「すいません!」
彼女は、驚いた顔をして振り返る。
「あの、橋で見かけたときからすごく綺麗だなって思ってて。
今話さないと一生後悔すると思いました!」
僕は息を吸う。
真剣味を見せるためだ。
「だから・・・よかったら友だちになりませんか?」
彼女は戸惑いながら尋ねる。
「え、酔ってるんですか」
「少しだけ!その勢いで頑張ってみました!後ろ姿があまりにも綺麗だったから」
「そうやって毎日色んな子に声かけてるんでしょ」
「そんなことないですよ!今日はたまたまです。後悔したくないな、と思って」
少しだけ悩む素振りをする。
彼女と並行して歩き始める。
「じゃあ、この紙に連絡先書いてもらってもいいですか?今度連絡します」
彼女は紙を取り出す。
そこにLINEのIDを書き込む。
「ありがとう。嬉しい。連絡待ってます」
そこで彼女と別れた。
彼女から連絡が来たのは次の日だった。
短く、事務的なLINEだった。
丁寧に返信した。
心から感謝しているように、ありがとう、嬉しいと伝えた。
感謝はしているが、本当の意味で非モテコミットしているわけではなかった。
でも、まるでコミットしているように対応した。
誠実さを武器にできれば、正直楽だ。
丁寧に褒めて、丁寧に感謝すればいい。
ネグやいじり、主導権のことを考えずに済めば、どんなに気持ちが楽になるだろう。
頭を使わなくても、ありのままで接していけばいいんだから。
彼女の理想に合わせて振る舞う必要もない。
誠実に、無害な男友達のように、LINEした。
一回目のアポは、カフェだった。
カフェで話し、相手の話を十分に聞き、信頼を得た。
次に、俺の友達を交えて、2対2で楽しく飲みに行った。
一度もギラつくことなく、普通の会話をして盛り上げた。
その後、特に連絡を取ることもなく、3週間後くらいにLINEをした。
既読スルーされてしまった。
友達フォルダに入れられてしまったということだ。
女は無関心な男に対して、ひどく雑な対応をする。
彼女たちにとって、価値のある男にならなければいけない。
そして重要なのは、その価値は本質を見られているわけではないということだ。
見せ方によって、彼女たちの捉え方は変わる。
誠実に、相手のことを第一に考えて接した場合、「ただのいい人」から脱出するのがすごく難しい。
というより、タイミングが掴みづらい。
なぜそんなことを試したのかというと、ちょうと恋愛工学戦争があった頃で、
「ありのままで丁寧に接して愛されない奴はかわいそう」
とか、
「自分を偽るやつキモい」
とか、
「ネグったりするからショボイんだよ」
とか、色々と言われていたからだ。
それなら試してみようということで、誠実に対応してみたら、このざまだ。
サンプル数が少なくて、まだ抽象的な理論には落とし込めないけれど、
「ただの誠実な男」
でいって、うまくいくのは、スペック差がある場合だと思う。
何もしなくても相手がこっちに魅了された場合だったら、誠実に接して大丈夫。
ゼロからのスタートの場合、「ただのいい人」から始まると、そこからの脱出が難しい。
やっぱり、主導権を意識して、「俺の意志」で物事を進めていくように振る舞うことが大切だと感じた。
もっと「お前なんてどうでもいいよ」という態度を出しつつ、追われるように振る舞うべきだった。
一方で、同時期に声をかけて、ナンパの手法を意識して接した子とは、いまでもLTRの関係を続けている。
サンプル数は足りないが、恋愛において、女の意見を真に受けるのは本当に意味のないことだと改めてわかった。
そして、女に迎合するキモい男の意見も全部無視していい。
というのも、彼ら、彼女たちは、実証経験数が圧倒的に少ないからだ。
ごくわずかな体験から、あたかもそれが真理のように語る。
しかも、一回一回の恋愛を「試行」として捉えることができないから、数少ない経験と、月9のドラマで見たような内容が真理のように語る。
試行して、結果を見て、改善の仮設を立てて、再度また試行する。
相手が異なることはあれど、何らかの共通点を見出す。
そして、成功の確率を上げる。
こういうアプローチを、普通の人が取れているとは思えない。
なぜなら、恋愛はひどく主観的なもので、客観視の対象ではないからだ。
もうあと何回か、誠実系のアプローチを試して、「誠実アプローチがうまくいかない」パターンと、「うまくいくパターン」のデータを集めて分析してみようと思う。
実証結果の発表はしばしお待ちを。