、親しみやすさである。






【男性向け鉄則5】
ツイッターでモテたいときは、親しみやすいけど気持ち悪くない距離感を保て



ほっこり料理アカウントを自称してきた僕だが、これからはより一層力を入れて、女子の心を掴む家庭料理を紹介しようと決意した。


コースの鍋が運ばれてきた。

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ぐるなびの写真によると、こんな肉が運ばれてくるはずだったが、出てきたのはベーコンみたいにペラペラな肉だった。

これはあまりにも...
あまりにもひどい。

僕は泣きそうになり、そして目の前の女子垢に申し訳ない気持ちになった。


「...申し訳ない!

ここは料理アカウントとして、謝らなければならない。

まさかこんなペラペラのベーコンが出てくるとは...」

と言い訳する僕の話を聞きもせず、

「いや、野菜はうめえぞ」

と野菜をモリモリ食べる姿を見て、心が軽くなった。






【男性向け鉄則6】
食べログやぐるなびの「店提供の写真」は信用してはいけない







【女性向け鉄則3】
笑顔が人を救うこともある



ペラペラの肉と、しおれたポテトを食べ終わる頃に尋ねた。

「ば、挽回のチャンスをくれませんか?」

君がトイレに行っている間に、雰囲気の良いバーを探してみせると。
そして、雰囲気の良いバーで美味しいお酒を飲んで、このベーコンのことは記憶から消してほしいと。
デスノートの所有権を失った夜神月みたいに。


「いいよ!」


と快諾してくれたので、僕は早速店を探した。

「渋谷 雰囲気の良い バー」

店に目星をつけて、支払いを済ます。

「童貞みたいな店だったね(笑)」

と彼女が言った瞬間から、僕のあだ名は「童貞」となった。

なんの。
生まれたときはみんな童貞である。

ジョニー・デップもオーランド・ブルームも、昔は童貞だ。

僕は逆転のチャンスを与えられたことに感謝した。

店を出て、軽やかな足取りでバーに向かう。
途中、道に迷いそうになるたび、

「童貞とは、道を急がず我が道を行く者である」

と言い訳した。僕の人生は言い訳ばかりだ。

渋谷駅から徒歩8分のバーは幸い雰囲気も良く、お酒が美味しかった。

店の雰囲気が良いと、心が軽くなる。
店に後押しされた気分になる。

「甘い恋の始まりのようなお酒を」

と意味不明なオーダーをしても、美味しいお酒を出してくれるバーテンダーは神だった。

1時間か2時間話して店を出た。
降り続いていた雨もやみ、うまいお酒を飲めたおかげで、心も晴れやかだった。


「童貞の誇りをかけて次は寿司を奢りますので。

もちろん、すしざんまいでね」


そんな話をしながら、渋谷駅で別れた。

「では、また」

次の飲み会に向かう彼女の足取りは軽やかで、僕はそんな彼女の後ろ姿を見送りながら、渋谷駅のすしざんまいを検索した。