「ネットコミュニティの設計と力」はサロン含め、ネットコミュニティを運営する全ての人に役に立つ素晴らしい本だった



「角川インターネット講座」シリーズの第5巻「ネットコミュニティの設計と力」がめちゃくちゃ勉強になりました。

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この本は複数のネット界のスター的な執筆者達が、「ネットで流行るコミュニティの作り方」を論じたものです。

読者の中にも、はてな会長の近藤淳也さん、nanapi代表の古川健介さん(けんすう)を知っている人は多いのではないでしょうか。

2018年現在、ネットにはたくさんのコミュニティが存在します。

パッと思いつくのは、DMMサロン、Facebookグループ、2ちゃんねる、はてな村、NewsPicksなどですね。

毎年たくさんのコミュニティが生まれ、その多くは人目に触れることなく消えていきます。

Twitterで流行っていたサロンでも1年以上活発に活動しているものはわずかで、多くは知らぬ間に活動を停止していったのではないでしょうか。

今のように次から次へと新しいサイトが生まれ、ユーザーの可処分時間を奪い合っている状況では、「流行るコミュニティ」を作るのはとても難しいでしょう。


では、流行るコミュニティにはどのような仕組みがあるのでしょうか?

前提として抑えておかなければならないのは、

・コミュニティは「ユーザーが作っていくもの」である

ということです。

コミュニティの重要なところのほぼ全てはユーザーが作り上げていくものなので、「絶対に流行るコミュニティ」を運営が意図して作るのはとても難しい。

というのも、人々がいつ、どのように行動するのかを計算するのは不確定要素が多すぎるため、あらかじめ予測して設計するのは難しいからです。

なので、運営者に必要なのは

「ユーザーによいコンテンツを投稿してもらう設計をして、場を整備し続けていくこと」

です。

ネットコミュニティには3つのフェーズがあります。

・設計期間
・立ち上げ期間
・拡大期間

です。

流行るコミュニティを作る上でもっとも重要なのは「設計」です。

どのようにコミュニティが始まり、どのように育っていくかを決め、そのコミュニティが盛り上がっていく設計を考えます。

「設計」にはサービスの開発だけではなく、ルール作りや方針も含まれます。


一度「場」が動き出してしまうと、後から「場」の雰囲気や風土を変えるのは難しいため、最初からある程度のルールは決めておく必要があります。

コミュニティサイトの設計で最初に考えるべきなのは、

・ユーザーが何を楽しみにして投稿するか

です。

他のユーザーとの会話を楽しみたいのか、他の人の役に立ちたいのか、自己顕示欲を満たしたいのかなど、ユーザーの欲求を掴み、モチベーションを挙げるような仕組みを考える必要があります。

この「設計」という点で面白かったのは、はてなブックマークの設計の例でした。

ニュースなどのコンテンツに対して意見を言いたいユーザーは、自分の意見が否定されることを好まないケースが多いので、はてなブックマークやNewsPicksはあえてコメントにコメントを返しづらい設計になっているそうです。

これは意見を否定したり、そこで議論が起こらないようにするためです。

そのうえで、良い意見へポジティブ・フィードバックをするために、コメントに星をつけたり良い評価をすることができるようになっています。


たしかに、はてなブックマークはコメントにコメントを返しづらい。
好き放題石を投げられるけど、石を投げ返すのは難しい仕様になっています。

そのため、はてなブックマーク上で議論は起こりづらく、書き手の「一言言っておきたい。反論はいらん」という欲求を満たす作りになっています。


このように、ユーザーのモチベーションを保つ仕組みを考え、設計し、その上で"作り込みすぎずに"サービスをリリースするのが「設計期間」です。

「作り込みすぎない」のは、サービスはユーザーと共に成長するものなので、最初から完璧に作り込んでしまうとユーザーの創造性を奪ってしまうからです。


* * *


「立ち上げ期」はユーザーを会得するための重要なフェーズです。

この段階で最初に優先すべきは「書き手」です。

ユーザーが投稿したものがコンテンツになり、コンテンツを見にユーザーがやって来て、見に来たユーザーの一部が投稿する

という流れを作るためです。

書き手が書きたくなるようにするにはどうしたらいいかというと、

「読み手がいなくても投稿したくなる仕組みにすること」

です。

本では「食べログ」が例に挙げられています。

食べログは初期の頃は、

「自分だけのレストランを作ろう」

をコンセプトにしていて、「食べ物のブログを投稿できるサービス」でした。

最初はマイページの機能が強化されていて、「書き手のためのサービス」色が非常に強かったのです。

その後、投稿が集まってから検索機能を強化し、「店探しができるサービス」に移行していきました。

これが最初から「店探しができるサービス」になっていたら、見に来た人が検索しても何も引っかからず、残念なサイトになっていたに違いありません。

成長に合わせてサービスの性質を変えていくことで成功したのが食べログだったのです。


「書き手」が快適になるようにサービスを作り、書きたくなるモチベーションを保つようにする。

コミュニティが大きくなってきたら、次は読み手が快適にコンテンツを楽しめるようにサービスの性質を変えていく。

こうやってサービスを変容させていくことが、立ち上げ期に重要なことです。

ちなみに本には「初期の書き手の集め方」まで書いてあります。


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拡大期では、自動的にユーザーが増える仕組みを作ることが大切です。

ネットコミュニティは坂道を転がる雪だるまに例えられます。

雪だるまは最初の芯を作るまでがとにかく大変ですが、芯を作ればあとは転がしていけば大きくなります。

拡大期とは、雪だるま式に自動的にユーザーが増えていく仕組みになったときを指します。

具体的には、

「書き手が集まっており」

「投稿されたコンテンツが十分に揃い」

「読み手が増えつつある」

状態です。

拡大期では「書き手が1割、読み手が9割」という形になりやすいので、読み手を優遇する形にしていきます。

読み手を優遇するには、「ランキング機能」や「良い投稿のまとめ」などを作って、読み手が面白いコンテンツを発見できるようにする仕組みを整えます。

荒らしなどの「ダメな投稿」は定期的に削除し、書き手が「古参」とならないように循環する仕組みを作ります。

このように読み手に快適な空間を提供することで、サービスは坂道を転がる雪だるまのように自動的に大きくなっていくのです。


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ここまで紹介したのは「ネットコミュニティの設計と力」の第三章、けんすうさんの執筆した内容の一部です。

前述したように、他にも近藤淳也さんやhagexさん、yomoyomoさんなどのたくさんのネット界の巨人達が「流行るネットコミュニティの作り方」について論じています。

今までなんとなく

「このサイト流行ってんなー」

とか、

「このサロン盛り上がってるな」

と見ていたものが、この本を読んでからは、中の仕組みまで考えるようになりました。

コミュニティを作ることは、人間の欲求に向き合うことです。
人間がコミュニケーションに何を求めているのかを考えることです。

長年ネットの世界に身を置いて、コミュニティと人間に向き合ってきた著者たちの知見は、ネットでコミュニティを立ち上げたい人にとって学びの多い一冊になるでしょう。