久しぶりのLINEだった。
何の気なしに送った「ザオラルメール」だった。
ザオラルとは死人を復活させる呪文であり、死んだLINEを甦らせるのがザオラルメールだ。
「お疲れさま!
久しぶり。
春の香りがしてきたので、今度春っぽい店に飲みに行きませんか?」
こんな内容を送ったと思う。
「ふふふ、何言ってるの。
飲みに行きましょう」
彼女からは明るいLINEが返ってきた。
彼女の優しさと丁寧さがよく表れた、そんなLINEだった。
トントン拍子にアポが決まり、雰囲気の良いイタリアンを予約した。
駅で久しぶりに見る彼女は綺麗だった。
初めて銀座で声をかけたときと同じように、明るく笑った。
久しぶり!覚えてた!?
うーん、半分忘れてたけど、髪型だけ覚えてた。
なにそれー
いやでも、予想以上にかわいいね。人違いかと思った。
なに言ってるのw
そんな会話をしながら店に向かった。
会話が楽しい女の子は貴重だ。
女の子は可愛かればいいってわけじゃない。
話して、楽しい気分になれるかどうかは美しさ以上に大切なことだと思う。
話が楽しい女の子は皆、頭が良く、様々な経験をしていた。
物事を伝えるには頭の良さが必要で、面白い話には面白い体験が必要だった。
料理人と素材のような関係だ。
その意味で、彼女は一流の料理人であり、一流の素材を持っていた。
会話を通じて新しい世界を見せてくれる女性だった。
あっという間に2時間が過ぎ、会計をした。
会計は二人で15,000円で当然僕が全ての支払いを済ませたが、高いとは思わなかった。
支払ったお金をどう感じるかは相手次第なのだ。
お金を払ってもらえない女の人は、
「自分が相手を楽しい気持ちにさせることができたかどうか」
を考えてみよう。
もちろんどうしようもなくケチな男もいるが、まともな社会人は、楽しい時間を過ごせたなら迷うことなくご馳走してくれるはずだ。
相手が楽しむかどうかなんて関係ない!
私以外、私じゃないの!
自分のお金は自分で払うのだ!
などと、毅然とした態度でいられる女性はある意味強い。
堂々と割り勘にして、自分だけ楽しむのもいいと思う。
ただ、奢ってもらいたいと考えるならば、やっぱり相手を楽しませることには気を遣ったほうがいい。
「お金は価値の対価」
という当たり前のことを忘れてしまうと、価値観が歪んで高飛車になってしまう。
彼女は食事中、普通に彼氏の話をしていた。
俺が恋愛の話を聞くと、彼女は少し申し訳なさそうに
「彼氏がいる」
と答えた。
いつものように彼の話を聞く。
今まで彼氏持ちの女の子とデートしたことは何度もあるが、こっちが何も話さなくても、皆勝手に不満を漏らしていた。
当たり前だ。
不満がなければそもそも他の男とデートなどしない。
僕から彼氏の悪口を言う必要はない。
ただ彼女の意見に共感するだけでいい。
多くの非モテは「あわよくばワンチャン」と考えて、彼氏をこき下ろし、
「そんな奴やめておきなよ」
と否定しがちだが、それは悪手だ。
むしろ、応援するべきだ。
「せっかく好きになれたんだから、もう少し頑張ってみようよ」
そうすると、彼女たちはこちらに害意がないことを理解し、安心して彼の愚痴をこぼし始める。
堰を切ったように漏れる不満は、どの子も同じだった。
彼氏が全く気付かないところで彼女たちは他の男と二人で会い、彼の不満を漏らし、時にそのまま別の男と寝ることになる。
男は鈍感だ。
彼氏は浮気されたことに気付かない。
この日は帰り際に手もつなぐこともなく、恋愛っぽいアクションを起こすこともなく、駅に送っていった。
このデートの目的は信頼関係を築くことだった。
中途半端に攻めるのが一番良くない。
健全に駅に送り、
「また会おうね」
と別れを告げた。
次は僕の自宅の最寄り駅でのデートを約束した。
男と女の「約束」はなんの信用性もない。
だが、この日に気付いた信頼関係は間違いなく強固なものだった。
次のアポを確信し、別れを告げる。
僕が動き出すのはその次のアポからだった。
後編に続く。