もっと、人間を、愛せ。




大成功した経営者が言っていた。

「人生にはステージがある。
ステージを登っていくと、付き合う人間も変わっていく。
付き合う人間が変わっていないということは、自分が成長していないってことだ」


大学生の頃、大成功した経営者に感化された僕は、自分のステージが上がっていくにつれて、友達も変わっていくのだと思っていた。

努力して、結果を残して、ステージを上がって。
そこには違う景色が見えて、違う友達ができて。
そのためには、昔の付き合いから"脱皮"しなきゃいけないんだと思ってた。


昨年末。
久しぶりに大学の友達で集まって、忘年会をした。
何年ぶりに会ったかわからないくらい久しぶりに会う友達もたくさんいた。

それでも、20歳の時と全然変わらない会話をして、馬鹿みたいに笑った。
本当に楽しかった。

この時、ふと気付いたことがある。

あぁ、楽しいな、嬉しいな、面白いなって。
そんな感情を抱かせてくれるのは、結局人なんだって。

俺はステージを上がるぜ〜
成り上がりじゃ〜

なんて。
必死になって、パソコンにかじりついて、仕事をして、それでお金が入ったとしても。

結局、自分を嬉しい気持ちにさせてくれたり、楽しい気分にさせてくれたり、笑わせてくれるのは、人なんだ。
人と人との付き合いの中で、幸せを感じるものなんだって。

そんなことに今更になって気付いた。

もしかしたら、僕がステージを上がってないだけなのかもしれない。
新しい場所で、新しい友達を作る努力が足りないのかもしれない。

それでも、涙が出るくらい、心置きなく笑い合える友達はとても貴重だ。
友情を育むのは、愛情を育むことに似ている。

長い時間をかけて、思い出を共有し、感情をぶつけていかなければいけない。
そんな関係は、大人になってから作るのはとても難しい。
仕事や家庭で忙しく、友情を育む時間が取れなくなるからだ。

冒頭の成功した経営者はステージを駆け上がっていったのかもしれない。
僕はステージを駆け上がれなかった残念な男だ。

それでも、年を取って、それなりに経験を積んだ今、言えることがある。

やっぱり、人間関係って大事なんだって。
自分がどのステージにいたとしても、一度築いた人間関係はできる限り続けていくべきなんだって。

そんなことを、年末に改めて思ったわけなんです。


* * *


就職した頃。

「これからは個人の時代だ」

なんてことを偉い人が言っていた。

誰もがスマホを使ってインターネットを使い、突出した個人が生み出したサービスが世界を変える。

そんな論調だったと思う。

たしかに「突出した個人」が生み出したサービスは、世界を変えたかもしれない。
マーク・ザッカーバーグやスティーブ・ジョブズ、孫正義なんかがよく例に挙げられる。

でも、そんな彼らだって、一人じゃたいしたことはできない。

働けば働くほど、嫌でも気付くことは、人間が一人でできることには限りがあるってことだ。

人と協力して、足りないものを補い合い、得意なことを活かしていかないと、良いモノは作れない。

仕事をすると、何かをお願いしなければいけないこともある。
自分ができないことをやってくれるのは、人だ。


仕事をすると、お金の問題がつきまとう。
お金を出してくれるのも、人だ。

それはお客さんだったり、投資家だったり、決裁権を持つ上司なのかもしれない。

個人のスキルがどんなに高いとしても、最後に判断するのは人だ。
人がお金を出したくなるのは、応援したくなる人だ。
応援したくなる人は、素直で誠実な人だと僕は思う。
もちろん能力が高いのも重要だけど、判断するのは感情を持った人なのだから。


サービスを評価してくれるのも人。
「ありがとう」って言ってくれるのも人。
やりがいを与えてくれて、幸せな気持ちにさせてくれるのも人だ。

突出した個人は本当にすごい。
素晴らしいと思う。

でも、人と人が協力することで生まれる力を軽んじてはいけない。
どんなすごい人でも、大きなモノを作るには、誰かと協力していく必要があるのだから。


* * *


日曜日だというのにお酒を飲んでしまい、勢いのまま思いつくことを書きなぐった。

最後にもしも今、この酔っ払った勢いのまま、大学4年生の調子に乗ってた自分の前に現れることができるなら。

思いきり肩を掴んで、大きな声で、まっすぐ目を見てこう言いたい。


「もっと、人間を、愛せ」


と。