書評『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』

日本企業の生産性の低さが様々なところで取り上げられ、日本の凋落の最大の原因と取り沙汰されている。
公益財団法人 日本生産性本部『労働生産性の国際比較』によると、2017年の日本の就業1時間あたりの労働生産性は47.5ドルで、OECD加盟36カ国中20位だった*1

主要先進7カ国で見ると、1970年以降常に最下位の状況が続いている。
この記事で取り上げるドイツの労働生産性1時間あたり69.8ドルで、OECD加盟36カ国中7位となっている。

日本の生産性が低いことはデータから明らかだが、労働生産性はドルで計算されているため、近年の円安傾向によってやや数値が低く出ていることは考慮しなければならない。

国の豊かさや労働効率を比較する際に用いられる「一人あたりのGDP」も日本はOECD加盟36カ国中17位(43,301ドル)となっていて、もはや「経済大国」と呼べない現状が垣間見える。

ドイツの一人あたりのGDPは50,878ドルでOECD加盟36カ国中10位である。

ドイツでは従業員を解雇から守る法律が充実していて、正社員を法で保護している点は日本に似ている。
解雇の通告は解雇する日の3ヶ月前までには行わなければならないし、「経営上必要な解雇」を行う場合は解雇されても不都合が少ない人から優先的に解雇しなければならない決まりがある。

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また、ドイツは日本と同じ物づくり大国でもあり、貿易大国でもある。
両者は非常に似通っているが、生産性には大きな開きがある。

なぜドイツと日本でそこまで生産性に差があるのかを分析しているのが『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』である。

日本とドイツの考え方の違い

OECDの統計によると、1人当たり年間実労働時間は日本が1,710時間、ドイツが1,356時間となっている*2
これは一日8時間労働とすると、日本人の方が44日分多く働いていることになる。

ただ、両国とも労働時間の短い非正規雇用が増加しているため、正社員の労働時間は全体の平均より長い可能性がある。
特に日本では「フルタイム」で働く正社員の平均残業時間はサービス残業抜きで年間2000時間超となっていて、全体平均よりはるかに大きい*3

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「ヒューマンタッチ総研Monthly Report」より引用

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ドイツの労働時間が短い最大の理由は法によって労働時間が厳しき規制されているからだ。
1994年に施行された「労働時間法」によって一日あたりの労働時間は8時間を超えてはならないと規制されていて、それが守られているかどうかは労働安全局が厳しくチェックする。

労働時間法を守っていない場合は経営者が最高1万5000ユーロ(210万円)の罰金を科され、悪質な場合は最高1年の禁固刑を科されることもある。

また、一日10時間を超える労働を行わせていた課長に罰金を払わせる会社もあるそうだ。

このようにドイツでは法と仕組みでガチガチに残業を規制している。だからそもそも仕様として残業ができないのだ。
なので必然的に「限られた労働時間で生産性を高めるしかない」という発想になる。

残業時間が多いことは忠誠心と無関係

ドイツ人は残業時間が多いことを会社への忠誠心の証と考える人は皆無である。
がんばっているのに成果が出ない社員よりも、あまりがんばらなくても短い時間で成果を上げる社員の方が評価される。
同じパフォーマンスを上げていた二人がいたとしても、評価されるのは労働時間が短い方だ。
なぜなら、ドイツ企業の管理職は社員の健康や安全を守る義務を負っているからである。

有給は全員全部取得する

ドイツ人は他者のために行う労働の時間と、自分のために使う時間を厳密に区別する。
全ての労働者は1年間に最低24日間の有給休暇を取る権利があり、大半のドイツ企業は30日前後の有給休暇を与えている。
労働者はそれらの有給を全て取得し、それが当たり前になっているので休むことが問題にもならない。

日本企業では「休むのは他の方に迷惑をかけて悪いこと」と捉える傾向が強い。
休暇後に「ご迷惑おかけしました」とお土産を配って歩くのは銀行に限らないだろう。

僕が見てきた日本企業では「僕が休んでしまうと仕事が回らないからねハハハ」と誇らしげに語る人もいた。
休まないことを誇りにしているのだ。実際は休んでもたいした影響はないし、そもそもタスクを属人化させず、抱え込まず、オープンにしておけばいいはずだ。

成果主義によるプレッシャーも強い

ドイツ企業が成果で評価するということは、企業側も労働者のパフォーマンスを厳しく監視しているということだ。

社員全員が年初に目標を設定させられ、上司と面談を行って、年末に目標を達成したかどうかをチェックする。
目標が達成できないと理由を問い質され、給料が減る場合もある。

良くも悪くも厳密な成果主義を採用しており、日本企業にありがちな「がんばってるから評価を甘くする」とか、「目標が達成できてなくても可愛いやつだから大目に見てやる」というのが通用しないそうだ。

日本とドイツで生産性に差が出る理由

日本とドイツで生産性に差が出る理由は法による残業規制と、両者の民族性の差によるものが大きい。
ドイツの残業規制が極めて厳格で、また彼らが自分の時間をとても大切にすることはこれまでも述べてきた。

もう一つ大きく異なるのは、ドイツ人は効率性をきわめて重視する点だ。
無駄な仕事をしたり、無駄な時間を費やしたりすることをひどく嫌う。

会社内で書類(ファイル)が見つからずに困った経験がある日本人は多いと思うが、ドイツ人は誰でもアクセスできる場所に整然と書類が整理されている。
それは彼らが書類を探すのに無駄な時間を費やしたくないと考えているからだ。

また、ドイツ人は仕事をする際に「費用対効果」を常に考える。
費やす時間や労力に比べて、得られる効果や利益が少ないと思われる場合には、仕事を始める前に「そのような仕事をする意味があるのか」と真剣に議論する。

一日の労働時間が限られているため、1分でも無意味な作業に費やすことは避けるべきだと考えているからだ。
ドイツ人は合理性をとても大切にしていて、意味がある仕事をするように努めている。


この話を本で読んだとき、僕が知っている日本の会社とはまるで違うメンタリティだなと思った。

僕の知っている日本の侍のようなサラリーマンたちは、「意味がありそうならとりあえず全部やる」のを心情としており、好きな言葉は「念のため」と「とりあえず」だった。

「念のため」やれることは全部やって、「とりあえず」できることはやっておく。
それでひたすら残業して、気持ちよさそうにしていた。

「なぜその作業をやらなければならないのか」
「その作業をやることでどんな結果が生まれるのか」
「その作業に時間を費やすことに意味はあるのか」

などの費用対効果への意識が皆無で、それに疑問を持つ人間もいなかった。
「それがこの会社の仕事だから」と完全に思考停止してたのだ。

サービスは日本が最高

日本の雇用慣行は非合理的で呆れるような部分も多いが、「お客様」の立場で考えると最高である。
チップなしでも丁寧に接客してくれるし、日曜も祝日も24時間どこかの店が空いている。

閉店間際に店に行っても親切に対応してくれるし、問題があったら優しく聞いてくれる。

ドイツではサービスにかかるコストを常に考慮するため、収益に比べてコストが高すぎる場合はサービスは提供しない。
そのため過剰ともいえる日本のサービスに比べて明確にサービスの質は劣るのだ。

生産性を求める勇気

『ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか』の最後に、著者の熊谷徹さんが「日本人が真似すべきこと、真似すべきでないこと」として、様々な提言をしている。内容は書籍を読んでもらいたいが、僕自身の意見も述べておく。

生産性を高めていくことは今後人手不足が確実となる日本では必須である。
介護をしながら働く人、子育てをしながら働く人、日本の精神文化に慣れない外国人。様々な人が働きやすい環境を作っていかなければ社会が回らなくなってくる。

精神論で乗り切ろうとするのではなく、合理的に考え、意味のないことはやらない。

少し思い出すだけでも、これまで慣習として行われてきたけれど、効果が薄いと思われるものはたくさんある。

  • 報告資料を読み上げるだけの会議
  • 何も決まらない会議
  • 社内向けの説明資料(大量のパワポ)を徹夜で作成
  • 些細なこともその場で判断せず、何でも上長に許可を得ようとする責任回避精神
  • 偉い人に怒られないことが目的の成果物
  • なんでもメールで報告(打つのに時間がかかってる)
  • 手当たり次第CCで宛先にいれるせいで毎日大量に飛び交うメール
  • 意味があるかわからないけど「とりあえず」「念のため」やっておいた全ての作業

例を挙げればキリがないが、合理性を忌避し異常なまでに時間をかけようとする精神の根本にあるのは

「叱られることへの恐れ」

ではないか。

社内の偉い人に怒られないために、あるいは顧客に怒られないために、95%のアウトプットを98%の出来にするのに異常に時間をかけている。そのくせ頑張っても100%にならず、結局色々と怒られているので何がしたいのかよくわからない。

怒られたくないからいちいち判断を先延ばしにし、その場で何も決めず、偉い人にいちいち判断を仰ぎ、偉い人の残業が増える。
今までやってきたことを「効果があまりない」といってやめて何か起こったら怒られてしまう。
だからやめられない。無駄なルールを廃止できない。一度作られたルールがずっと残る。
怒られないために頑張りすぎなのだ。

わかりづらい例かもしれないが、社内向けの95%の出来のアウトプットを98%にするために50時間かける間に、収益につながる90%のアウトプットを10個作ることができるはずだ。

費用対効果の低いものは「やらない」と決断する勇気。
それこそが合理的に判断できない会社員に最も欠けているものだと僕は思う。


ドイツ人はなぜ、1年に150日休んでも仕事が回るのか

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